それなりの憎しみ
「死ぬ前にって…別に殺しゃしねえよ勿体無え」
「……じゃあ何故こんな回りくどい事を…?」
「売り飛ばすためだな、端的に言やあ」
成程金か、まあ割とご時世的にありえないことじゃ無いもんね。
「金ですか…」
「金の価値なんざ今更そこまで高くもねえんだよ…知ってんだろ?今は金があってもそれで買う飯がそもそも無え」
あのムカデによる攻撃凄まじいことになってんなぁ…一国に対して兵糧攻めしてんのかよ。
「……俺達は人は食わねえ、当たり前だよな?だが食うやつはいなくはねえ」
「つまるところの需要があんだよ、特に若え娘とかはな……アンタは硬そうだがまあ、大丈夫だろ」
「そんで逆を言えばな、そいつ等は人を食うが食わねえ物もある…それを俺達がいただくってな」
生贄か、つまり。
…………ぷっ…硬そう…ふふ。
『こいつ……』
「…売り飛ばすのは儂だけでは駄目ですか?」
「……大丈夫だと思うか?食うってんなら若くて臭みが少ねえ方がいいに決まってんだろ」
「ですが、その子は人間ではありませんよ」
「……は?あ?おい嘘だろ」
ぬお、顔の包帯が…あ、雑い!髪巻き込んどるって!
あ……こんにちは。
「……森林人か、クソが!じゃあ無駄骨じゃねえかよ!」
何でだよ!食えよ!
『何で……?』
ゴキブリのがうつったかな…
「…ま、顔見られてるし生かしてはおけねえんだけどな」
「……でしょうね」
「ええと……あー……ああもう、そろそろいいですか!?長引かせるとか曖昧な指示出さないでくださいよ!」
「すまんね、いけ子分達!」
〔てめえら出番だ!〕
〔ヒャッハー!〕〔いけいけー!〕〔何するんだっけー!〕〔覚えてねえ!〕〔とにかく行けー!〕
不安が残る奴多数!まあいいや効いてるし!!
「うわっ!何だキモ!?やめ!くそ離れろ!」
「ぎゃ゛あ゛ぁ!?」
あ、やべ依頼人にも行った。
どうでもいいけど叫び声野太いね。
……ううむ、何か生け垣の擬人化みたいになってしまった、森林破壊したら出てきそう。
「……うわっ」
「あ、流石にブレ子でも量いるとキツイ?」
「いや…食べ切れるかなと」
「このごにおよんで食う気なの!?」
今さっき助けてもらっておきながら!?
もう何かサイコの領域にいる気がしてきたよこの子…
「まあいいや、ほら刀……とどめ任せるよ、私頭強く殴られてるから動けない」
「ええと…どちらを?」
「まあ依頼人も騙してたみたいだし両方いっとこうか、どうせその刀じゃ死なないし」
「……少し眠っていただきます『八方睨み』!」
「がわっ!?」「あっぐ!?」
力なく膝から崩れ落ちた2人から緑が剥がれていく…おぞましいな。
しかし完璧だ、やっぱ怖いなその武器……拷問専用じゃん。
「使う人間次第と言ってくださいよ…」
でもそれ作ったやつそんなの各地にバラまいてんだろ…?
「っと…」
参った、膝に力が入らん。
「父さん!動かず寝ていてください、儂が運びますから」
〔全員でやれば一人くらい行けやすかね〕
それは全力で御免被るよね、色々なトラウマになりそうだ、私としても恐らくそれを目撃するであろう街の人達も。
「それで、どうしますか?」
「憲兵の方々を呼ぶか…」
「……この状況を見た時どうなるかですよね」
「………良くて押し入り強盗…かなぁ…」
間違いなくしょっぴかれる側だよね。
「…仕方ありませんし、殺しますか」
「仕方ありませんしって…私はお前みたく人殺しに慣れてねえんだよ」
「ですか…放っておくわけにも行かないでしょう?」
まあ、確実にまた狙ってくるだろうしね…顔見てるし生かしてはおけねえとか言ってたし。
「しゃーない殺すか」
『待ってよ…子供だよ?』
後頭部フルスイングされといてよく言えるね…側だけって言ってたし中身はどうせ私みたいな寄生虫さ。
寄生虫!?
