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化け物の相手は化け物に限る

 ああ、駄目だこれは。


 機転や運で勝てる相手じゃない。


 遠すぎるステータスの差は私にそう思わせるには十分だった。


 黒い身体を何かに苦しむようにバタつかせる【黄金神鹿】の肉体、これはもう話し合いなんてものができる領域にいない。


 瞬間、動こうとすら思えない私の身体が水筒の中で暴れる、横への荷重が己の急加速と高速移動を知らせてくれる。


「ンン!『轟かすは(グレート・)我が名と誉れ(ザ・ラブハート)』!!」


「硬いわ……ね!」


 見えた範囲で言うならそれはそれは豪快なラリアットだった。


「いったん引きましょう、喚ばれたら対応できない…わ!」


 言葉が喉から…喉から!出る前に視界の端に影が映った


「…後ろ!」


「『天使の羽ばたき(エンジェルビート)』ぉ!」


 後方から迫っていた影、黒い毛皮の獣は鋭くも繊細で、美しさすら感じるワンツーコンビネーションからのアッパーカットを受け、粒子のように爆散した。


 限界だ、ツッコむわ。


 お前さっきからただの打撃をスキルと言い張ってない?


 うん、少しスッキリした。


 口に…?口に!出さなかったのは偉いと思うよ私。


「水筒の下の方にいなさい!神域を出ればしばらくは追ってこれない…わ!」


 ハリガネ殺法!『素潜り』!


 ……あー、こんなイメージなのかな、あの技。


 さて、横への重量(G)に耐える準備をしよう。


 頼むぞオカ…ラブハート氏!




「ここまでくればいいかし……ら!」


 水筒の底にいたからほぼ見えなかったけど絶え間なく襲い来るさっき見た黒い獣を数撃で打倒していくラブハート氏の姿に危うく胸キュンするところだった。


 筋肉とモヒカン、そして黒い獣が暴れまわる様は胸キュンと言うか胸焼けしそうだったけども。


「まさかあそこまで曲がってしまっていたとは……ね」


 詳しい事は聞いてなかったけど奴に何が……声出ねえな。


「そう、喋れないのね、神域を出てしまえば仕方ない事だ…わ!」


「……一度戻りましょうか、どの道しばらくは進軍してこないでしょうし」


 それがいいかね……出かけてから数時間しか経ってないけどここまで見事に挫かれちゃどうしょうもない。


 守るって心意気はあっても策無しで突っ込むほど私は主人公できてないのさ。




「ん〜…ただい……ま!!」


「早かったですね!?」


「ハリガネさんも生きてるし…」


 うん、話し合いとかそう言う領域にいなかったわ。


「お父さんが遠くにいる時は儂も声が聞こえないので何があったかはわかりませんが…それ程の根深い怒りなのですか?」


 うんにゃ…どっちかと言うと戦いの中で負けたなら仕方ないみたいな考え方の神様っぽかったんだけど……


「あれはもう駄目ね、狼藉者一匹殺したくらいじゃあもう絶対止まらない…外部から何かしらの影響を受けてしまっているもの」


「外部…?」


「アタシが何でも知ってると思っちゃ駄目よお嬢さん……恐らくは、蟲」


 知ってるやんけ。


「蟲…とは?」


「あら、知らないのね……まあ無理もない…か」


「アンタ達もその血筋かも知れないから気を悪くしないでちょうだいねン…蟲ってのは所謂元々この世界にいた存在じゃないものって言われてる……の」


「…つまり?」


「昔はあんまりそんなこと言われてなかったけど…ここの国…と言うかこの国のある島は元々ウェンカムイやアグリィホグみたいな動物しかいなかったと伝えられていて……ね」


「でもどうやら…そうはならなかった…」


 隕石だ。


「いん…せき?」


「あら……何か知ってるの?」


 私の拡張解析のレベルは10を越えているのでね、一度この大地に使ってみたことがあるのよ。


 その時のフレーバーテキストは……『拡張解析LV.10』


「覚えて無かったんですね…」


 うるせえ、私が読むから続いて読み上げてやって。


「いつか降り注いだ空の怒りによって大きく生態系を変え、またそこに産まれ出でた強者を狙う外からの来訪者を待ち続ける壮大な森林」




「獣を狩り血をすする星から与えられた物達と今は権能を失いつつある神々は日夜争い続けている、それが無駄であることを知りながらも」


「……それは?」


「お父さんが地面に向かって拡張解析を当てたんです、なのでそれの読み上げをば」


「嘘は……ついてないのね」


 嘘?何で?


