上陸開始
「どう…しましょうか」
んー、どうしたものかね……お薬…あるかなあ。
「あっても高額だね…それこそ医療に特化してる国か…医療師の職でもなけりゃ厳しいね」
「レプンカムイお金持ってないの?」
「ポケットがあるように見えるかね?僕に金銭は期待しないほうがいいね」
ふむ……うーん……
「ごめん……ハリガネさん」
「自分とこの子が人助けしたいって言ってるのに怒る親はいないよ、でもどうすっかな…」
「食い物に困る生活では無いとは言えど私達もそこまで裕福では無いからなあ…ブレ子の鎧売るか」
「聞き捨てならない言葉過ぎてびっくりするんですがお父さん……」
「やあブレ子、あの子の容態は?」
「お粥を半分ほど食べて寝ました……高熱というほどではありませんが放っておけば……」
……グラさんや。
『治療に使える物は無い……自己再生はできるがな』
だよねえ…
「……よし、取り敢えず上陸して薬は交渉しようか」
これが例えばイベントやサブクエスト感覚なら多分だけどどうにかするだけの道はある気がするし……ていうか攻略法無くNPCが死ぬだけのイベントとか入らないだろうし?
「何とかなるさ、今までだってそうだったんだから」
「……いざとなったらブレさんの鎧を売るけど…それは最終手段にしたいもんね…」
「ええ本当に、全ての案を出し尽くした先でお願いしますよ、いや例え出尽くしてても嫌ですが」
「あ、そう言えばさっき魚捕りに行った時についでにちょこっと見てきたけどね、特に入国は厳しく無さそうだったね」
「あ、マジで?ありがとう助かるよ」
食料調達と斥候までしてきてくれるなんて…なんて優秀な操舵手なんだ……獲ってきた魚の身がそれはそれは鮮やかな深緑だったことは忘れよう。
「じゃあ取り敢えず出発しちゃうね、港まではちょっとあるから待っててね、普通の帆船っぽくしないといかないからこっからは風読みながらなんだ」
まあ特殊なモーターボートみたいなノリだったもんね、ゆっくりでいいよ。
「では儂は引き続き容態を見ております」
「……私も、着いたら教えて」
「はいよー、じゃあ私はちょっとナイスな案を考えるさー」
『で、どうする気なのだ?』
……最悪船売るかーって感じ、ぶっちゃけ現時点で薬の金額はわかんないけど…私達がコオロギやゴキブリモドキを食べながら生きる生活に戻っても足りない可能性がデカいもん。
結構辺境伯から貰っちゃいるけどね…
『……貴様等そんな生活を?』
まあ……最初の内は本格的にお金なかったから……
『船か……だがその後の航路はどうするのだ?』
船はまた買い直しゃいいかなって、それに……今となっちゃ地理が微塵も役に立たないけど最悪陸続きで別の国には行けるっしょ。
『…………そこまでするほどか?』
娘がそうしたいって言うならケツ拭いてやるのは私等の役目だもん……でしょ?
『……だな』
……めんどくせー、放り投げてーってのが本心ではあるけどね。
『だが貴様はそうしないだろう?貴様は…喧しいが良い奴だ』
君の中に居るうちはね。
『ならば安心しろ、ずっとそうなる』
……いつか私が闇落ちしても?
『……その時は殺してやるさ、その後我も後を追う』
そうならないことを祈ってるよ、君に死なれたくないし。
『……ふん』
「皆、着いたよー」
「ありがとうレプンカムイ、君はこれからどうするの?」
「んー、ついて行ってもいいけどね……目を付けられたら面倒かもしれないから取り敢えず船に居るさね」
「あら留守番?ブレ子とミリア嬢ちゃんは?」
「儂は……ミリアについてます」
「……私はあの子見てたいから…」
「結局単独行動じゃねえか、いやまあ一人と一匹……ん?普通に二匹?まあいいや」
『おい貴様、我と二人では不満か?』
不満は全く無いけど……この国の言語も何も知らないし通貨もわからないし文化もミリも理解してない部分が不安でしょうがないんだよ。
『言語はスキルがあるが……確かにそうだな』
前に居た世界じゃ国や宗教次第じゃ色んな差別だったりで問題になってたからね……文化の違いってのは大きいものさ。
まあコソコソしても結局薬の交渉はするんだけども。
「よし、じゃあ私とグラさんの二人でちょっとデートしてくるね、レプンカムイは娘達を頼むよ、お土産は?」
「そうだね、あれば強ーい酒を頼むね」
「お?いける口?」
「ふっふっふ……まあ昔酔って暴れて熊神にぶん殴られたからしばらく辞めてたがね……そうだね少し…うん、少しだけ買ってきて欲しいかね…」
