飽食の時代にサバイバルは厳しいものがある
青臭さと生臭さ、ほのかな土臭さを兼ね備え口に入れた瞬間感じるトゲトゲとした脚棘が口内に突き刺さる不快な痛み、味は塩っ辛いような酸っぱいような何とも野性味を思わせるそれはまさに美味すぎずに不味すぎる味わいだった。
深く深く目を瞑り、肺のそこから呼気が吸い込んだ量以上に溢れてくる。
ああ…目を開ければ見知らぬ世界…ここはいったい……
あれは…お嬢ちゃん…?
「あ、ハリガネさん……?」
ハリガネさんだよ、ここどこ?何やら真っ白で平面でやたら神秘性を感じるような…まさかここでの一年が外での一日になると話題のあの御部屋?
「私が聞きたいんだけど…」
んー、普通にお嬢ちゃんの姿が見えている以上まあ私の深層心理とかじゃないかな?
「…それが元の姿なの?」
何が?
ん…いや視線高くね?
目線を直せばお嬢ちゃんが映らず、下を向けば見える人間の手足……手足?
おぁぁぁ!?人間だ!?
いや…人間かこれ?
何というか……モザイク?検閲かけられたの?そんで弾かれたの?
「モザ…?」
「えと……村の人じゃないんだよね…?」
こんなモザイクの塊が?君の村私が知らないだけでこんなのいた?
「え、いや…同じに見えるけど」
私が?お嬢ちゃんに?
「て言うか…同じ種族?お父さんに似てる…」
お父さんこんなモザイクだったか?年頃の娘ってお父さんのことモザイクに見えてんの?そら気持ち悪いわ、洗濯物一緒に洗わないでとも言いたくなるわ。
「何の話…?」
妄言さ、慣れろ。
「う、うん……」
取り敢えず座るか、立ち話もなんだし……いつ向こうに戻るかもわからんからね。
「……うん」
…何で隣?
「……いいから」
おや…フラグ……?
参ったな、ロリっ子は流石にハリガネさんの倫理観に……
「……」
違え、泣いてる。
……ああそういうことか。
「!」
お嬢ちゃんの頭に手を乗せてみたら驚いたことにモザイクの手でもちゃんと触れられた。
柔らかい髪が少しぺたぺたとする子供特有の脂感、懐かしい気もするし初めて触れるような気もする。
「……何?」
柄でもないのはわかってるけど、そんな風に甘えられちゃこんな真似事でもしてないと犯罪感が否めないのでね。
いや、まあ……幼女の頭を撫でるモザイク塊は犯罪と言うか最早狂気を覚えるけども、芸術作品にするならタイトルは『欺瞞』かな。
……そのね、私に君の父親の代わりはやれないが、不本意ながら一児の……下手すると二児の親だからさ。
「ハリガネさん……」
礼はいいさ、むず痒くてね。
「ううん…その…」
「気持ち…悪いよ?」
……そうか……うふふ。
「っしゃあ!そっちがその気なら上等だぁ!ぶっ殺してやらぁ!」
「どわぁ!?」
「お、お父さん…?いきなり物騒な事を言いながら立ち上がらないでください!」
わ、私は何を……
「……あれ、もう朝か?」
「ええ、昨日お父さんってば沼蟋蟀の脚を口に入れたらそのまま寝てしまったのですよ?それ程お疲れだったならば儂に言ってくだされば…」
「食ってる最中倒れたなら昏倒って言うんだよポンコツ侍、二度とあんなもん出すんじゃねえぞ……」
「お金が無いのですから仕方ないでしょう、何も食べないよりかはましな筈です」
「手に入れたカロリーよりも失った物の方が大きいんだよなぁ!?」
何だ、むしろ森に住むお嬢ちゃん辺りにはポピュラーな食材なのかあれは?
『……普通は焼く、美味しくないし栄養も少ないからあんま食べない……強いし』
「そうか、腹斬れお前」
「そんな御無体な…」
栄養があるならまだ許せたけどシンプルによくわからん虫の魔物食って昏倒しただけじゃねえか!