「拡張解析はね、そう(・・)は使えないの……よ」


 え、どういう事?


「どう言う事ですか…?」


「拡張解析ってのはステータスやその人が何者かをある程度見通す力…例えばアタシが地面に使えば成分や状態、何が育ちやすいかくらいしかわかる事はないもの」


 ……え、じゃあこれ何…怖い。


「お父さんも一切わからないそうです、何なら未知の物と言う事実に怖がってます」


「……本当に得体がしれないわ……ね」


「んん……『拡張解析LV.10』」


 うわっ!?何かゾッとした!


「アビス・ゴルディオイデア……ええ、ステータスやスキルは見える…けど」


 私の過去は見えないか……


「厳密には見えるのかも知れないわ…けどアタシはそれを許されちゃいないみたい……ね」


 んー……私はいったい何なのだ。


「一度王都で調べたいところ……ね」


「……ハリガネさんはハリガネさんだから」


 ぐえぇ…お嬢ちゃん、それは庇うってより握り潰してるから…死んじゃう…


「ごめん…」


 まあ平気だとも…2割くらい削れたけど。


 何か随分過保護になってない?オカマッチョのせい?


「気の所為…」


 まあいいや。


「……逃げましょうか」


 それがいいね。


「うん……」


「あら、逃げちゃうのかし……ら?」


 んー、正直私の生贄どうにかなるなら死んでやったともさ……でもそうも行かないならもう仕方ないじゃない?


「生贄が一人で足りないなら仕方ない……それに領主の耳に入れば王都から軍が来るかもしれませんし」


「儂等に知り合いを死なせたくないと言う気持ちがあろうともこの国を救う気はありませんから」


 ぶっちゃけ多少責任は感じるけど…お嬢ちゃん連れておやっさん達には逃げるよう伝えてトンズラここうかなってさ。


 お嬢ちゃんは?


「複雑…実家は確実に無くなっちゃうだろうし…」


「……でも私の家族はもういないし…」


 そこよねえ……自分の命と天秤にかけたら誰だってそんなものだ。


 まず私等はヒーローでは無いんだから。


「まあ……英雄の類ではありませんね」


「諦めが速いわ…ね」


「貴方程の実力者で無理ならばぶつかる案もありせんでしょう」


 実際ラブハート氏の攻撃が効いてたのかはよくわからんけどね。


「やはり…強いのですか?」


「んー……と言うかあれは信仰の問題…ね」


「アタシは人で、あれは神…攻撃が通る道理が無いも…の」


 戦えねえのかよまずじゃあ……


「あれ等に強いのは同じ神…キムンカムイ達ならどうにかなったかも……ね」


 ああ、うん…まあ無理だわな…


「本格的に打つ手無しじゃないですか…」


 それは割といつも通りだけどね。


「そうねえ…強いて勝てるとしたら…」


「特異点個体【暴食王 グラトニカ】かしら…ね」


 んー……鹿さんに詫び入れに言って駄目だったからぶっ殺すために敵勢力に協力してもらうと…


「邪悪…」


「人の風上にも置けないですね…」


「あらヤダアタシディスられてる…?」


 ……避難はしてもらう方向で、駄目元やってみるかぁ。


 流石に責任は感じるし打つ手があるなら死ぬ気でやってみとかないと…一応頑張ったって心に許しがないと寝覚めが悪いし。


 ……何かあれね、自分の事ばっかだね。


「虫だもん」


「まあ……ムシケラには正しいのかも知れませんね…儂はギリギリコノハ殿の因子があるのでそこまでサッパリいられませんが」


 欲求の中でも生存が一番な弱い生き物だからいいんだもん!!


「あら、じゃあ結局グラトニカは探すの……ね」


 まだ協力してくれる?


「ええと…協力は続けていただけるのですか?」


「それは勿論……ていうか協力して欲しいのはこっちこそよ」


 あー……結局会うことになっちゃったなぁ…




 次会ったら殺されるらしいんだけどね私。

鹿さん現在アップ中

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