口程強い武器はない
「あー!君ぃ……この間はハヌが悪いことをしたね……でも、穏便に済ませてくれたんだろう?」
「やあアブドゥル、こちらこそ早とちりで殴って悪かった、ハヌとの誤解も解けたしもう心配ない」
「今の私はそちらがわだ」
「おお!それはそれは…いやーハヌに任せてよかったよかった……そうだ改めてちゃんとした酒を1杯注がせておくれよ」
「いや、やめておく……この後も祭に向けてまだまだ練が足りないからな」
「そうかい……残念だな…」
「ふふ、そんな気を落とすなよアブドゥル……祭りが終わったらその時は一緒に乾杯しよう、お前のコレクションも一緒に……な?」
「おぉ…!そういうことなら是非!!いやー、君話がわかるなあ!!」
……というわけで潜入は問題無さげだね、怒るなよグラさん。
『……この男の見た目も、魂も、纏う気配や呼気の1つまで身の毛がよだつ…この場で殺してしまいたいほどだ』
……まあ気持ちはわかる。
『………ところでコレクションとは?』
知らない、適当に話してたら向こうが異常な食付きを見せたから乗ってみただけ。
「ねえねえ、ところで君薬が必要だったんだろう?どうしたんだい?」
「ああ、非人にそんなことをしてはいけない何て知らなくてね……ふん、あの時の我はさぞかし場違いに見えたんだろうな」
「いいんだよわかってくれたなら、その非人はどうしたんだい?」
「言わせる気か?お前と同じさ」
「そうこなくっちゃ!祭りの時は是非僕にもね!」
『…汝……』
わかってる、私でも反吐が出るさまったく……
「だがな、このまま放って置いたら死んでしまいそうなんだ、それこそ祭りを待たずにな」
「えぇ!本当かい?でもそれは……」
「なあ頼むよアブドゥル、わかるだろ?お前と我は同類だ……一度欲しいと思った存在は味がしなくなるまで咀嚼しないと気がすまない……」
「そんなお前がせっかく祭りのために用意した御馳走を直前になって腐らせてしまいました、なんて……耐えられるか?」
「そ…それは……」
「なあアブドゥル、お前はたまたま薬を少し持ってここに来るんだ、酒を飲みにな?酔っ払ってたらまさか余所者が薬を持っていくなんて誰も思わないさ」
「さあ…我を助けると思って、御馳走にありつくなら今、ここで行動しなきゃだぞ?」
「………ちょっと、僕風邪気味みたいだから薬取ってくるね!待ってて!」
……な?上手く行った。
『………』
怒ってるの?……まあいいや。
『戦慄しておる………だが気に入った…それでこそ我の認めた汝よ』
あんまり褒めるな、照れちゃうだろ。
『拡張解析LV.10』
[生の果実、腐敗:無し、摂食可能]
[熱処理を施された肉、腐敗:無し、摂食可能]
ふむふむ、この辺の食べ物は問題なさそうだね……ガメよ。
ほいほいほいっと、うわこれ美味そ、回収回収。
『我の肉体に食事は必要ないというのにか?』
食べなくてよくても食事は楽しいからね、不必要なことをするのも人の性ってもんだよ。
人でも無いけど。
っと帰ってきた……
「お待たせ!ほらこの薬、貴重だから少ししか貰えなかったけど……」
「ああ、十分だ助かる……なあアブドゥル、ハヌってその…家族はいないのか?」
「え…うん、あいつは独り身だし皆で集まって飲んだりもしないかなあ…どうしたの?」
「いや……忘れられないだけさ」
「……あ、そういう…ふふ…頑張ってね」
『貴様我の身体であまり妙なことを言うでないぞ…』
口からでまかせさ、ハヌさんとデキてるくらいのが一緒にいる部分を疑問に思われないだろう?
『むぅ……我には汝が…』
でまかせだってば……ハヌさんにも許可は取ったしね?えらく微妙な顔はされたが。
まあ何にせよ薬は手に入ったし……一回帰ろうか、どの道ここにいても祭の日はまだまだ先だからね。
『うむ……そうだな、一度船に戻るとしよう』
「よし、じゃあアブドゥル…またな」
「うん!!祭で!」
「そんなわけでお薬ゲットしました」
「アンタいないと思ったらそんな…はぁ!?」
わ…ハヌさんが見たことない顔してる。
「よ、よく薬が手に入ったな!?」
「ふっふっふ、私の口の上手さを甘く見たらいかんよ……何でそんな悔しそうな顔を?」
『我等が薬を手に入れたら協力する理由が無いからであろうたわけ…』
「……ハヌさん、私は娘達があの子を助けたいと思うように、君のことも助けたいんだ…今から私が裏切って雲隠れするかもなんて寂しいこと考えるなよ」
異世界だからか多少臭いこと言っても刺さること多いし手とか差し伸べてみちゃおうかね、いやグラさんの顔の良さ的に向こうでも通用するかしら?
「協力者なら信用してくれ、私は君の味方だよ」
「…………アンタ…心でも読めるのか?……ああくそ…こんなので絆されるなんて…」
流石グラさんの美貌……ちょっと狡いレベルだな。
『この者が極端にやられやすいだけだと思うが…』
チョロイン度で言ったら君とどっこいどっこいだけどね?
「はいはい、娘の前でパートナーの身体を使って女性口説かないでくださいね」
「わぁいたの……ブレ子、薬手に入れたからこれ飲ませてあげて?拡張解析は済んでるから問題ないよ」
「な!?え!?何で!?」
「昨日テメエが散々話聞かずに私に説教かましたから流石に本気出したんだよ、あの後正座しすぎで爪先の感覚しばらく無かったんだからなこの野郎」
「お…おお…えー……流石お父さん」
「ほら、パパすご~いって言ってご覧、ほら」
「パ……」
「声が小さいぞー?ほらほぐほぉ!?」
誰だ誰だ今尋常じゃない横槍を入れたのは……
「………何してるの?」
「お嬢ちゃん、人の腰を船の床材でフルスイングしてはいけないよ?ハリガネさんじゃなきゃ腰いわしてるからねこれ」
「良くやりましたねミリア……あ、薬が」
「聞いてたから知ってる、早く飲ませよう」
「ハリガネさん…私………お母さんは一人でいいから」
『致命的な勘違いをされていないか貴様』
おかしな昼ドラみたいになりかねないから後でもう一回弁明するね。
質問箱より
Q.グラさんのエネルギー問題はどのようになったのですか?
A.ムカデ形態時:大量に消費する代わりに食べたものがエネルギーに置き換わる速度が高速なので目につくもの全部食べながら単独で大暴れするだけで生態系を破壊する。
人形態時:事実上水分や食物、酸素まで必要としなくなった代わりに摂食からエネルギーを得ることができなくなった、ただし人の形になる時半神としてのほぼ全ての権能使って体内にエネルギー炉を作ったから徐々に回復し続ける。
何でも食べて即エネルギーに変え続けてるからいつまでも戦っていられるって『暴食王』としての一番の権能を失った代わりに下手すると呼吸さえ不要になったのがグラトニカ。
下手するとって言うのはグラさんが自分の能力をそこまで理解していないところに問題がある。