「い、色々あったんだね…」
「それじゃあ行ってくるよ皆の衆、無事を祈っておくれ」
「行ってらっしゃい、ハリガネサン」
「ご武運を」
「行ってらっしゃい…」
………で、これかい。
街に出た瞬間人、人、人……でっぷり太ったおっさんがデカい肉を食いながら瓶入りの酒を飲み干し、裸に綺麗な布巻いただけみたいな男女が踊り狂ってたりとまあ……
これが酒池肉林ってやつなのかな?傍から見てみるとあんまり面白くなさそうって感じるのは私がハリガネムシだからだろうか。
いやしかし…グラさんこれは……
『……貴様が想定してるようなものではない、これはこの者共の元々の性分であろう……悍ましい限りだがな』
まあまあ、欲望に忠実なのは良いことさ……多分ね。
「君達!あんまり見かけない姿だけどここに来たって事は祭りの参加者かい?」
っとわぁ……おっさんがおばさんかわからない人が話しかけてきた。
「……ああ、そうだが…貴様は?」
ちなみに今話しているのは私さ、こういうのは最初が肝心だからね。
『我の真似か?なあ、我の真似かそれは?』
「俺はアブドゥル、祭りの参加者の一人さ!」
「そうか、祭りの噂を聞いてやってきたが我は情報に疎い…教えてはくれまいか?」
「もっちろん!!さあこっち来て座んなよ、旨い酒も肉も沢山あるよ!」
『……汝、手を付けるなよ』
わかってんよ……ごめんグラさん、生き物以外のありとあらゆるものに『拡張解析』し続けてもらえる?
『ふん、造作もない…』
「それで祭りというのは?」
「そりゃあ祭りっていったらこの国ターハルの伝統、ターハル喧嘩祭りじゃないか!」
「喧嘩祭りとは物騒な…」
「物騒?ああ、君はもしかしたら始めての参加なのかな?まあでも一回でも参加してたらこのアブドゥルが知らないわけないもんね!」
……ん?
「なあ…えーとアブドゥル?喧嘩祭りってのはそんな頻繁にやってるの?」
「まさか、この国の王様を決める祭りだよ?まあもっとも……資格がなけりゃ勝っても真の王様にはなれないけど」
「……お前何歳?前回はいつ?」
「え……何歳ってそんな、覚えてないよ…前回は確か50年は前だったかな?」
……そんないってるようには見えないけど……ギリギリまあありえる範囲かな。
「そうか、えーと…祭りの具体的な日取りは?」
「次の満月だからえーと…20日後くらいかな、今から楽しみで眠れないね!!」
「……そ、そうね…あー……ところで薬とかない?破傷風に効くやつ」
「破傷風?怪我してるのかい?」
「ああいや私じゃなくて……さっき拾ったガリガリの子供が熱出してるみたいだからさ」
……?何で急に音楽も踊りもやめて……あ、これ皆私を見て…る?……やべ。
「……………拾った?」
『汝!』
「あー、あー……皆、続けてていいよ」
「アブドゥル……これはいったい…」
「いやまさか…俺の勘違いだよ、そうでないとおかしい……まさか力もない金もない非人の子供に薬を恵んでやるって言ったように聞こえたからさ」
「そんなこと許されるわけないのにね、ごめんごめん驚かせちゃったね、まあお詫びの印に一杯」
コップに継がれる紫の液体……ワインかしら…『拡張解析LV.10』
[葡萄酒
状態:冷
バースキの毒が混入]
[推奨:非飲]
「どうしたの………飲みなよ?」
っ……やっべぇ……
Q.『産卵』『単為生殖』『一回休み』と眷属が産まれる条件とかってあるの?
A.単為生殖はその名の通りハリガネムシの体内にて有精卵をハリガネムシ本人の遺伝子情報から精製するスキルで、この卵自体は常にガチガチの耐性で守られてる。
そんで産卵ってのはゲームで言うところのセーブみたいなもので単為生殖で作った卵を場所に固定することができるみたいな。
要するに産卵はいくら耐性があっても腹に入れたままハリガネムシが即死するレベルのダメージを負うと卵そのものが破壊されちゃうからそのリスクを回避するためのスキルにあたるね。
そんでもって一回休み、これはまだ開かせる情報が少なすぎるからご勘弁願いたい。
眷属ってのはハリガネムシが辿るかもしれなかった道が封じられている事への救済措置、名前だけ出てきてるあいつはもう少し後に出てきます
Q.グラさんにユニークスキル持ち逃げされてるムカデ一家が襲ってきたりしないの?
A.気持ちの面ではさっさと奪い取りに行きたいけど割とそれどころじゃない。