狂人マッドハット
金剛力士像……いやちょっと違うかな。
「こんご…?」
「私の故郷にあった像だよ、詳しくは無いけども」
「へえ、アンタのとこにもあるんだなこういうの」
「あれ、ハヌさん見たことある感じ?」
「こんなもの色んなとこにあるよ、ここまで綺麗に残ってるのは珍しいけどな」
こんな代物がそこらへんに…?
でもここインドモチーフなのに……まあ仏教ってインドからだし間違ってないのか?いやインドだっけ?……じゃあサンスクリットは何者だ?
まあいいや。
「あの金剛力士像持って帰って売りさばいたらかなりの金額になりそうじゃない?」
「アンタあれどうやって帰り道通す気なんだよ…」
「……一回バラ…いや無理だな、うん」
ちぇ、仕方ないさっさとあの妙な小屋から薬盗んでおさらばしよう。
「これ鍵とかかかってないんだな、開けるぞ?」
「……念の為ハヌさん下がってようか、罠がないとも限らないし」
ちょっと緊張するな……オープンセサミ!
「……やあ」
一回閉めよう。
ふぅ………………今マジシャンみたいなのいたな。
「おい今何かいなかったか?」
「いたね、素敵な帽子の男が優雅にお茶会催してたね」
飲んでたのは紅茶かな?木製の床に合わない高そうな椅子と机も運び込んでたのは拘りがうかがえるね。
「……開けろよ」
「待ってくれ、混乱してるんだ私も」
グラさん……
『わからん』
何も聞いてないのに!?
『いや……今、確かに我は『拡張解析』を使った……なのにステータスやスキル…その全てが読めぬ……』
……マジな奴か。
「開けるよ、ハヌさん今度はもう少し……できればあの像の後ろ……いやもう来た道まで下がっててくれるかな?」
「お…おう……大丈夫か?」
グラさんと深く繋がってる私だからこそどれだけ焦っているかがわかる。
この扉の先に居た紳士はそれほどまでに魔王をビビらせる何かだ。
……グラさん、いざとなったら使うから…そのつもりで。
『……ああ』
「……マジシャン?」
「第一声それかネ」
「……こ、こんにちは」
「はいこんにちは」
「えー………あー……」
………グラさん!!
『ええい我に振るな!貴様の普段のお喋りはどうした!』
格上を前にした私は無力だよ!!しかもこいつ何があれってさっぱり見た目そのものは怖くないんだもん!!
これならまだラブハート氏の方が怖いまである、色んな意味で。
「いやぁ……君等が来るの遅かったもんだから私た~っぷり時間潰すハメになっちゃったじゃないかネ」
「もうお茶飲みすぎて膀胱は爆発寸前って感じだしぃ……時間も潰されすぎてウンザリしちゃったって言ってるよ?」
またキャラ濃そうだなこいつ……
「……それは申し訳ない、私は」
「アビス・ゴルディオイデアのハリガネさん……それから元・暴食王のグラトニカだネ、わかっていまするとも」
「…あ、申し遅れたね、私はハット、帽子売りのハット……聞き覚えあってはっとしたかい?……ふふ…ふふふふ……ぶははははははは!!!失礼、水銀の飲み過ぎで頭がちょっと」
……『更に先へ』!!!
『汝!やる気か!?』
わからん!!でもこいつヤバい!!ハリガネさんセンサーが叫んでる!!!
「おっと、やらないよ?その物騒なもん下げてくれたまえよハリガネさん……私は別に戦いに来たわけじゃない……っていうかただの帽子職人なんだから」
「今日はこれを…持ってきたのさ」
おもむろにハット帽を外した下にてらてらと光る赤と白の…脳味噌…?
………ごめんグラさん…私……逃げたい……
「んーぬぬぬぬぬぬ…か、痒かかか……ジャッジャーン!このお茶会の招待状を渡しに来たってわけなのネ」
「ほら………受け取って?使っただろ?『一回休み』その景品みたいなものだ…ほら」
ヤ…バいヤバいヤバい……!!
く、口の中が乾く…頭が軽くなる…あれ……くそ……私浮いて…る?
「………控えよ、下郎が」
……え?あ…グラさん!?
「我が同胞を驚かした罪、如何様にして償わせてやるかは後だが……そうだな、先ずはその穢らしい物を下げるがいい、目障りだ」
「おんやぁ…こりゃ失礼、私のお脳が付いちまってやしたね…これしっかりと拭いてと……」
グラさん、大丈夫だから代われ!そいつの言葉は何かヤバい!
「あー、グラトニカ……このお茶会は陛下がハリガネさんを誘っているのねー……あ、いやちょい待……」
何だあれ…辞書?
「んー……えーと招待客に関する法律は……あったあった、一人で来るのに日が暮れちゃう場合はそれまで陛下が待ってられないので一人だけ同行者を許可する…これだ!んじゃあ改めて……どうぞグラトニカ」
「貴様の無礼……先程から極まっておる、誰に断って我が名をその薄汚い顔に付いた口で呼んでいる?」
「不愉快だ、疾く失せよ」
「んん……効いている筈、なーんですけどネ?まあいいや、そんじゃ渡すもん渡したんで帰りますわよー」
「おっとおっとその前に……ぶっ潰しといた時間を戻さなきゃ…」
「待て、貴様……そこに薬が無かったか?」
「ありありのありまくりでしてよ?でも……あげなーい、だってこれは私が陛下にプレゼントするんだもん……ていっても君とここで奪い合うのも面倒だな、渡さなきゃ向かってきちゃうだろうし」
「よし、代わりに答えをギブユー故にここは一つ見逃してもらいやすでがす……あそこのお像の試練をクリアしたらお薬いただけちゃうので頑張ってネ」
「そんな戯言で逃がすと思うか……」
グラさん!深追いしなくていい……何より今やるのはヤバい…でしょ?
「………ふん」
「お気遣いありがとーなのねーん!じゃ、おさらば」
赤い霧…?
「……生体反応が消えたか、ふむ……」
「おっと……ごめんグラさん…ありがとう」
『案ずるな、だが少し疲れた……帰るまでは汝に任せるぞ』
……うん。
……また護られちゃった。
「お、おい…大丈夫かー?」
やっべ忘れてた。
「さっきの男は?」
「見てただろう?いなくなったよ」
「見て…は?そもそも俺はアンタから一切目を離さなかったのに急に位置が変わってるわ扉は開いてるわで混乱してるんだが」
やっぱさっきの時間が云々は比喩でもなんでもねえのか……何のとは言わないけど時間停止物は9割が嘘な筈だからかなり珍しいスキルだな、ユニークか?
「……とにかく大丈夫だったのか?薬は?」
「ああ…ええと薬はあの像を……」
……像が無い。
いや厳密にはある、移動している。
それは今まさに私のことを心配そうに尻尾を揺らし見ているハヌさんの後ろに……
「……あ」
Q.ハヌさんって男の娘だったりする?
A.明確に女の子、ジェンダー的にもそうだし内臓が霊長類の雌に近い
Q.【○○王】って性別が女性じゃなくても付くの?
A.性別が存在しない種族も幅広くいるせいで基本的には【〇〇王】になる、ただし女性であることが条件になる存在は女王の称号を持つこともある