美しくあることは見た目にあらず
娘達を送り出して我々もいざ出発!!
「それはいいんだけ…ど」
「あては…?」
知ってそうな人を知ってる!ところでギャングくらいならラブハート氏なら余裕だよね?
「ええ勿論…と、言いたいところだけどアタシも最強じゃない…ってことを忘れちゃ駄目…よ?」
「それで、誰に聞くのかし…ら!」
病狗とか言うギャング?的なアウトロー的な。
「病狗…随分と随分な名前…ね」
「アナタ彼奴等がどんな生き物なのか知ってる…の?」
詳しくは無い、でも子供を売り飛ばしたりそれを餌に人を食らったりするってことはわかる。
まあ生きるためなら仕方ないかもしれない、でもコボルトとか亜人種ってここら辺じゃそこまで迫害も受けてないって聞いたし言っちゃえば同種として扱われてんだろ?
腹を満たすためなのか、嗜好品なのか知らないけどさ。
美しくない。
「……!」
「へえ…寄生された側が引っ張られるってのは本当なの…ね」
みたいだね、自分が自分で無くなっていく感覚が怖くもあるよ。
下手すると謎多きオカマと同化することになりそうだし。
「ミステリアスで素敵でしょう?惚れちゃ駄目…よ」
うーん攻撃力さえあればなー、胃袋のたうち回ってやれるのにな。
まあ冗談は置いといて、そいつらのところ行ける?
「行けるか行けないかで言われれば…警戒されてれば難しいけれど大したことは無い…わ!」
流石旦那はお強い!それじゃあ頼みますぜ。
「それは良いけ…ど」
「奴等、ちゃんと話を聞くと思う?」
勇者になるなら暴力でねじ伏せつつ従わせるくらいしないと、仲間になりたそうにこっちを見るくらいに殴っちゃっていいから。
「それはあれ?魔王になる方法?」
と言うか私は名前以外何も知らないんだけど病狗ってどこにいるの?山奥?
「山奥…厳密には洞窟の中…ね!」
洞窟?山の?
「ええ、奴等ここいらで幅効かせてた割に暴食王やウェンカムイが来ると勝てないからって洞窟の奥にすぐ隠れちゃう…の」
だっせえなおい。
「強者の肉体に隠れて戦うアンタも相当じゃない?」
血反吐が出そうです。
「さて、それじゃあ…最初は友好に行く?」
それでもいいけど…無理なら?
「ぶちのめす…しかないでしょう?」
うーん、いざとなったら鹿戦に借り出す手もあるよね。
やっぱなるべく怪我はさせない方向で行こうか。
「そうね…なら悪臭袋を買っていこうかしら……あるわよ…ね?」
何それ、鳥人間コンテスト優勝できそうな彼奴?
「鳥の方はハルピュイア、語源ではあるけど…ね」
「昔鼻の利き過ぎる獣戦士の闇討ちに対抗するために作った匂い袋…よ」
「地域によって中身はまちまちだけど…このあたりなら動物の胃袋に魚の腸と動物の糞を腐らせたものじゃないかしら?」
何それヤバそう……そんなん持ち歩くの?
「……ええ、確かに身の毛もよだつ悪臭に汚い中身…美しかろう筈もない」
「でも、わかるで……しょ?」
ああ、わかる。
生き残るため、助かるため、力無きものが戦うために泥に糞尿に塗れようとも諦めない心。
それは何より尊く美しい。
「ふっ…まるで私が二人いるみたい」
案外仲良くなれそうね。
「さ、買っていきましょう…あんなものはゴミからでも作れるからいくら飢饉でも売ってるはず…よ」
飢饉と言えば…ラブハート氏お腹大丈夫?空いてない?
「かれこれ2日は食べてないけど…まあ、大丈夫でしょうね」
宴会用だったけど食料あるよ、食う?
「……いいえ、それはあの二人に…でしょ?」
本当、美しいね。
「ふっ…惚れ」ねえしそのくだりはもういいよ。
じゃあ行こう、買い物してから。
あ、金ならそこの革袋。
「アタシ一応国命できてるからお金の心配はない…わ!」
ブルジョワオカマッチョだったのか……何それ。
「こっちのセリフ…ね」
……大丈夫?
「予想してたより強烈…ね」
何か、店のおっちゃんが妖怪がどうとか…
「ええ…溶王の排泄物が手に入ったからって随分吹っ掛けられたものだけど…これは」
私に鼻が無いことをここまで喜んだことはないよね。
ところで溶王って何?
「《長老》個体…要するに長い事生きて知恵つけて進化のその先に至ったスライム…よ」
お爺ちゃんかぁ、強いの?
「並のモンスターじゃ敵わない…《特異点》でもなめてかかれない強敵…ね」
……てかそんな奴が比較的近くにいるの?大丈夫?
「ええ、もうしばらくは復活しないでしょう…ね」
「だって、あれを砕いたのアタシだもン」
勝ったんかい。
「ま、厳密には倒しちゃいないんだけ…ど」
……どういうこと?
「あれは群体を1つの溶王が支配してる個体であり群れなの…よ!」
「だから端から砕いて散り散りにしてやってたら本体はすぐ逃げたのよン」
化け物だな…
「ええそう化け物…でもあれは《特異点》には2枚足りない…と言わざるを得ないわ…ね!」
そうなんだ、まあ化け物って呼んだのはラブハート氏の方なんだけどさ。
……鼻栓したら?
「そんな…美しくないことは…しない…!」
大分美しく無い形相にはなってるけどね。
麻酔打たれまくって捕獲寸前のトドみたいな。
「その生き物は知らないけど美しけれは文句はない…わ!」
んー……うん。
美しい、美しいよ。
自然は皆美しいとも。
……取り敢えずせめて何かしら別の袋に入れてしまっときなよ、さっきから人がスゴイ顔して通り過ぎて行くよ。
「そう……ね…」
もう溜めたあとの言葉尻に元気が無いもの、結構ギリギリだろさては。
心做しかモヒカンがへなってるし。
……大丈夫かなこれ。
遅れてごめんなさい…
溶王は小さい蛆虫みたいなミミズみたいな生物の集合体が強力な酸を生み出すようになった長老個体で、女王蟻ごと巣が動いてると思っていただければ。