敗北と言うスタートライン
血を吸って…吸血鬼…!?ともかく…こいつ、ヤバい!!
ごめんレプンカムイ!!巻き込むよ!
「『強制停止命令権LV.10《Extend4》』!!」
「おっと……これはまずい」
っ!?『強制停止命令権』が効いてない!
『違う避けられた、来るぞ!』
「おいおいおいおーい……落ち着いてくれないかお前達、別に危害を加えに来たわけじゃないんだぞ俺様は」
「じゃあそこで干乾びてるうちの船の操舵手はどう落とし前つけてく……れ?」
あっれ…いつのまに回復してるわ。
「本当だよね、分身とはいえ痛くないわけじゃないし結構苦しいんだから辞めてほしいよね」
「結構余裕ありますねシャチゴッド……知り合い?」
「いや?さっぱりだね、だから何よりムカついてるよね」
「空っ欠まで吸ったと思ったんだが…何だ人間じゃないのか、どうりで不味いわけだな」
「カムイの生き血なんてそうそう飲めるものじゃないんだから珍味と言ってほしいものだね」
いや…いやいやいや、めっちゃ普通に会話してるけどレプンカムイでもなけりゃ死んでた状況だぞ…?敵…で良いんだよね…?
「……ハリガネサン心配しなくていいからね?普通に僕は怒ってるし事態も把握している……何よりやっと今溜まったからね」
「『喧々轟鯱LV.10《Extend10》』」
それは鳴き声と呼ぶにはあまりに激しく攻撃と呼ぶにはあまりに単純で戦闘と呼ぶにはあまりにも……圧倒的だった。
レプンカムイを起点に発生した恐らく鳴き声からなる音の波紋。
船を傷付けないよう配慮されてるであろうそれは空気を歪ませ、音であるはずなのに確かに私の目にも灰色の円が見えた。
そして、それが人体……多分人体に当たると同時に灰色は赤色に侵され、己の形を捧げるように命を真っ赤な煙へと変えた。
「粉々…なんてもんじゃないね…子供にゃ見せられない光景だぁ…」
「単純にわっ!と叫んでやっただけだがね……撃つまでに一回本気で吸わないといけないから時間かかっちゃったんだよね」
「御見逸れしました……こりゃいよいよキラウシに勝てたのもラッキーパンチと時の運だな」
「それはもう全部ラッキーじゃないかね…とはいえキラウシは別に喧嘩好きな神ではないからね、案外実力かもね」
だと良いんだけど……
「てか首大丈夫?」
「僕の巨体から考えればあんなもん掠り傷にもならないね、見た感じ吸血種っぽかったけど……知り合いじゃないんだね?」
「知らぬ……だが」
っと、心当たりあるのグラさん?
「……あれは……我と似た何かだ」
「恐らく死んでは居らぬ、急ぎ上の二人を船の中に入れよう」
「御明察だな、暴食王……いや今は違うんだったか?」
肩口に食い込む爪の感触……ってめぇ!!グラさんから離れろや!!
「『無双腕・百LV.10』!」
「別にお前とは話すつもりもないんだが…まあいいか」
うっそだろ!?鹿でもぶっ飛ばせたんだぞこれ!
てか回復にしても早すぎんだろ!?
「申し遅れたな、俺様はアロガンタ……《傲慢王》アロガンタと今は呼ばれているよ」
「傲慢王かね、ああ…なら喧嘩するのは面倒くさそうだね」
グラさんと似たようなシリーズか……まあ出てくんだろうなとは思ったけど。
「ま、先程の攻撃……口撃かな?あれは大目に見ようじゃないか、俺様は寛大だからな」
「……だが貴様は駄目だな、暴食王……平伏し給え」
「がっ…!?」
っぐぅ!?な…ん……重…!!潰れ……!
「てめっ……くっそがぁぁ!!」
「……ほう」
グラさん……無事?
『大して損傷は無いが……』
「ハァ……フゥ…いきなり何しやがるてめぇ!」
「いや…いやいやいやはや……驚くべき馬鹿力だな暴食王……そもそも腕力で防ぎきれるようなものでもないのだが」
無視か?お?虫は無視する気か?……うん真面目にやるから静かに怒りを溜めないでグラさん。
『…………』
「ああそうか、二人分の意志力が一つの体に…成程、それはそうだ、一人ごときこの俺様の力で屈伏させられぬものか」
「あー…何とも度し難いな貴様、不愉快だ」
「……うん、いいか、いいな」
「お前ここで死ぬといいぞ、ああ…死に給え」
死ね…死ね……あ……死な…なきゃ……?
