負け犬ラブコール
「ハヌさ…」
振り抜かれる石像の腕、土煙と壁に叩きつけられる肉が立てる音があまりにもリアルだった。
まあ自分から出てる音だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。
むしろあの一瞬でハヌさんを投げ飛ばしてクリーンヒットずらしたのを褒めてもらいたいとも……結果的に死にかけてりゃわけないんだけどさ。
「グラトニカ!!そんな……アンタ何でアタシを庇った!」
うるせー……咄嗟だったんだからしゃーないやろがい!
本当に痛い時って叫べねえんだな……脳が揺れてんのか力はいらないし立てないし……まずい追撃来る。
「あ、『暴風の寵児』!クソ!クソ!やめろよお前!グラトニカが死んじゃう…!『降魔舞踏LV.5』!」
うわー……ハヌさんの蹴りとか避ける必要もねえのかこいつ……見た目通り硬いのは拳だけじゃなさそうね……
こんな石の塊素手で叩くから手も脚もボロボロじゃん……せっかく綺麗なのに無茶して……いや私のせいだが。
ていうかこいつもこいつで壁に半分めり込んでるやつにラッシュって容赦無えな、死んじゃうよ?
……そんな泣きそうな顔すんなよハヌさん、不安にしたなら悪かったけど……私達だって結構強いんだぜ?負けたりしねえよ。
それにさっきのハットに馬鹿にされてムカついてんだ……何より自分がかっこ悪すぎてね。
「……な…」
「……嘗め…んなよ……石塊」
「……!」
パンチで倒せなかったのは初めてかい?にしても随分逃げたね……拳握り潰してやろうと思ったのに。
……グラさんに任せるって言われてんだよ私は、あんまり情けない姿見せてられねえんだよ。
「……脳震盪起こしてる間に仕留めきるべきだったね、もう私は倒れないぞ…」
依然として輪郭は歪んでドロドロに見えるけども。
「グラトニカ……」
「そんな子犬みたいな顔してんなよハヌさん……私がぶっ飛ばされたくらい何だってんのさ…でも心配ありがとね」
「うん、よし……そっち座ってその手と脚休ませてな」
「石像への名乗りついでに私達が何者か教えてあげるよ、ハヌさん」
『更に先へ』!!
「【暴食王】グラトニカ様だ」
ああ……これこれ……痛みが引いて下っ腹から背骨までゾクゾク来て全身の神経が発火する感覚。
「……ふー……よし来い、もっと食らわせてこい」
「……何の……つもりだ……」
え、喋んのお前……いきなり仕掛けて来たことよりびっくりしたんだけど。
「サービスだよ、試練って言うなら手っ取り早くぶっ壊すよりその方がいいだろう?」
何より……まあ自罰だよね、あの素敵ハットだってグラさんが警戒してたのに私の心構えが足りてなかったわけだし?その結果としてグラさんに守られちゃったし……
「そうだね……あと100発だけいいよ、その後一発だけいいかな?」
「……その傲り、その慢心……悔やむことになる…」
「傲慢王のがうつったかな……アホまでうつらなきゃいいけど」
「無茶だグラトニカ!!アンタ…本当に死んじまうよ!」
「ハヌさん、待ってて……一発KO見してやるよ」
……ごめんねグラさんまた無茶する。
『……お前の物だ…構わぬ、止めても止まらぬだろうしな』
『だが、負けるなよ』
おうよ!!
「暴食王・グラトニカ……我が師の遺した宝護るため……推して参る」
「おう…来いっ!」
あー、そろそろ50くらい殴られたかね……一発一発の重さもさることながら、えらく精密に刺してきやがるね。
「……貴殿、何故思い悩む」
「…自分の強さに疑問を持ったからさ」
「私の強さはみーんな借り物だ、私自身の強さなんて爪の先ほども無いんだよ」
「……でも私のことを凄い奴だって言ってくれる人がいてね…」
「頭の回りが早い、正々堂々やらせなけりゃ天下一だ!って」
「でも……さっきちょっと怖い奴に会ってさ、私の数少ない凄い部分も引っ込んじゃった……ていうか、ビビらされたんだよ」
「その上助けられちゃってさ……何ていうか、自分が情け無くてしょうがないんだよね」
……まあ今更とも言えるけども。
「だから……こんな馬鹿みたいにがむしゃらに体張って自分を強く保たないと…さ」
「もっともっと強くなっていく相棒に置いていかれちまうんだよ」
「……負けて、負けて、ビビらされて、その上で何も思わないような私じゃ……あの子と歩く資格が……魔王の側近である資格が無いだろう…!」
「どこまで行っても私は自分の体じゃ何にもできないんだ、心まで負けたら終わりだろがい!!」
「私の心が負けなきゃ『更に先へ』は砕けねえ、なら私が後ろに下がるわけにゃあいかねえんだよ!」
「……では貴殿、何故我が師の遺した宝を求める」
「苦しむ子供がいた、自分が明日死ぬ事を覚悟して私達に向かってくる子供がいた、それ以上の理由は無い」
「………ここに来る者は己のため、家族のため、金のため…そればかりだ」
「……貴殿、宝が争いの種となったらどうする」
「私が止めるよ、必ず……まあ助けるだけじゃ駄目だからね、ちゃんとそこは投げっぱなしにはしないさ」
「……それに、意外と人間は捨てたもんじゃないさ」
実際、あの街の皆は神様に頼らずちゃんと自分たちの力で復興を進めてたしね。
「……貴殿、名は?」
「さっきも言ったろ、暴食王グラトニカだよ……まあ元ではあるけど」
「……貴殿の名は?」
「………ハリガネムシさ、名前もない……まあ今はハリガネさんって呼ばれてるけどね」
「……そうか」
「……見事な啖呵だ、ハリガネさん……小さな身体にその意地、感服した」
「君、名前は?」
「……十二薬叉が一人、金剛夜叉大将・ヴァジュラ……貴殿と同じく本人ではないがな」
「そうかい、付き合ってくれてありがとうね」
「……我は、師の宝を護るのみ」
「……だがいつか、再び相見えた時」
「……次こそは真剣勝負での立ち会いを求めん」
「ああ、約束するよ」
「短い時間だったが……良い戦いだったぞハリガネさん……最後だ」
弓のように引き絞られたガチガチの石の体、それはそれは見事に体重も何もかんも乗せた打撃、真正面からやりあってもまあ辛い相手だっただろうな……でも
これで……100発だ。
……折れないよグラさん、私はまだまだ折れないから。
傲慢王もハットにも、負けないから。
見てて。
「ヴァジュラ、またな」
「……ああ」
「『砕け散れ、我が宿業』ぁぁぁ!!!」
今日のQAコーナーはおやすみよ!!
そして質問なんやけど設定資料纏めやあぶれ話を乗せる場所みたいなのを近いうちに作ろうと思うのですが、読者の皆々様的にこうしてほしいとかあれば感想欄や私のTwitterから質問箱の方にご意見お願いいたします!
また感想質問は常に募集しておりますのでそちらも是非!貴方の質問が作品の後書きに乗ります!