黄金神鹿
チャポンチャポチャポと水音を立てながら山を進む私達一行…いやブレ子もお嬢ちゃんも置いて来たからオカマと私だが。
んー、困った。
何に困ったかと言うと…
「ねえアァンタ…恋、してる?」
してねえし喋れねえんだよこちとらよ。
そもそもハリガネムシの恋とは、雌雄別れてんのあいつら?
ナイスボディなメスハリガネとかいたら私も恋できるのかね?まあ地球のハリガネムシに雌雄が別れていようとも私は雌雄同体だけど。
「わかるわ…愛されないって辛いわよ…ね」
会話したいなー…てか肉体が欲しい、顔に一撃入れたい…どうせ効かないだろうし。
「…黄金神鹿は価値観としては神…しかし獣でいた期間が長いから不安定で歪なの…よ、だから応対は気をつけてねン」
まあ端っから生きて帰れるとは思っちゃいねえよ。
そもそも昨日の夜に娘二人からサクリファイス!サクリファイス!言われたからね。
反抗期の女子高生でももうちょい優しいわ。
そうそう、移動方法はいつもの水筒は復活用に置いといたから今日は別途に用意した竹筒だよ。
ちなみに『産卵』はしっかりと発動してくれたよ、産んだよ。
産みの苦しみは特になく念じたらポロッと出てきた、と言うかこの肉体になってから排泄と言うものをしたためしは無いからそういう物を感じない肉体なのかもね。
あ、宿主からはちゃんと出るよ?でもお嬢ちゃんが体感五時間は話聞いてくれなくなったからこの話は終わりだよ。
行けども行けども風景が変わらないね、自分で歩いていないからまだ全然マシな部類だけどさ。
「っと……来たわねン…」
うぉわぁ!?いつぞやの木!
あー…えー…トレ…トゥレ?わからん。
「落ち着きなさい、先兵…と言うか使いっ走り…よ」
前も何か神がどうたらとか言ってたね、しかし困ったことに今は『星の叡智』はあれど『思考盗聴』が無いから何もわからん。
「……壁にすらなれないことは理解できるで…しょ?」
おお…強キャラ発言、言葉一つで木が避けて道になっちまいやがった。
「行きましょ…もう少し先…よ」
まあ…近いならそうだわな。
至る所から視線…?いや知らんけど嫌ーな感じがピリピリ来るもん。
蠢く巨木に譲られた一本道、その先にいた。
神、そうかこれが神か。
前会った時はわからなかった……気付けなかったのが正しいか。
黒い鹿、言ってしまえばそれだけなのかも知れない。
しかし目前に座すそれから感じられる圧力は、言うなればそう……台風?いやうーん…噴火…大規模な地震そのもの?
……バカバカしいね、重ねるものが災害しか無いなんて、そもそも一回殺されてるんだから怖いのは当たり前ってことで。
「……止まりなさい、人の子よ、いつか砕いた異形の子よ」
一言、たった一言が大砲の弾が真横を通り抜けたみたいな莫大な脅威を持っていやがる。
「久しいわね…ウェンカムイ」
「我が前で平伏さず、崩すことなき言葉…その勇猛には感服します」
「話を…しに来たのでしょう、座りなさい?」
ラブハート氏は言われるままにそこに座る…てか何でこのおっさんはこんな化け物と目線を合わせられんだよ…
「ああ…小さな者よ、このままでは会話がしづらいでしょう…言葉を許します……今ばかりは音ならぬ声を、耳に響くように」
「…それはどういう…!?」
今のは誰の…私か!
