忘れられた日々達へ
事務所に私一人通されいざ商談とは言ったものの今からやるのは完全なたかり行為、信用商売どころの騒ぎじゃない。
ま、やってみようかね…ダメで元々だ。
「で、金がねえのにてめぇ等は俺に武器を作れと」
「いや勿論タダとは言わないよ……何か鉄鉱石が足りないとか無いかい?」
「いらねえよ馬鹿野郎!うちの社員にその程度こなせねえやつぁいねえんだよ!」
うーん……まあ予想通り。
「そこをなんとか頼むよー……私等はともかくこの子には武器が必要なんだよー……」
「ええい泣きつくんじゃねえ!!」
「うーん……もし特異点の素材が手に入る……としたら?」
「……特異点…だと?」
「ああそう、希少…どころかそれそのものが武器になることさえ考えられる…だろう?」
「は……あてはあるのか?」
食い付いた…!へへ……さてこっからは無策だけどどうしようかな、勢いで何でも言って見るものではないね。
『それはもはや最初から無策だったと言わんか…?』
「で、どうする?タラレバだが……特異点個体の武器、作りたくないなんて職人はいるのかい…?」
「……面白えじゃねえか、詳しく聞かせろ」
「私達は…まあまだ無名も無名だがね、海を隔てた遠い国……そこに現れた特異点の噂くらいは聞いたことがあるんじゃないかい?」
「……ほう」
「名は『黄金神鹿 ウェンカムイ』……私はそれに勝ったのさ」
殺しきってない上にあのままやり合ってたら十中八九死んでたけどな。
「……そいつの素材があると…?」
「…………や、それは無いないんだけども」
「おちょくってんのかてめえ!!」
「それくらい実力はあるから何か仕事があればなーと!?」
とはいえ証明できねえな……あ。
「素材…そいつに貰った笛が……多分本人の角笛だと思うんだけど」
以前船出のときに貰った笛、鳴らす練習とかいるのかと思って船で全力で吹いてみたらレプンカムイにそこそこな熱量で怒られたな。
「……こいつぁ…」
「目利きの具合はいかが?」
「……無理だな、仮にそいつを素材に出されても金のかわりにゃできねえ」
「……仮にも神を呼ぶ笛なんだけどね」
「……その神が何を指すのかぁ知らねえが、うちの炉じゃ加工できねえよそんな素材、まず変形すんのか?売ろうたって値が付けられるかも怪しい」
成程そっちか、確かに重要文化財みたいなものだもんね、神の一部なわけだし。
「……アンタ等何者だ?特異点に勝てるってのはあながち話を盛ってるとも言い難いみてえだが……」
「祭りの優勝候補さ、アンタの武器の名も知れ渡るかもよ?」
「言うじゃねえか…気に入った」
「そいつぁどうも」
よし、成功した、何故か。
「それじゃあ武器お願いしていいの?」
「は、タダ働きはごめんだね……てめえが言ったんだ、特異点の素材…持ってこれたらどんな武器でも打ってやるよ」
「その言葉、覚えといてよ?目玉飛び出すくらいの代物持ってきてやる」
「期待しねえで待っててやるよ、祭りまでに間に合わせろや」
「ああ、任せといて」
「どうしようね?」
「どうしましょうね!?」
「どうして!!無策で!!そこまで大口が叩けるのですか!!」
「随分いい仕事したって顔してたからどうにかなったのかと思ってたよ……ハリガネ、アンタやっぱり馬鹿だろ」
そんなに怒んなやい、ひとまずは約束はこじつけられたんだから良くやった方だろ私、なんてったって後は特異点の素材持ってくるだけなんだから。
「それができれば苦労はしませんよ…帰路に落ちているようなものでもないのですから」
「あ…あの……僕やっぱり武器なんて…」
「シャルヴ、私が用意してやると言ったらするんだまあ待ちなよ」
「……うん」
しかし実際問題どうするか……
「ハヌさん、特異点に心当たりは?」
「……アンタ以外?」
「流石に我が身…というかグラさんの身を捧げて作る武器はシャルヴが本当に使えないだろうからね?」
私でも使えないわ。
『……汝のためならばそれくらい』
確実にその覚悟は今じゃないから気にしないでいいよ。
「特異点たって……この国にゃあ少なくともいないんじゃないかい…?」
「……というと?」
「そんだけ強いとあの蛇連中が許しとかないだろうからね……アンタが倒した石像も異様に強かったが…ありゃ所詮は石像だ」
ふむ……確かにヴァジュラは特異点個体くらい強かったけど……スキル無しの殴り合いだから勝てたみたいなものだしな、今やったらボコボコにされて終わりそうだ。
……でも聞いとくんだったなあいつの本体の居場所。
「それに……今はめっきり話も聞かないが、神様連中は特異点個体かもな」
「うーん……居場所もわからない神様探して倒すのもね…」
「勝つつもりかい…」
「うーむ……」
……一度ちゃんと考えるか、特異点とは?ユニークスキルを身に着けて成った存在。
じゃあキラウシ達は?元々神様だったのが特異点個体に当てはめられた、誰に?…恐らく、神。
何の神様か、多分神様って呼び方が本当に正しいGMみたいな存在、となれば……ここの神様も特異点個体か。
何で今この国にいないのか、それはきっとキラウシ達と同じ理由……
全員忘れたんだ。
多分、輪廻転生や酒の毒で。
……そら特異点もいないわな、そこまで名を残せる奴が祭りに出たら全員ぶっ飛ばしちまうだろうし……システム上負けた奴らの記憶は失われる。
誰に負けたかはしらない……蛇連中?そんな強かったらどうにもならないね、でも何となくそうじゃない気がしてならない。
王様か、転生前に癇癪で盤上をひっくりがえしでもしたかな?まあともかく何らかの理由で敗北。
恐らく……ハヌさんも。
「……おいハリガネ?アンタ急に黙っちまってどうしたんだい?……お嬢とアンタ等の会話なんて俺は聞こえないんだかな?」
「……まいったな、特異点がいない理由が何となく考察程度にはわかったけど……どうにもならなそうなことも同時にわかってきた」
私達が相手にするであろう存在のヤバさも何となく。
「まあ、どうにかするさ……取り敢えず船に戻って作戦会議だね……」
「お、おお……大丈夫か?」
「んー?何が?」
「いや…アンタ……何かそんなに楽しかったかよ?」
…………おお、何でこんな満面の笑みなんだ私…全然気付かなかった。
「ハヌさんのこと考えてたら楽しくなっちゃっただけだよ」
「んなっ!?」
よし、ハヌさんもちょろいからすぐバグらせられるな。
『汝……』
グラさんも言ってほしいの?
『いや……無理はするな、抱え込みすぎてどうにかなるものではない』
へっへっへ、頼りにしてますぜ?文字通り一心同体だもんね。
『…………』
「よし、さっさと帰るよ……何だかお腹も空いたしね」
「おかえりだね、今日も脂の乗った魚が捕まったから煮込みでもしようかね?」
「ただいまレプンカムイ、早速で悪いんだけどちょっと右ヒレとかもぎ取っていい?」
「良くは無いよねぇ!?」
うん、まあダメで元々だ。
Q.サキュバスっているんですか?
A.います。
魔物のサキュバス。
亜人種の女性が集まってできた盗賊ギルドメンバーに対する蔑称。
自然現象。
の大きく分けて3つあります、何なら魔物はユニークいるよ。