髭で子供好きは良い奴が多い
「いやー、すまんかったなぁ…色々と」
「極東の流行りかその鎧は?」
「今時は亜人だって顔隠すんだから普通だよな…俺らが悪かった」
「もう良いですから…」
私の娘はどうやら心に深い傷を負ったが謝るのは多分そこではないと思う。
「おじさん達は…ハンター?」
「ん?いや…本職は別なんだがな、最近は食糧難で俺らみたいなのも獲物を探さねえといけねえんだ」
「領主が少ねえ食糧を街民には分けても俺達には分けたくねえんだとよ」
ほう?
「悪政を敷く領主ですか…それは」
「ああいや、奴も奴で仕方なくやってんのさ……少ねえもんを分けるなら確かに自分の領土の人間からだからな、それに子供だけにはこっそり分けてくれるんだ」
「王都から上級貴族の連中が来るときは最低限取り繕わねえと行けねえし…必死にやってんだろうよ」
「……頑張ってる良い奴だ」
普通こう言うのって悪い領主を絞めるとかそう言う話じゃないの?
「儂はその街に近付いた事は無いのですが、どのくらいの規模なのですか?」
「規模…そうだな、人数は一万を越えない程度かね?」
「数えた事もねえけど余所から住み着くのもいるんだ、わかんねえよ」
「……いっぱいいる」
「一万…それは中々」
多いの?少ないの?
『うちは100人ちょっとくらいしか…』
まあ小さい村だったしなぁ…
ところで髭がしきりにこっちを見てくるのはお嬢ちゃんの魅力に引き込まれたのかな?
『えっ……』
「……この子がどうかしましたか?」
「ああいやすまん…何でもねえんだ」
「気を悪くしないでくれ、此奴は別に取って食おうと思ってるわけじゃねえ」
「……ウーゴは子供が好きだ」
どうやら髭はウーゴと言うらしい。
「それよか…あー…えっと?」
「失礼…儂はコノハと申します」
やっべお嬢ちゃんの名前わかんねえ。
『何か…何か適当に』
ハリガネのハリ子とかでいい?
『…………』
無言はやめようよ、冗談さ。
『…ブレ子は?』
それもそうか、下手に前例作っちゃったな…まあいいや。
あ、凄い良くないって顔してる気がする…マスクなのに。
「えと…ミリアです…」
「おお…俺はウーゴ、そっちの赤鼻の頭でっかちがガビでデカい無口なのがロッドだ」
ふむふむ、名前から年代も国も割り出せないから気にしない方向で行こう。
まあそもそも異世界だしね…どんな名前の奴がいても驚かないさ。
……ブレ子が凄い顔で見てる気がする、何が不満だと言うのだね。
「ミリアですか…そうですか…ちゃんと付けるじゃないですか…」
「…どうした?」
「い、いえ…このお姉さん少し独り言が多くて…」
「名前からしてこの辺りの生まれじゃねえんだろ?なら仕方ねえさ、俺も昔ここに来る前の言語と照らし合わせるのが大変だったぜ」
ウーゴさんはどうやら余所から流れてきているらしい、て言うかブレ子の外側ってやっぱり日本系だよね?木葉だよね?
……いや日本刀持ってるからそりゃそうだけど。
「……何も襲ってきませんね」
「弱い奴なら襲ってきてくれていいんだけどなぁ」
「帰ったら腹減らした奴が多くてな」
「…皆餓えてる」
強いのかこのオッサン達、解析したいけどやったらバレるみたいだし今はただの幼女だから厳しいかな。
「ウーゴさん…私怖い」
「お?ああ…まあそうだよな」
「怖いってのは大事だぜお嬢ちゃん、生き残れるからな」
「……守ってやる」
ふむ……死にそうだなこいつら。
『身も蓋もない…』
いやぁ、そう言うフラグでしょ?異世界なんて物は良い奴から死んでいくんだよ。
……特に子供好きって死にやすいよね。
「見えてきたな、この辺りから俺達の街だ」
「え……扉とか無いんですか?」
「あー…王都の方にはあるなぁ」
「ここは王都エンシスハイム…の城下町の辺境の更に下町だな」
「……またの名を貧困町」
つまり貧民街じゃねえか、大丈夫かここ。
「扉な……まあこんな場所だしな、王都はともかくこの辺りの人間なんざ何人いるかもわかってねえ」
「貧困町の連中が飢えようが森から流れ出た魔物に殺されようが王都の連中は気にも止めないね、そのくせ汚れ仕事は俺達に任せやがる」
「……都合がいい奴等だ」
「民がいてこその国家でしょうに…」
「仕方ねえよ、人間だとも思われちゃいねえんだからな」
やー胸糞悪いねー、お嬢ちゃんにあんまり聞かせたくねえ話しだ。
あと多分生後数ヶ月の娘にもな。
『別に平気…そう言うのはあるって知ってるから』
「よお、帰ったぞ」
「ウーゴ!お帰りなさい!」
「何か食い物はあったか…?」
ボロ小屋が立ち並ぶ寂れた町からガリガリにやせ細った人達が出てくる、何か昔見たゾンビ映画を思い出す光景だとも。
「すまん、今日も何も見つけられてねえんだ」
「やはりこの辺りにいた連中は軒並み食われたかもっと奥に行っちまってるみたいだな」
「……不甲斐ない」
……こう言うのなぁ、見るとフラグが立って何かしないといけなくなるんだよなぁ。
私は別に勇者でも何でも無いんだから助けるつもりもないんだけどさ、見返りも期待できなさそうだし。
『私の時は…?』
そりゃ恩人だったし体乗っ取るつもりだったし。
『…………』
…冗談よ。
「なあおいアンタら余所者か?」
うぉぉゾンビ?
