神の大地と奇しき虫
………何言われんの私。
目の前の割とギリギリまで追い詰めた後に爆発四散するように仕向けたけど無事ってことは……まあ私の最後の作戦が効いたんだろうね。
「ええ全く……爆発するところだったんですか私は?」
「ソンナコトナイヨー……無事で何より、それでどうしたの?」
こいつ心読むのかよ……レアではないの?読心術って。
「……」
え、ちょ…往来で神様が頭下げるとかやめてよ、狂信者に刺されるやつだよこれ。
「聞きなさい」
「………ありがとう、本当に……」
「何度言おうとも足りない程に……君には助けられてしまいました」
「……なりゆきだよ、結果オーライで大博打かましただけさ」
「ですが……この街を見てください」
「人々は……我々の力に甘えず、支え合いながら最も辛い時期を乗り越えました」
ふむ確かに、何だか町並みも活気付いて随分と人も増えたようだ。
あのボロ宿が繁盛するわけだね、外からも客が大勢きてら。
「ねえキラウシ、君はあの後どうなったんだい?」
「……君の身体が消滅すると同時に、元々いた者も…」
何か話す機会でもありゃ良かったのに。
「脚は生えたみたいだし良かった良かった」
「ええ……ですがそれだけじゃないのです」
「というと?」
「強化されました…私の固有能力が」
んえ……何でよ。
ズルいやんけ、私にも何かあるべきだろ、滅茶苦茶ヒロイックだったろ。
いやまあ……見てないけどステータスの更新凄そうなんだよね。
後で見よ。
「ユニークが?そりゃまたどうしてかね?」
『……よいか?』
わお、今までお行儀よく黙ってたの?大人しくなったねー……
『……死ぬか?』
はい、閣下、ごめんなさい。
『恐らくだが……戦いの中で己の全てをなげうち、これぞ我が人生、これこそが己の生き様だと見せることでユニークは強化される……』
ほえー、じゃあグラさんも?
『ああ、貴様が消えていた間で更に…というわけだ』
流石私の盟友!頼りにしてるよ相棒!
『めい…!あい…!?』
「よし、取り敢えずグラさんはバグらせることに成功したから続きを話そう」
「君は……いいでしょう、慣れましたいい加減」
神様に呆れられ始めたら虫としても終わりだよね。
「それで、ただ強くなったよって自慢したいわけじゃないんだろう?」
「ええそれは……ちょうど来ましたね」
……何か暗くなった?いやこれ…影っ!
「うぉらっと……え?」
振り返りしなの渾身の右フックは途中で止めることになってしまった、えーと……熊さん?
「キムンカムイ……だ」
殺した筈じゃ…いやこれも召かばばばばば!!?
この電撃は…!!?
「うなぎだろてめえ!!」
「うくくく、今度は痺れましたねぇ」
まあ、この前食らったとに比べりゃ大分手心がありそうだけど。
てことは……
「わおーん!」
何でクロシバやねん。
「ここで出てくるなら普通ホロケウカムイだろ!?」
「やかましいのう…いるわ、なあ族長」
おわぁ…いた。
「え、族長代わった?」
「あの後数カ月後に……偉大な前の長に報えるような長になります」
犬基準の寿命なんだろうか……そうか、でも……ちゃんと発展して皆が平和に暮らすまでは見れたのね。
「……んでこれはどういうわけよ?」
ユニーク使ってるようには見えないけど?
