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壁があったら迂回しろ

遅れて…ごめんね……

「すみません、十日前の夜に女の子を見かけませんでしたか?」


「さぁ…知らないね、それに夜は我々は出歩かないよ」


 うーむ収穫なし。


「日が暮れてからそんな子供を外に行かせるなんてまともな親じゃないな……大丈夫なのかいその依頼?」


「それは……ありがとうございます、失礼します」



「いやー…わかりませんな、と言うかそんな事件があったことすら…どこの家なんです?」


「あちらの方の…青い看板がかけられた布屋の隣です」


「近くに住んでいるけどそんな気配無かったけどなぁ…奥さんも旦那さんもいい人だし」


「そう……ですか、ありがとうございます」


「ああ…此方こそ」



「は?行方不明?そんなもんわざわざギルドで言わないで憲兵に出しゃいいのに依頼人はなにしてんだ?」


「……そう簡単に動いてくれるものですか?」


「ギルドで中抜きされる金を考えたらそっちの方が賢いとは思うけどねぇ…いやまあ、考えあっての事かも知れないから強くは言えねえか…家の子供を外で遊ばせないようにするよ、ありがとうな」


「いえ……失礼します」





「駄目ですね、何もわかりません」


 だよねー、まあ知ってたさ。


「て言うかさ、そもそもこの街で子供がいなくなったってなるともっと有名でもよくね?」


「それはそうですが…相談すらできなかったとか?」


「にしても自分の子供だぜ?周囲の人間に懸賞金出して探させるくらいはするんじゃないかな?」


 て言うかぶっちゃけ察してる、やったな?あの親。


「……疑うのは良くないって言ってたのに…」


 状況は移り変わるものだ。


「まあ正直さ、誰がやったかやどうやったかはあんまり重要じゃないよね」


「……と言うと?」


「スキルなんてものが存在してるんだ、それこそ魔法や色んなファンタジー溢れるやり方によっちゃ偽造も隠蔽も何のその」


「問題は()()やったかだ」


「………成る程、心当たりは?」


 ふっふっふ、まるで無い。


 いやてかあることはあるけど…食い扶持減らしたい以外に浮かばないんだよ、それじゃ振り出しだろう?


「とは言え自分達が餓えないために娘を捨てますかね?」


「私なんて産まれてすらいない我が子を化け物ひしめく森に捨てて行ったよ?」


「貴様と人を同一視するんじゃない」


「何だやんのかこの野郎」


 顔を近づけてメンチを切り……たいのに、あ、とど、届かない!くそが!


 屈め!!


「中々にわけわかんないこと言ってる自覚はおありか…?」


 何を今更、そんで…どうする?問いつめる?


「確定もしてないのにそれはちょっと…ですがまあ怪しいですし放置して探す考えはないかと」


 だよねえ、でも問い詰めた先に何も無かったら私達は子供を無くした親を犯人扱いした不審者のロリコンだぜ?


「おい、儂のことかそれは」


「まあ、いいか…違ってたら違ってたで謝っちゃえば」


「ええ、ですがもう日暮れも近いですし明日のがいいのでは?」


「辛うじて今日くらいの宿代は手には入ったしね…またあそこの親父さんの世話になろう」


「ご飯は……買えそうに無いですね、そもそも食べものもあまり売ってないようですし」


 まあ国規模での飢饉だもんなぁ。


〔……食う?〕


 お前さっきまで食べられたくないって言ってなかったっけ?







「只今戻りました」


「お帰りなさい!」


 扉を開けるととたとた駆けてくる娘さん、そして後ろから重量感ある足音をたてて近づくスキンヘッド。


「おう、戻ってきたって事ぁ宿代はあるんだろうな?」


「バッチリです、食事は抜き素泊まりでお願いします」


「ギリギリなんじゃねえか!ったく…今朝の残りしかねえんだ、我が儘言うんじゃねえぞ」


「なんと!?重ねて感謝申し上げます、どう御礼を言っていいものか…」


 マジか!!流石だぜおやっさん!!


