目覚めよ名もなき英雄
[目覚めなさい]
………あと5時間。
[………目覚めなさいって]
ハリガネさん頑張ったから疲れてんだよ……
[…………このまま死にますか?]
はい、起きます、起きました。
ったくしばらくぶりに眠れたと思ったのによう……
[おはようございます、■■■■]
何て?
[ああ……ハリガネサンとお呼びしますか]
何でもいいけどさー、ここどこよ。
てか君誰よ。
[ここは……君の深層心理の中とでも言いましょうかね]
ハリガネさんの心の中こんなウユニ塩湖みたいな空間なの?だだっ広い割に下が砂……あれ?私身体どうなってんだこれ。
……人?
[君が自分をそうだと思っている姿ですよ]
[申し遅れました、私はエゴ……]
[君は確かアナウンスさん、と呼んでいましたね]
お前かぁぁぁ!!!
説明が!!少ねえんだよ!!
[…………]
[……君への情報は制限されてますので]
なら仕方ねえな。
とはならねえからなこの野郎。
[落ち着きなさい、君は今この場では戦力等普段の肉体よりも無い……まあ私も同じですが]
あれより?あれより弱いの今?
[殻のない生卵のようなものです、少しでも力を加えれば簡単に……]
やめてください、調子乗ってすみませんでした、靴舐めます。
[……まあ今の私にそんなことはできませんが]
お前あんま脅かすんじゃねえよばーかばーか!!
[…………]
[……まあいいでしょう]
[結果的に見て、貴方の行動は間違ってはいなかった]
[というか行き着くはずもない正解に辿り着いたことは称賛に値します]
[……何であんなことに?]
何でって言われてもな。
この世界がゲームをモチーフにしてるってのは何となく……というかステータスとかスキルとかある時点でそんなもんだろうって気持ちはあったのよ。
そんでこの世界が例えばゲームの中なら……私はきっと主人公じゃないんだ。
誰もハリガネムシなんて主人公にしねえからな、ハリガネムシ主人公で作る物語とか頭おかしい奴しか作らない同人作品だよ。
[…………]
そんなわけで……きっと彼は倒しちゃいけない、っていうか私が倒すべきではないって思ったのよね。
[いつからです?]
んー、最初のきっかけは辺境伯の家行ったとき。
あとは神様がカムイって呼ばれてたからかな。
ここ北海道モチーフだろ?
そんで、多分監視して楽しんでる奴がいるなーって思ったから目一杯馬鹿のふりして気づいてませんよーってアピールしながら最後の最後に思いっきってみた。
グラさんがああいう性格なのは知らなかったけど……まあ結果オーライ。
[何というか……君は…]
[愚かなのかそうでないのかたまにわからなくなりますよ]
どっちだろうね、乗り物に引っ張られる事は多いし?
[……まあともあれ、君はゲームオーバーをひとまず回避しました]
あのまま鹿神様殺しきったらどうなってたの?
[人の時代が始まっていましたよ]
[ホロケウ氏族は滅ぼされ、貴方の娘の一人やその一族も皆殺しにされ、まごうことなく人だけの国ができていたでしょうね]
どっちが人にとって良かったとか…考えるのは野暮かな。
[どうでしょうね、少なくとも……スラムの住人は辺境伯が生涯をかけて救った、という未来はありました]
ふーん……まあ、私は別に人の味方じゃないからね。
……それで私は?ゲームオーバーかい?
[いいえ?すぐにに蘇りはしますよ]
なら良かった、いやまて今戻ったらグラさんにめっちゃ怒られそうだな。
[ええ、それはもう]
[あの後たいそう悲しんでいたようで、罪な人ですね]
ハリガネさんモテるからなー、仕方ないなー……言い訳どうすっかな…
アナウンスさんはこの後話しかけたら答えてくれるの?
[いいえ、これまで通りです……すみません]
訳ありみたいだしいいよ、それよりこれからどこ行ったらいいとかあるの?
[……それは、近い内に転機が向こうからやってきますよ]
微妙なおみくじみたいな反応だなー……中間管理職みたいなもんっぽいし勝手に情報出せないか。
[……申し訳ありません]
いいよいいよ、何か他に聞くことある?
[……いえ]
[私が言えることは少ない、でもこれだけは覚えていてください]
[貴方は目立ってしまった、気をつけてください]
それは……いやいいや。
ありがとね、せいぜい頑張るよ。
[ええ……では、そろそろ行きますか?]
お願い、じゃあまたね。
復活!!
っと……何これ誰の身体?
「……起きたのか…!?」
「み、皆の者、起きたぞ!」
ああ、グラさんか。
おはよ。
「おはよ、では無いわこのたわけぇ!!!」
「我が……我がどんな思いで…!!」
ごめんて、帰ってきたんだからいいじゃない。
「何事ですか!」
「…ハリガネさん…!」
うぉあ!?お嬢ちゃんなんか大きくなってない!?
「実の娘には何も無しですか!?」
ブレ子はわからん、ペストマスクだもの。
強いて言うなら扉は静かに開けなさい。
「あれからええと……3年くらい経ってるよ?」
随分だなまたそりゃ……成長期だもんね、大きくもなるか。
「ハリガネサン起きた!!?」
いい加減その扉ぶっ壊れるぞ、バゴーンいったよ今。
ん……知らないシバだ。
「貴様がマメシバと呼んでた者だ、思い出せ」
マメシバ!!?貴重な子犬期間が!!?
……何か残念……
「すっごい失礼なこと言われてる気がする……」
はっはっは、気の所為気の所為。
グラさん、身体借りていい?
「……好きにしよ」
「んん……あー、3年ぶりなのかこの身体…!今さっきな気分だけど」
「…えい!」
「ぐおっ!!?何だ何だいったい」
いくらグラさんの身体といえど急に飛び込まれたらびっくりするよ!?
「……無茶しすぎだよ」
「……泣いちゃった?」
「……グラトニカさんほどでは」
「グラトニカ殿は……涙で湖を作る勢いでした」
『嘘だ、全て嘘だから即座に忘れよ』
……ごめんね?
『……本当だ』
「せーい!」
「どわっふ…マメシバも来たか……毛がやや固くなっちゃったね」
「えーと…とう!」
「どぐふっ!?」
「三人は無理だろ!!」
グラさんボディじゃなきゃ後頭部強打で大怪我だぞこんなもん。
「お前らうるせえぞ!!下にも客がだ……何事だ?」
あの輝く頭は…おやっさん!
「おやっさんやっほー」
「……グラトニカさんどうしたんですか…?」
「あ、ごめんハリガネさんです」
「おお……あんたか!」
そういえば私結局おやっさんに正体明かしてなくね?
「えーっと…」
「大丈夫、全部私が話したから」
「そうなの?」
ハリガネさんどんな風に伝わっちゃったの?
「あんたが…あの英雄の…」
「そしてずっとお嬢ちゃんのフリをしながら俺等と話してた……?」
「そこは忘れて、頼むから」
英雄が幼女ロールプレイとか洒落にならない伝わり方してんじゃねえか馬鹿野郎。
「おと!お父さん!!外!」
「外がどうし…うぉわ!?」
「おま、お前ら早く外出ろ!」
今度は何さ……外?
「起きたのでしょう……出てきなさい、少し…話しましょう」
「……や、やっほー…」
やっぱり生きてたか、鹿神様。
嬉しいことに最近は色んなところから絡んでいただくことが増えています
もっと、もっとおいで、友人のように接しておくれ。