「喋れる…これは」
「我が対話を望むのです、その程度…当たり前のように行われて然るものでしょう」
「……黄金神鹿、ウェンカムイ様…この度は御目通りの程感謝いたします」
「挨拶はよろしい、して…何を話そうと?」
「戦争について…」
臆さない、は無理にしても…てめえの尻はてめぇで拭かねえとな…
「……弟の話をしましょう」
「奴は、本当に出来が悪く…何度となく兄である私に挑んではその度身を割いてやったものです」
「我々は不滅……故に 、神による戦いは禁じておりませんでした」
「キムンカムイ氏族、カンナカムイ氏族…そして我々キラウシカムイ氏族も、それはそれはお互いを高め合いながら至高の一柱を送るためにと」
「しかし…それは至らず、神は穢されました」
「天より降り立つは神の御業…それを奪うと言う不敬…そして地を埋め尽くす無数の異形」
「我々は…元より人の子等とは仲が良かったのですよ」
「崇められ、感謝され、その代わりに同士の肉を与えてやる…そのようにして廻るものだったのです」
「しかしそれは壊れた…」
「壊れてしまったのです…」
声が……あちこちから…
「そして…我等は廻ることができず、一度死ねばその度少しずつ己が己である理由を奪われる…これではもはや神などとは呼べないではありませんか」
「弟は…我に最後まで反発しました、だから我は奴を砕いたのです…力を失おうとも、そうすれば神に穢されることなど無いと…」
「弟は再臨により力を削がれ、ただのキラウシカムイ氏族の眷族まで落ち、己を見直す機会を得ました」
言葉を発するごとに伝わってくる、どこか悲しげで遣る瀬無くて……そして何より怒っている。
「そして…殺されたのです、異形の者に…あそこまで権能を剥がされてから殺されてはもはや弟としては降りてこれないでしょう」
「戦うことが好きな神でした、異形が相手と言えど、己が不利だと言えど、命を賭したのならば誇りに思うべきなのでしょう」
「しかし…割り切れないのです…!」
「異形が…!弟を穢し権能を奪った異形が…!」
……泣いている…?
「神である我は…神であった我はあの日弟と供に死にました…!!我が権能は書き換えられたのです…!」
「……これは…まずいわ…ね」
「既に正気じゃない」
「人の子よ…!我は我をもう止められない…!名を変えられたのです…!」
「頭の裏側の声が蝕むのです…!」
考えるより先に、解析を当てていた。
戦う算段を立てるためじゃない、理由があったのかもわからない。
しかし心が折れてしまわないようにわかりやすく、命を表す命を確認したかったのかも知れない。
《特異点個体》
個体名 『鏖 ウェンカムイ』
LV.278 HP 28653200/32008000 MP 63258800/63258800 SP 685200/952500
アクティブスキル 『魔槍錬成LV.10』『神速LV.10』『豊穣の角LV.10』『壊滅の角LV.10』『神域創造LV.10《LOCK》』『ウケウェホムシュLV.10』『大崩落LV10』『カント・オロワ・ヤク・サク・ノ・アランケプ・シネプ・カ・イサムLV《ERROR》』
パッシブスキル 『嗅覚LV.10』『神性感知LV.10』『数多率いる鹿の王LV.10』『苦痛無効』『魔法無効』『物理耐性LV.10』『一気呵成LV.10』『恐怖LV.10』『ステータストレードLV.10』
『秩序ある統率LV.10』→『蹂躙する悪政LV.10』
『神の恩恵』→『悪神の呪い』
『不滅の神体』→『必滅の身体』
ユニークスキル 『我は至る黄金の世界』
称号 『鏖』『万物の殲滅者』『率いる者』『万死に値する者』『この世ならざる悪』『穢された過去の神』
[彼の者は、虫に心を蝕まれ、いつしか求めた黄金郷は遠く、守るべき家族は既にいない、既に堕ちた悪神に、もはや祈る者もいない]
[故に彼は諦めた、全てを捨てて怒り狂う、これより行うは曲りくねった神の調伏、力を示せ、見せてみろ]
[あの日誓った神への叛逆を]
状態 『神格洗脳』
「殺せと…!憎む者全てを力の赴くままに蹂躙せよと!」
「我は…!我は…!我が身を、我が家族を奪った者を…!」
「滅ぼすことをもはや止められ無いのです…!!」
「鏖にする事を止められないのです…!!」
すまん…皆…駄目だこれは…
手に負えない。
遅くなってしまい申し訳ありません!!