異世界ハリガネムシ
んー、これは……どうとらえるのが正解かな?
最後に見た光景は真上から迫るいくつものナイフみたいな鋭い歯を暗黒と腐臭漂う口から覗かせる全身鱗塗れの犬みたいな化け物だった。
まあ鼻とか無いし見た目以外憶測だけども。
完全に死んだ、確かにそう思ったけど。
実際私は今生きている。
風景がやや広がったことや外の景色が見れなくなった事以外は問題ない。
[浸食不可]
しかしまあ…何となく見覚えのあるカラーリングの破片が私の周りにある、カメレオン君…すまないね。
ざっと整理するとだ、私はあの時食べられた。
それはもう完膚無きまでにむっしゃむっしゃいかれた。
でも私の体は無事だ、まあ…カメレオン君は粉々のミンチになって私の周りを散らばっているがね。
きっとカメレオン君が身代わりになって、その上で運もあるだろうけど助かったんだろうね。
でもきっと私の冒険はここで終わりだ。
寄生が反応しない、レベル差がありすぎるんだろうさ。
[浸食不可]
それにさっきから絶え間なく聞こえるこれが物語っているよね。
私にこいつは乗っ取れない。
んー……まあ、こんなもんか。
スキルだとか色々、数時間だから体験版みたいなものだけど十分楽しめた。
私がもし死んでたなら、これがオマケだと言うなら。
大好きだったゲームみたいな世界で遊ぶことができた、ある意味満足ではあるね。
まあ欲を言うなら魔法は使ってみたかったね、あとチート無双とかハーレムとかさ。
ライバルと戦ったり、悪い王様から民を救ったり。
最終回にはお嫁さんと子供と仲良く暮らしてる絵を引きで終わらせる、そんな楽しくも熱いストーリーを期待して無かったと言えば嘘になるさ。
だけど、最期は潔くがモットーだ。
悔いは無いさ。
[浸食不可]
[近くに水辺を確認。]
[スキル『寄生LV.4』で脱出しますか?]
できるんかい。
は?浸食だけじゃないの寄生って。
え、じゃあ悔いるけど?
打つ手が無いなら諦めて安らかに逝くけど手段あるならゴリゴリに生き汚く行くよ?
現代っ子舐めんなよ、吐いた唾は地面に這いつくばって啜ってでも生き残る所存だわ。
てかさー……いやもう本当にフレーバーテキスト付けろよ、昨今のゲーム事情のせいで減ったけど皆はフレーバーテキストを待ってるんだよ。
最低でも説明書は付けろよ、今のはゲーム起動画面の手前でヘルプ見れるようになってるけどあの説明書を見てる時が一番わくわくするんだろうがよ。
何の話だっけ。
いやそうだよ脱出だ脱出。
寄生出来ないならいつ消化されるかわかったもんじゃない、ささっと出て…あ、この感じ!
デジャヴ!?
体がどんどんこの生物の体内を駆け下りているのがわかる、ついでにいうとこの生物がのたうち回ってるのも何となく感じ取れる、めっちゃ揺れとるもん。
そして、ちゃぽんと音がして私は最初にこの世界に降り立った時と同じ状況を繰り返した。
すぐに泳ぎ出したかったが体から何かが抜ける感覚にしばらく動けずにいた。
そして目に映るのはじたばたと四肢を動かしながら水に顔を付け溺れようとしている先程の巨大な鱗ドッグ。
私はシュールって言っておけば色々解決する風潮には飽き飽きといった者だけど、これは言うね。
シュールだよ。
あ、死んだ……ビクンビクンしてる。
目の前で繰り広げられたセルフ溺死、私が出てきた部位。
そしてこの特徴的なボディ。
察していた、察した上でミミズもどきとお茶を濁していた。
だがもう言い逃れはできないさ、二回尻から出てきたしね。
私は、ハリガネムシだ。
ハリガネムシ、それはカマキリに寄生して溺死させる生物。
それ以外の知識は無い、何のための行為かも知らない。
だが己を知ることは成長への近道だと誰かが言っていた。
ハリガネムシがなんだ、私はただのハリガネムシじゃない。
そう、私は。
異世界ハリガネムシだ。
ニヒルに笑い、たった今溺れ死んだ鱗ドッグに一瞥くれてやるとその体内に眠る友に別れを告げる。
いやハリガネムシに表情なんてねえわ。
くそ、ハードボイルドになりそこねた。
私の天使のような笑顔を返せよ、どんな顔してたか覚えてないけど。
[称号を獲得『殺戮する者』]
[経験値の超過を確認]
[経験値の超過を確認]
[経験値の超過を確認]
[経験値の超過を確認]
多い多い、待て待て待て。
[経験値の超過を確認]
待って、そんなにやばかったのこいつ。
[経験値の超過を確認]
はぐれてる彼とかキングな彼とかではなく?