「馬鹿やろう子供を飢えさせんじゃねえ!」


『言われてるよハリガネさん』


 状況だけ見ると逆だからセーフさ。


「お姉さん…じゃあこの虫さん逃がしてあげる…?」


「ああいえ、食べるのでそれは大丈夫です」


 何も大丈夫じゃねえよ、私がいないところで食べてくれよせめて。


「ほら持って行け、言っておくがタダじゃねえからな…洗い物と掃除していけ」


 おやすいご用さ、ブレ子がやる。


「勿論やらせていただきます…本当にありがとう…ございます…」


「泣くんじゃねえみっともねえ!ほらさっさと持って行け」


 どかっとカウンターにスープの皿が乗せられる、今朝方飲んだがそれ以外に口にしてないものだから食欲を全力ノックしてくるね。


 食いしん坊キャラはブレ子に譲ったつもりだがこれはどうにも涎が止まらない。


「あの……ミリアちゃんは何で顔に包帯を…?」


「ミリア殿は種族柄差別されるといけないということで…気にされないと言えどどんな人間がいるかわかりませんからね」


「ああなるほど……」


 しかし正直この育ち盛りの体には栄養が足りていない……明日あたりに解決しなきゃまた森に入らないとかなぁ……じゃないとこのままのろのろと鬼籍に入ることになりそうだし、流石に何日も親父さんに甘えてられない。



「金…無いなぁ」


「……大丈夫よミリアちゃん、いざとなったら私も少しくらい…」


「あ……いえ…それは…」


「ううん…親の無い子供は他の大人が育てる…そしてその子供がいてくれれば私達は神の国に行ける、そう信じてるからできるの…悪いなんて思わないで」


 一種の信仰か?


 ……うーん…こんないい子に金出させるわけにはいかねえな、本腰入れて考えなくちゃ……手がかりほぼゼロだけど…


「では…ありがとうございます…失礼します」


 泣きそうだしさっさと上に行ってしまおう、女の子の善意には弱いんだぜ私は。

『……ほう?』


 例外はある。







「しかし…ありがてえな……」


「ええまったく…嘘をついている罪悪感も少しは沸いてきますね」


「お前が人の心がある寄生虫で良かったよ…」


「お父さんが言わないでください」


『ねえ……いつ私の体って帰ってくるの…?』


 んー……ひとまずお嬢ちゃんがしばらく困らない環境、目下のところ金儲けがある程度すんだらかな。


『……連れて行ってくれないの?』


 行く宛もない旅に子供連れて行くのは流石に無理があるさ、足手纏いってんじゃないけど昨日のあいつら(トゥレント)を見たろ?守ってやれるほど強くないんだ私等は。


『……私が戦えないから?』


 ……まあね。


『………そう』


「ミリア殿はなんと?」


「路銀が溜まったら連れて行ってくれないのかってさ、しばらくこの街にいるのもいいとは思うけどね」


「そうですね…行動指針も決まらない今では流石に連れて行くわけには……」


「この街で細々と冒険者目指して鍛えるのが丁度いいと思うよ……?」


『いいよ……もうそれで……』


「……私達は最悪『一回休み(シスト)』で生き返れますがミリア殿はそうはいきませんからね」


『…………』


「黙っちゃった、困ったね……」


「まあ、まだ考える時間はありますから」


「………そうだね、明日の予定を決めよう」


「ええ、またあの家に行くんですよね?」


「ああ、でも正直黒だとしたらそう簡単に尻尾は出さないだろうし……何より依頼した理由もわからん、大胆な行動に出るのは難しいかもね」


「ですか……本当に違和感のありすぎる事件ですし、何かしら腹に抱えてるものがあると思うのです」


「ほう……その心は?」


「勘です…」


「…獣の勘って奴か」


「せめて…せめて女の勘でお願いします…」


「そうさなぁ……ああ、じゃあこれは?」





「…………危険では?」


「まあね、黒なら十中八九私の身がヤバい」




「頼りにしてるぜ我が娘よ」


「認知してないくせに……」


 こちとら独身のまま親になったんじゃ、気持ちの整理ぐらいつかなくても仕方ないやろがい。

ちなみに今の所ブレ子の残機は0だからどっかで頭ぱかっと開けて水辺に行かないとね。

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