「ストップブレ子ぉ!俺が戻るための手掛かりかもしれないから後でにしよう!」
あんまりにも突破的に話が進むもんだから頭に入ってたのに気にしてなかったわ!
「戻る…?まあ殺さないならそれはそれでいいんですが…多分もう一人いますよ?」
旦那さんいるんだっけ?待ち伏せして斬るか。
〔罠でも仕掛けやすか?〕
「奥さんの方はバラしても問題ありませんし…見せしめに刻みますか?」
『……邪悪』
私等どちらかと言えば虫だからね、人の価値観で見てはいけない。
あとナチュラルにゴキが混ざってるの腹立たしいな。
『はっ…この中で人型は私だけ…?』
今更感あるけどそうだね、私ワーム。
「私は…こう…脳から神経が伸びているような?」
……絶対出てくんなよ?精神衛生上良くないから。
「失礼な…」
さて…どうするか。
……あ、あそこならいいかも。
「…あそこ?」
「で、貧民街ってわけか」
「申し訳ございませんウーゴ殿…」
そう、貧民街である。
まあ街で拷問とかしたら流石にまずいからね、おばさんは椅子に縛り付けて来たけど女の子の方は下僕達に任せて森から運び出してもらった、まあ藪が動いてても森じゃバレねえからな。
「……やっぱてめえ人攫いか?」
「違うのです、そう言われるだろうとは思いましたが違うのです…」
「じゃあ何で街の娘がここに縛られて連れてこられるんだよ!」
いや、もうごもっとも…
「起こしますから取り敢えず話を聞いてください…」
「…共犯者にしようとしてねえか?」
「いやぁ、そんな事は……ほら起きろ」
「おまっ!?」
ブレ子が何の躊躇いもなく女の子の膝を腰の刀でぶっ刺す、怖いよ…本当にサイコだよ…
「っぐぁ!?っぐ…てめえ何しやがる!」
「おいお前何してんだよ!って…切れてねえな」
「訳アリの刀でして…殺傷力はありません」
地獄のお目覚めだろうね…ご愁傷様です。
「おい…此奴は…?」
「外見は確かに普通の女の子だそうですが…中身は別物です…」
「…信じらんねえなぁ…」
「実際目の当たりにした儂等も信じられませんよ…」
「まあそれはさておき…この女の子を救えるようなら救いたいのですが、協力してはいただけませんか?」
「まあそう言われちまったら断れねえが…」
すまんなおっさん、巻き込むしかないのだ…何故ならこいつをこのまま憲兵に差し出すわけにはいかないからね。
元々王宮で働いてたみたいだし顔が利くようだし適役だったのさ。
「あの……貴方は…貴方の中身は誰なんですか…?」
「へへ、てめぇの婆ちゃんだよ糞ったれが!」
「……えい」
ブレ子の刀でドスっとな。
「ぐがぁあ!?やめろ!ふざけんな!!」
仕方ない抜いてやろう。
「てめ……ふざけてんじゃねえぞ…ぶっ殺してやるからな…!」
肩から腰まで斜めにそぉい!
「あ゛ぁぁぁぁ!?」
何か怪我が目に見えて無いと罪悪感も少ねえな、叫び方が完全におっさんのそれだし。
……むしろ女の子を掻っ捌く趣味に目覚めてしまうかも知れない。
『……え?』
嘘だから真面目に引かないで?
「お、おい…お嬢ちゃんがやる仕事じゃねえだろそいつは…」
「でも…同じ年くらいの女の子が乗っ取られてるなら…助けたい…デス」
『どの口が言うの?』
うるせえ!このお前の口だよ!
「……まあ、もう一度聞きますが…早いうちに答えた方が身のためかと」
「やめ、やめろ!言うから刺すんじゃねえ!」
手が滑り申した!
「がぁっ!!何でだよ!」
「言い方が…気に入らなくて……」
「おい、ここ数日でこのお嬢ちゃんに何があった…?」
「さあ…怒ってるんですかね…?」
「わかったから勘弁してくれ…いや…勘弁してください」
良かろう。
「それで…貴方は何者?」
「……俺は…」
ウーゴさんの家は学生用ワンルーム2つ分くらいの広さだよ、くっそ迷惑だね。