[本体よりリクエスト確認]
[強制排出準備]
『■■■■■!■■!』
『■■■!!■■■■■■!』
あ……何だ…うるさいな…私はこれから死ぬので忙しい…んだ…
[リクエスト承認、接続の切断に成功しました]
「!■■■■!!■!?」
死ななきゃ…早く…
早く………あ…死ぬのか……
皆は…?
皆……皆…?
………さん…
グラさん……
会いたいな……最期に…
…………っ!!グラさん!!
[再接続、承認]
『おい!汝!』
『良かった…大丈夫か!!?』
取り敢えずは…!
「……私に…何しやがった…?」
「んなっ…お前……本当に忌々しいな!」
「はぁ…?俺様が直々に命令したんだぞ!?何で素直に死なない!そんなの……勿体無いだろ!?」
「は…?何言ってんだお前…」
「聞く耳持たないでね、ハリガネサン」
レプンカムイ…?どこ行った?
「どっこいせっとね!」
おっわぁ!?水!?
てか子供の頃夢見たプールサイズのスライム……あ、違うわ、よく見たら半透明のシャチだ。
「傲慢王、あんな僻地じゃ聞かない名前過ぎて全く覚えてなかったけど…今代は吸血種だもんね、そりゃ分解しても戻るよね」
「ああ、俺様は無敵だからな……何故そんな当たり前の事を?」
「いや?ただ死なないなら勿論こんな攻撃避けないよね?」
いや…死なないのと食らってくれるのじゃまた別の話じゃ…
「お前………誰に言ってるんだ、最早不敬だぞ」
「食らってやるに決まっているだろう、馬鹿な奴め……さあ好きにしろ」
「……………馬鹿でいてくれてありがとう」
瞬間、この傲慢王と名乗る生き物が何なのか本能で理解した。
馬鹿だわ。
レプンカムイの体……海水になってるのかな?まあそれにジャンプして取り込まれたと思ったら一瞬で暗い暗い海の底まで引きずり込まれていってしまった。
「………え?」
終わり…?
「……よっと……ふー…」
「お、おかえり…?」
「あ、ただいまだね……いやぁびっくりしたね、旅立ってすぐにこんな目に合うなんて…災難だね」
「いやそりゃ本当に……うんそうじゃなくてな?」
話のテンポ早すぎてわけんからんのよ、何が起きた今。
「折角だから底の方にいた奴に渡してきたんだね、まあいくら吸血種でもしばらくは上がってこれないだろうね」
「底の方に……例のクラーケン?」
「うんにゃ?旧知の友人って奴だね……何でも食べちゃうし場合によっちゃ僕も食べられるからあんまり近くにはいたくないがね」
グラさんみたいな奴だな…
『今はそうでもないだろう!』
「ま、ともかく今頃腹の中だし出てきても深海だからね」
「いやー……君等を守るなんて余裕だと思ってたけど案外大変かもね、やりがいがあるけどね」
「怖いからさっさと抜けちゃおうか、飛ばすから転ばないようにねー」
お…おう……んでまたそのまま海に行っちゃうのなお前は…
「お父さん!」
「グラさん!」
「おお…良かった無事で」
「そりゃあこの距離でも心の声は聞こえますから……言い付け通り隠れてはいましたが大丈夫だったのですか?」
「うん、レプンカムイが……」
「流石……数少ない現存する神ですね…」
『………』
『………少し……休む』
そう、大丈夫?
『気にするな……』
……わかった。
「グラトニカ殿は?」
「ちょっと休むってさ…まあいきなりあんなん出てきたらね…」
「何者だったのです?」
「私にもそれはさっぱり……でも取り敢えず海域を抜けたらレプンカムイ交えて少し会議しようか」
「それまで私もちょっと休むわ……」
「はい…後で何か飲み物をお持ちします」
「ありがとうね……それじゃ…」
………クソが。
『……汝……すまん』
謝んないで、私が今何より怒ってるのは自分だから。
……負けたね。
『………うん…』
突飛すぎてよくわかなかったけど、あのまま続けててもボロ負けだっただろうね。
彼奴が馬鹿だったこととレプンカムイがいた事しか、切り抜けられた理由が浮かばないよ。
……悔しい。
「悔しいよ」
『……ああ』
……勝てなかったことも、何されたかわからなかったことも、守られたことも
『…ああ……』
『お前を守ると誓ったのに…無様なものだ、不甲斐ない』
うるせえ!!負けたのは二人ででしょうが!
