金が無いのは首が無いのと同じである
片付けを済ませ街に出てみると相変わらず活気があるんだか無いんだかわからん場所だなここは、子供は元気だが大人は顔が何人か死んでいやがる。
いや何も締め切り前の漫画家とか徹夜でFPSのランク沼ってる奴みたいなってことじゃないぞ?
絶望の縁、崖っぷちって感じで切羽詰まってるような、そんな顔だ。
「まあ漫画家も徹ゲーニートもそんな顔してるかな?」
「何の話をしてるんですかさっきから?」
「気にしないで、私の数少ない残された過去の記憶さ」
むしろ何でこんなどうでもいいことしか残さなかったのかとGODに問いただしたいがね、許されるなら一撃入れるし願いを叶えてくれるなら沢山お金ください。
『……俗物』
喧しいぞ小娘、お金の大切さは昨日身に沁みただろう?お金が無いとデッカいカマドウマ…コオロギ?まあわからんけどその辺食べることになるんだぞ。
『今食べるのはハリガネさんだから』
お前の体なんだけどなぁ!?いいのか!?不可解な慢性的腹痛に悩まされるかも知れないんだぞ!?
『毒には強い…はず』
毒耐性の一つも持たずによく言えたものだな。
「ほら父さん着きましたよ、ここが仕事斡旋ギルドです」
だいたいこう言うのって酒場っぽかったりしない?何か普通の…事務所…?感あるな。
「どうして仕事の話をするのに酒が必要なんですか…?」
……言われてみればそうだな。
「ごめんくださーい」
木製の扉をギギィと音をたてて開くと石畳に固そうな脚の高い椅子、そしてカウンターがあるだけの質素な部屋が広がっていた……ロマンあって嫌いじゃないよ、私は。
「ああ……はい、そちらへ」
「失礼します」
カウンターの奥に座る眼鏡の爺さんに促されるままに椅子に座る。
足付かない椅子怖いな、座って言うか登るって言った方が正しい感じだもの。
「それで仕事ですな……ええと、どのようなものか希望はございますかな…?」
「なるべく実入りが良いものを」
「……そうですね…ええと、そちらの……ええと?」
ああ、そう言えば私は亜人が差別されてない確証が無かったから顔面包帯グルグル巻きのミイラレディだ。
1人はペストマスクで1人は包帯……怪しさが凄いなうちのパーティーは。
「妹のミリアです、この街に来る前に魔物に襲われまして……傷は大したことは無いのですが空気が当たるとどうにも痛いとぼやくのです」
「成る程…それは災難でしたな、しかし傷物となると程度によっては貴族の隷属奉公にも需要は……」
おいおい、本格的に身売りする気はねえんだぜ?そもそも見た目が幼女でも中身はトリッキーな性格してるハリガネムシだ。
『自覚あったの……?』
うるせえなぁ……そんでブレ子よ、私を売り飛ばしたりしないよな?
……あれ?
「……御仁、言葉に気をつけなさい…貴方を殺さずともいっそ死を願うほどの苦痛を与えてやることはできる」
え、ブチ切れ?
「……試してみますか?」
ゆっくりとした動作で刀に手を…ってヤバいだろこんなとこで抜いたら、街中だし憲兵もいるっぽいし。
落ち着きなさい我が娘よ、私は気にしてない。
「……選択肢の1つをと思っただけですな、そう猛らずとも仕事を斡旋するのが儂の仕事……これなんぞどうですかな?」
一触即発の空気だったのに慣れた様子でブレ子の殺気立った言葉を受け流して自分の仕事をする爺さん、て言うか何でこの子急に怒ったの?
えー、何々……迷子の子供探しとな?
多分もう死んでるか売り飛ばされてると思うよ、次だね。
「てはこれをお願いします」
ヴァァァァァ……やるのぉ?
……まあ、やるよな、うちの娘は優等生タイプだし。
ん…でもあても何も無しに見つけんの無理臭くねえ?
「かしこまりました、それよりまずは登録をお願いしますな」
登録?何の?
「ギルドに名前などを登録します、儂は以前登録した記録があるはずなのでそれを、名前はコノハで職業は剣客です」
え、何そのちょっと物々しい木の御守り…?
いやてかお前剣客って職業だったの?私は?
「ああ、ありましたな……ふむ別の街での依頼成績は悪くはありませんが、いかんせん良くもありませんな?程々に実力があるならもっと討伐などをこなすと良いですな」
ああそれで承認されるんだ…SFなアイテムなのかマジックアイテム的なものなのか。
「生憎、殺生は苦手でして」
「勿体ないものですな、さてそちらのお嬢さんは新しく登録致しますな……名前はミリアと」
本名じゃねえけどいいの?
『多分……?』
まあでも、自己申告でいいなら大丈夫なんだろうよ。
「ミリア…デス、職業はよくわかんなくて…」
「では無職と」
ぐぅっ!?何か…心臓痛い、いや頭も割れそう…ニート…ニートは嫌……
「……町娘で」
「はい?」
「職業欄は町娘でお願いします!!」
「は、はぁ…ではそのように」
「……急にどうしたんです?」
爺さんが書類か何かを探しに行くのに合わせてブレ子が耳打ちしてくる、そんな顔を近付けたらっ!……あ…鉄錆の臭い。
「はぁ……いやわからん、無職の称号だけは回避したかった」
「……難儀ですね」
まったくだよ。
「お待たせしましたな、こちらに記入していただけますか?」
「……おっ」
「はい?」
「あ、いえ……」
やっべ言語わからん……ブレ子に代わりに書いてもらうか…?
『……?』
そもそもこの世界って統一言語か?街にある文字の殆どが……あ、スキルあるわ。
『馬鹿なのかな?って思いながら見てた』
言ってよ……
わー、すらすら書けるー……て言うか覚えのない文字列が手から出て行く様は何か不気味、怖。
あー、種族どうしよっかな。
「ここの種族の欄に……嘘を書いたらどうなりマスか?」
正直ここでこれを聞くのはある種チャレンジャーな事だ、何たって今から嘘を吐くよって言ってるようなものだからね。
だが、聞く。
何も自殺志願ややけっぱちって訳じゃない、単純にやれるならやる、駄目ならどうせバレるからやらない。
それだけの話だ。
「……私からは何とも、お好きなように書いてくださって結構ですな……そもそもこの国はそう言ったものに寛容ですからな」
僥倖。
では人間っと書いとこう、どうせ能力なんぞ大して変わら…変わるか。
『腕力とかは全然……でも木登りが得意で夜でも見えるよ』
なにそれチンパンジー?
『意味はわからないけど馬鹿にされてるのは伝わる……』
不思議だね、新種のスキルかな?
「ふむ、これで問題ないですな……登録完了です、では改めて依頼の斡旋承りましたな」
「どうも、では失礼します」
「待った、此方へ流れてくる仕事なのでそこまでの危険は無いとは思いますが……まあ其方のお嬢さんにはもう少しちゃんとした服か装備を着させるのをお勧め致しますな」
最近服についてめちゃくちゃ心配されるな、まあ少なくとも身綺麗にした方が良いとは思うがね。
「……御忠告痛み入りますですが難しいですね……」
「……ほう?」
「今日……泊まるための路銀も無いのです……」
「…………行ってらっしゃいませ、無事をお祈りさせていただきますな」
……何か言えよ。
お嬢ちゃんことミリア(仮)の口調がやや変わって言ってるのはハリガネムシとの同調が行われつつあるからです。
……つまりもうしばらくすると取り返しのつかないことに