猿の奸計
グラさん、ワインの毒に耐える自信はある?
『……わからん、だがそもそも我が耐えたとて貴様は体内でその毒入りワインを浴びることになるのではないのか?』
そうだわ、そう言えばハリガネさんin胃袋だったわ。
「ねえ、どうしたの?飲まないの?」
考えろ私……何かナイスでベストな案を……
よし、ぶん殴るか。
「っがぁ!?な…何を急に…!?」
グラさんの顔で急に殴りつけてから胸ぐらつかんで引き起こして凄んでみよう、ハリガネさんがやられたら号泣する、メソメソ泣く。
『……我顔怖いか?』
子供は怖がるだろうね、スマイルが足りない。
さて……
「毒入りワインとはな……我を舐めるなよ下郎が、『拡張解析』すら使えぬ雑魚と踏んだか?無礼にもほどがあるぞ」
「うぐっ…何言って…毒?そんなはずは…」
すっとぼけんじゃねえ!ネタは上がっとるんやぞコラ!
「この中に解析使えるやつはいるか、このワインに…」
「そんなことしなくていいよ」
お?誰だ今の。
「そんなことしなくていい?今毒殺されかけたのに…か?」
「だって……毒入れたの私だもん」
背の高い石造りの家の上から…獣……いや人?まあ、獣っ娘か。
「お前かハヌ!!この街の恥晒しめ!!こっちにこい!」
おわっと降りてきた…
「ごめんね旅人さん、でも…悪く思わないで?毒キノコでお腹壊したら喧嘩祭りのライバルが減ると思ったから」
近くで見ると所々に見える獣的な要素と滑らかな腰付き…それに長い尻尾。
「ふふ…『拡張解析』まで使うんだ?それも結構レベル高いよね?」
「いやぁその…ま、まあちょっとだけ…」
近い近いこの人距離近いよ!?モテるねグラさん!
『我か…?』
お前の面だろうがよ!
「お詫びに…私の家に招待するよ、嫌?」
「えっと…じゃあその少しだけ…」
今さっき毒盛ろうとした奴にこれか、まあ十中八九罠だろうけど……もしかしてこれってハニートラップ的なあれなのかな?
『まさかとは思わぬが貴様…』
引っかかったフリだよわかってんだろ……そもそも私等二人共どっちでもないじゃん。
「じゃ…こっち来て?」
「ああえっと…殴って悪かったなアブドゥル、後で話そう」
「え…おう、大丈夫だよ、あー…楽しんで?」
笑顔でピースしとこう、何で笑いかけてるのに青ざめるの…?
言われるがままについてきたけど……随分辺鄙なとこだな。
……さて。
「家はこのさ…あぐっ!?」
んー、細い首……グラさんの膂力なら一息で頸椎粉砕即死コースだね。
「うっ…ぐ…何…を…!」
「……貴様の命は今まさに我の手中だ、文字通りな」
「ま…って……はな…し…」
『汝、何か喋ろうとしているが』
あ、いいのいいの…ちょっと待ってね。
「話?何だ今度は、誘惑が効かなければ別に打つ手でもあるのか?このまま縊り殺した方が話が早いであろう」
「ちが……ああもう!『暴風の寵児』!!」
「っ!?『加速LV.10』!」
っと、やっぱり攻撃方法隠し持っていやがったなこの野郎め……ハリガネさんにはお見通しですよ!!
『……その割に随分遠くまで逃げたな』
いやほら……風が吹いたから…ホロケウカムイみたいな技だったらヤバいなって…目測20mくらいは離れようものだよ……
「ゲホ…話聞けよ…!あー…いってえ…」
正体表したな!やるぞグラさん!
『……やるのか…?』
いややらない、やるにしても話聞いてから人知れず。
「あー…助けるんじゃなかったかなクソ……痣になったらどうしてくれんだよ…!」
「助け…詳しく話してくれる?」
「言われなくても話すよ…クソ馬鹿力が…」
「お前……あそこで俺が話しかけなきゃもっと面倒臭い事になってたんだからな?あの酒瓶の中身が毒キノコなわけねえっての」
「……そうなの?」
「そりゃそうだよあんなとこで非人を拾って助けたいなんてほざいたら…上手く引き離したから良かったものを、感謝どころか縊り殺されかけるとはね!?」
「話が見えねえってんだよ、アンタとアブドゥル達は何者?」
「一緒にすんなあんなクソ蛇共と…」
蛇……豚寄りじゃね?いやトドかも。
「あぁ…一から説明してやるから取り敢えず家まで来なよ…もう首絞めんなよな?」
「ふん…お前の発言や態度次第じゃ骨も残さず溶かし殺してやってもいいんだぞ?」
「溶か……恐ろしいなアンタ…」
『いい加減その我の真似…なのか?それをやめても良いであろう、この者が嘘を言っているようには見えんぞ』
それもそうね。
「まあ冗談はさて置き、さっきは悪かったね、痛かったかい?」
「な…二重に恐ろしいな!?何なんだアンタは!」
『ややこしくなるから今後口調や態度は一貫せよ…』
うん…そうする…
「演技よ演技、私は…あー、グラトニカ」
「そう…俺はハヌ…猿人だ」
猿人…チンパンじゃなくてニホンザル寄りの丸顔なんだね。
「アンタも亜人種じゃないのか?」
「……ちょっと…肌質硬い人間です」
『もっと言い方無かったか?』
元暴食王で今は寄生虫のとこに永久就職しました!とは言えないだろうよ。
『何処かの国には蟲人と呼ばれる者もいるらしいが…姿かたちがわからんから何とも言えぬな』
「へー、そう…隠すんだ?まあいいけど……俺が助けてやったこと忘れんなよ」
「ああいやそういうわけじゃ……複雑なんだよ産まれがね、アンタもその口だろう?」
知らんけど。
「……早く来い」
『怒らせたのではないか?』
初手で首絞めてんだからこの後ハニー抜きのトラップでもあんま文句は言えないよね。
「ほら、ここが我が家だ……座って待ってろ」
石をくり抜いたみたいななだらかな壁に植物…麻系?の日除けやら何やら…まあ家はいいや。
「そんで、話とは?」
「ああ…アンタ演技は得意か?」
演技とな……演技…ふふふ、ハリガネサンは大女優さ。
『ツッコまんぞ』
ごめん某ゲテモノの残留思念が。
「ああ勿論、でもどんな?」
「あー……薬漬けの気狂い?」
………素で行けそうだな。
先週はお休みいただいて申し訳ありませんでしたわ!!