[経験値の超過を確認]
レベルアップがとどまることを知らないね?その割にステータスが上がってる気はしないんだけどさ。
[レベル上限到達、獲得しきれなかった経験値を破棄します]
[進化準備完了、進化しますか?]
進化?まだいいよ、あっと間違えた。
まあいいや、しかし何に進化するんだろうか?
[進化、失敗]
[進化先未確認]
[進化を次の世代に受け継ぎます]
[次世代の進化先を選んでください]
わからんわからん、取り敢えず進化できないことはわかったけど。
選択肢がブレインイーターとボーンモロウ、脳食いと骨髄?
取り敢えず前者はおぞましそうだし後者もヤバそうだな。
どっちでもいいどころかどっちも嫌だよ、何よりこの選択肢から人間に近付く方法が一切浮かばないよ。
こう言うのって普通どっかで人間になったりするものだよね?ビジュアル的にいつまでも魅惑のうねうねハリガネボディはヤバいだろうし。
あれでもこれ…両方選べる。
んー、両方選んどくか。
次の世代って言うと私あんまり関係無さそうだし、現時点で次の世代に行くこと無さそうだし。
何とでもなるか。
[寄生体から得るスキルを選んでください]
寄生体から…カメレオン君のスキルをどれか貰えるってことかな?
せっかくだからあの鱗ドッグからも貰いたいところだけど厳密には寄生したわけじゃないから駄目とかなのか……ちょっとくらいサービスしてくれてもいいのにさ。
うわ、しかも取れるの一種類かよ。
んー、ならもう一択だ。
その後は少しスキルやらが増えた、あんまり使えそうなのは少ないけどね。
種族名 アビス・ゴルディオイデア
LV. 30 HP 580/580 MP 237/470 SP 865/900
STR 7 DEX 18 AGI 22
アクティブスキル
『寄生LV.7』『単位生殖LV.4』『拡張解析LV.4』『一回休みLV.3』
パッシブスキル 『気配遮断LV.2』『怒りLV.1』『産卵LV.5』『乾燥耐性LV.4』
『混乱耐性LV.3』『探知LV.1』『審美眼LV.1』『炎耐性LV.1』
『破壊衝動LV.1』
称号 『殺戮する者』
状態 湿潤
私の成長限界はレベル30なんだね、成る程成る程。
成長限界まで育ってこのステータスは何だ。
お前…お前、やっと他のステータスも出てきたと思ったらこのざまか!
30まで育ってこれならレベル1の頃とか何だったんだよ!
TRPGとかならまあ…高いね?って感じのステータスだよ。
そして色々試した結果がこれだ。
審美眼 見た物がどういう特性を持つのかわかるよ
拡張解析 同上
そう、このスキル群の中で被ってるのあんだよ。
カメレオン君から取るの…被るくらいなら大人しく透明化取れば良かったなー!
何で!私は!
へへ、ここで透明化とる奴は愚策だぜ的な感じで拡張解析取っちゃったかなー!
あとちょくちょく上がってる乾燥耐性がムカつく!
[パッシブスキル『怒りLV.2』を確認]
いや、そんなには怒ってない。
何より不安なのがやたらと上がった単位生殖&産卵。
やはり産めと?私がママになるの?
ママに……駄目だわ、スキル『母性LV.10』くらい欲しいわ。
単位生殖で産まれた自分の子供(寄生虫)は愛せないわ。
むしろ実質本人じゃねえかそんなもん。
っと、体がぱりぱりしてきた…乾燥耐性ってのも案外必要なのだろうか
水中に飛び込んで水をなじませると潤いを取り戻し滑らかなボディだ。
水中で活動ができたらもっといいんだがなー…魚辺りに寄生するか?
いやでも、ここ実質水溜まりっぽいし魚はいなさそうだな。
取り敢えず当面の間はこの池を拠点にし、尚且つ今のレベルならばあの鱗ドッグみたいなのにもいけるんじゃないだろうか?
まあさっきの奴は死んだけども。
いや、過信はいけないな。
今さっき透明化を過信したばかりに友が粉々になったしね。
これがゲームなら、きっと世界は私に何かをなせと言うのだろう。
かまわないさ、生き残るついでだ。
うん、取り敢えず私が主人公だと言うならばママになる前にハーレムを築き上げたいところですね。
私に母性が目覚める前に。
タイトル回収しただけで最終回ではない。