「私の強化された固有能力によるものです…今は街にいないものも大多数」
ほえー…使いっぱなしじゃなくても行けるんだ。
「随分とまあ強くなったね……って結局お前の能力って何だったの?」
「ああ…私の能力は与えるものです」
「神として望まれたなら、神として求められたなら、私は神の世界から私自身に力を与えることができる」
「つまり……自己強化技ってこと?」
そんな気はしてたけどだとしたらあのアニマルズは何やねんって話だけどね。
「……タネを開けるなら、あの者達は私の一部から作り出した器に一時的に降ろしている魂にすぎません」
「『カント・オロワ・ヤク・サク・ノ・アランケプ・シネプ・カ・イサム』」
「何て?」
「君にわかりやすく言うなら『天から役目無しに降ろされた物は一つもない』という意味になります」
ふむ……いつ使ってたっけな……あ。
「回復したり仲間呼ぶのに使ってた奴?」
「御明察……ですが厳密にはあれは傷を治していたわけではありませんよ」
「傷を治しているように見せてくれるカムイを呼んでいたのです」
「何でそんな妙なことを……強がり?」
「……中のムシケラは、いえ失礼…」
「気にすんな、私もムシケラだけど知らんやつがどう言われようが気にしないって」
「……中のムシケラは休眠こそしていましたが私が削られ過ぎれば権能を無理やり一時的にでも奪いに来たでしょう」
レベル足りなすぎて無理だろうけどね。
「なので…数値すら幻に包める者を秘密裏に…」
「ふーん……じゃあつまりあれは本当に仲間呼ぶだけ?」
「……やろうと思えば富や食料、果は一帯を埋め尽くす雨ですら…」
やっぱり手加減されてた感じが否めねえなあ…
お互い手を抜きながら戦うとか本格的に不毛すぎるでしょ。
「いえ、手は抜いていませんよ……少しでも期待に沿わないようならあの場で殺すつもりでした」
「それに……私がまた奪われる前に私すらも…」
「………辛気臭い話はやめにしよう、皆生きてる、それでいいじゃんか」
「神様たちは結局今何してんの?」
「俺は……子供達と……遊ぶ」
熊さん……人気ありそうだね。
「僕は飛んだりイタズラしたり今度リベンジさせてねぇ」
「丁重にお断りします」
「あー…あの時もユニーク使えてればなぁ……」
お前も……持ってるよね、神だもんね。
「儂は最近釣りがな、中々上達はせんが…」
「何だか……皆神様らしくないね?」
「ふふ……私は土いじりを少々」
「これでいいのです、神様なんて…見守って、たまに手伝うこともあって…御礼にパンや果物を頂く」
「我々が全て施していた時代よりよっぽど良いではありませんか」
そっか……そうだね。
「ありがとう……」
「ありがとねぇ」
「うむ、ありがとう」
「むず痒いな、最終回か?」
「……ところで、その体の持ち主はいいのですか?君が消える瞬間凄くその……」
「貴様それ以上言ったら首をへし折ってやるぞキラウシ」
うぉぉ…ぶんどられた、久々…
「くっく……泣いていましたよね?」
「泣いてなどおらん!!」
悲しくなかったの?泣いてくれもしないんだ……そっか…
「………泣いたさ」
可愛いなこいつ。
「っと……いやしかし随分グラさんも馴染んだようで良かった良かった」
「ホロケウ氏族も受け入れて貰えました、過去の罪は……この土地に返します、償いきれなくても」
「立派になっちまってまあ……モフってやろ、うわ毛硬えなお前も」
「うわぶっ…!」
あと毛の奥の筋肉が可愛くない弾力してた。
「神に護られる土地から…神と歩む土地か……」
「いやー、何も考えずに始めた冒険でも、こんな皆のためになったなら良かった良かった……」
「……あれ…」
涙が……グラさんの泣き虫にひっぱられ『違う!!』
「ど…どうしたハリガネサン…」
「いんやぁ……何か、良かったってさ」
「ふふ……宴での演説はもう少し考えてくださいね?」
「えー…ブレ子にカンペ書かせよ」
[そうして、君はまた歩き始めるんだね]
[面白いな]
[絶対諦めないでね■■■■ー■■■■■■]
[いや、ハリガネサン]
[この世界はもっともっと、君が思っているよりはるかに]
[祝福されているんだから]
ここまでご拝読いただき、本当にありがとうございます。
異世界ハリガネムシのお話はまだまだ続きますが、第一部はこちらの話で完結とさせていただきます!
長かったねー、一年半くらいかかったのかな?これ全編やるまでに十年くらいかかるんじゃなかろうか。
まあ皆様今後とも気長に楽しんでください!!ではまた!!