「……空腹は紛れますので」
……これムカデが食い残してた理由的に当然は当然なのかな、彼奴は完全にカロリーを取り続けないと死ぬ体だったし。
生物は消化にもカロリー使ってるって何かで聞いたことあるし多分恐らくそう言うことだと思っとこう、考えたくもないし。
おやノック……誰だ?
「おうお前ら、起きてるか?」
おっさんか、幼女スイッチON。
「お、おはようございます…」
扉を開けておどおどした様子で挨拶、ややはにかむ事を忘れない。
「ああおはよう……スープしか出せねえが倒れられちゃ金を稼いでも来られねえからな、飲んだらさっさと働いてこい」
あーいい匂い…成る程おっさんめ、施せないとか言ってたのに無理したな…?必ず借りは返すぜ。
「ありがとうございます!!この御恩は必ず!必ず!」
高速の土下座……私じゃなきゃ見逃しちゃうね……むしろ娘の土下座姿はできることなら見逃したかったけども。
食いしん坊キャラで行くのかなこの娘は。
「頭上げろ、お嬢ちゃんの前だろうがよ」
「ええ…うっぐ…ひっ…いつぶりに……まともな食事に……」
うわぁガチ泣きだ…嗚咽混じりだ……
「……くっ…」
釣られておっさんも目頭を抑えた!どうして?
『…皆泣いてる?』
大人には色々あるんだよ……
「よし、それじゃあな……頑張れよ、あと洗い物は自分等でしとけな」
「ええ…必ずや恩義に報います……」
「ありがとうございマス…おじさん」
「……ふん、まあな」
さては照れ屋だな、でも男前だぜおっさん。
……あ、美味い。
「いつのまに飲んで……いやいいですが」
すげえ素朴な味……特別美味いってよりは安心するような…カメレオンやカマドウマに比べりゃ三ツ星級だね。
「……あれだって別に悪くは…」
お黙り味覚の崩壊者。
「謂われない称号が…」
無いかどうかは己の胸に聞くが良い……ほら、早く食べて仕事探そうぜ?
「ええ、美味し糧を」
両手を合わせて茶碗に向かって一礼、日本なのか何なのかわかんねえなこの挨拶、掛け声も含めて。
しかしこのスープは…何だろう、味と言うかスパイスなのかな?使い方がインド料理っぽい。
鼻をくすぐるほのかに甘いような香りはパクチーか何かだろうか?そんなわけねえだろ異世界だぞ、あってもよく似たものだな。
でもあるならハーブの類いとかは手に入れておきたいよね。
この先多分糞不味い食材も増えるだろうけどスパイスが手に入るならある程度まともには食べられる。
カレー粉…市販のカレー粉さえあれば大抵のものは行ける気がするんだ私は、それかマヨネーズ……あれは神の食材だ。
むしろ作れるか……?
酢と卵と油だかがあれば……ふふ夢が広がるじゃないか。
「お父さん?さっきから考えている物は食材なんですか?」
「ああ、神の領域を作り出すためのピースさ」
「……ほう」
いつか挑戦してみよう……何てこと考えてたらスープがもう空になってしまった、仕方ないし働きにいくかぁ!
「んでも具体的に私達は何をするの?魔物倒したり魔物の素材とか納品したり?」
「できるならば是非宜しく御願いしたいのですが……恐らく食材探しや付近のパトロール、掃除等が主な仕事かと思いますよ?」
「つくづく異世界転生らしさがねえなおい……」
「何を求めているのですかまったく……危険無く金が手にはいるならば好都合でしょうに」
それはそうだけどー……
「ほら行きますよお父さん、儂が皿を片付ける間に準備を御願いします」
あいあーい……
まあ……冒険もお腹いっぱいだしな。
ついにブクマ100を越えましたー!これからも気を抜かず頑張ります!そしていつもありがとうございます!!
沼蟋蟀君、一番美味しいのは胴体だけど十中八九食中毒というかシンプルに毒性あるので脚を食べるのが安パイ。