『……!』
……強くなりたい……いや、なるよ
生き残れりゃあいいとか甘い考えだったのが悪かったんだ、今回みたいに理解ができない能力の奴も粉々にできるくらい強くなる…!
二人でだ!
だから力を貸せグラトニカ、あんな野郎次は喋らせる前に消し飛ばしてやろう。
お前は『前にしか進めない……聞き飽きたぞ』
『……だが、気に入っている…ああ、そうだとも…我等に後退はない』
……よし、落ち込み時間終わり、話変えよう。
……しかし何だったんだろうね彼奴…知らない?
『傲慢王……我が暴食王と成ったと同時に頭に流れてきた記憶に僅かだが…』
んえ…そんなんあるの?
『ああ、我が究極の自己完結型だとするならば奴は完成された軍隊型…他者に命令を強要する者、ということ程度しかわからぬがな』
十分すぎるくらい理解したけどね、ありゃ確かに脅威だわ。
つまりあの命令はユニークスキルってことか。
……もしかして他にも怠惰王とか嫉妬王とか…七つの大罪シリーズいる?
『ああ…だが能力の大まかなイメージしかわからぬ』
『我自身道半ばにして途絶えておるからな』
そういえばグラさんのお義父さんって先代暴食王なんだよね?
『ああ…面識は殆ど無いがな…』
『あと先代暴食王は母だ』
「お義母さんの方か、お義父さんは?」
『父は知らん、かなりいたからな』
一妻多夫制なんだ?
『種族柄な……母の種であった〈アトラストレイルマザー〉は…その…あの…』
……ん?
『……生殖器官が複数存在し同時に複数の番を持つことができたのだ』
ごめん、君が必死にいかがわしくないワードを探してた今の数秒間も全て聞こえてる。
『ならば気を使うとか無いのか!?』
凄いね……デフォルトで乱交文化がある種族か…
『言葉を選べ!!それから…我は違うからな』
まあその種族まで進化できないみたいに言ってたもんね。
『ああ…正当な進化系列から外れた今となってはこの身がどうなるのか見当もつかん』
ふーん……ところで他の七つの大罪シリーズの面々ってどんな?
『少し待て……あー……あった、これだな』
『現時点でわかっているのは先程の『傲慢王』……それから『強欲王』と『怠惰王』だな』
『強欲王は能力を奪い取り思うがままに操り単独で戦争を引き起こし』
『怠惰王はその場に存在しているだけで思考するという概念すら消し去り周囲全ての生存すら怠けさせる環境破壊兵器……らしいぞ』
怖すぎるだろ!特に怠惰王!
勝ち目をプリーズ…いやまあグラさん並って考えたらそんなレベルのやつにはなっちゃうんだろうけど加減しろや!
『後のはわからぬな、今存在しているのかも、どんな能力なのかも』
まあ……最低限全員と戦うことを考えてわかってるやつから対策しなきゃね…
『ああ……あの、汝…どうしてあの時戻ってこれたのだ?』
え、ああ…あれ多分『死がふたりを分かつまで』だよ、デバフかと思ったらまさかこうやって機能するとはね。
『……我の声で戻った、ということか?』
おお…?うん、多分。
『そうか』
『そうか!』
『うむ、褒めてやるぞ、よく戻ったな』
う…嬉しそうね…?
お、ノック…お嬢ちゃんか。
「入るよ」
「あの…飲み物持ってきた」
「あ、お嬢ちゃんありがと」
「グラさん随分機嫌いいね」
「普通だ、普通…それより聞いたか?こいつ…我に会いたくて死に損なったとさ」
ここぞとばかりに言うじゃない、やめてそろそろ照れてきた。
「ふふ、仕方ない奴だなお前は…まあ精々今度傲慢王に出くわしたら貴様の力など効かぬとでも言ってやれ」
「………うん」
「……………いやすまん、忘れろ」
自分でやり返しておいて恥ずかしくなるんじゃないよ君は。
何か長くなっちゃった(テヘペロ)
Q.キャラクター達の髪型は?
A.グラさん腰くらいまである髪を一つに結いてる、日によってブレ子とかお嬢ちゃんがやってくれるよ。
ブレ子はマスクが蒸れるから基本ベリショ。
お嬢ちゃんはその日ごとに変えるけど髪の長さは肩甲骨の下くらい。
Q.船の形は?
A.一般的な帆船、ゴーイングメリー号くらいのサイズの。