…いやボロボロの爺さんか。
「ええ…旅の者でして、森から抜け出そうとしているところをウーゴ殿に見つけてもらい一緒にここまで」
「……そうか、ならこんなとこにいるべきじゃねえ…ウーゴ、さっさと城下町の方まで案内してやんな」
「ああ、そうするつもりだ…ナッチ爺さん、今日は奴等は?」
「……掛け合っては見たんだが駄目だった…」
何の話だろうか。
「……仕方ねえな、結局のところ俺らはドブネズミだ…わざわざ餌を与えてくれる奴はいねえんだよ」
「……すまん、明日は何か食い物を…」
ああ、王都の連中は食事をくれないって奴か。
狩猟だけで一万人の食糧を賄えるわけもないし家畜か農耕かその両方でも行われてるんだろうね、となるとここが飢えてるのは上で止めてるのか…それか亡き者にしたいのか。
まあ何にせよ焦臭い話だろうさ、正直国としてやる以上貧富の差は確実に生まれるだろうし…それを全部取っ払った結果元の世界では目を背けたいことが起きたからね。
彼等が如何にに良い人かは関係ないんだよ。
助けられる事じゃない、だから少し落ち着きなよお嬢ちゃんにブレ子。
さっきからやるせない気持ちが滅茶苦茶伝わってきてるよ。
「……問題ありません」
『……うん』
本当にござるかー?特に今にも王都に直談判しに走り出しそうなそこの不審者よ。
「誰か不審者だ!」
「おお?どうした?」
「ああいえすみません…」
うむ、今度は怒りと若干の殺意を感じる。
「すまんすまん、さっさと行くか…余所者なら王都じゃ客として扱って貰えるから向こうについたら美味い飯にありつけるぞ」
「そんで、もう向こうについたら戻ってくるんじゃないぞ?嫉妬しない奴等ばかりじゃねえし…乱暴なのもいるからな」
「……達者でな」
「ここからはウーゴさんしか来ないの…?」
「お?何だ俺だけじゃ不安か?」
「大丈夫だ、ウーゴはこれでも元々は王都の騎士だったんだぜ?」
「……強い」
いやまあそこじゃねえんだけどさ。
大方関門でもあんだろうね、貴族がどうのって言ってた辺り特権階級は存在するしそれから見たらこの町なんざ目障りなゴミ貯めってとこか。
「では安心ですね、儂達はか弱い女子なので」
「ね、根に持つなよ…悪かったって」
さてと…小言笑い事は程々に、ウーゴのおっさんに連れられて貧困町を抜けるとそれはそれは大きな壁……ではなく崖があった。
巨大な崖、そしてそこに掛けられたら橋と奥に見える砦のような門……関所ってこんな感じだっけ?
いやてかこれは……
「うわ…高」
「はは、ここの辺りは昔ある戦いの余波で吹き飛んだって昔話があってな、余所者は皆驚くんだ」
この高さのバンジーならミミズママでも一撃だろうね。
「ここ抜けたらすぐ街だ、俺は中まで入れねえが何かあったら酒場で名前をだしな、何人か友達がいる」
「色々とありがとうございました、ウーゴさん…必ず何らかの形で御礼はさせていただきます」
「はは、期待はしねえよ」
ウーゴさんは私達と別れた後もしばらく手を振ってくれていた、律儀で本当に良い人なんだろうか。
「何だか、出会ってすぐの別れだったけどまた会うことにはなりそうだな……て言うかブレ子はこの状況をどうにかしたくてうずうずしてるみたいだし?」
「うずうずなど……それより父さん」
「どうした?」
「怖いので手を握っていただけますか?私がでなくコノハ殿が高いところが苦手なようでして、記憶から足が震えます」
お、おう…いや私も本体が結構高いところ苦手だからな?
『…ビビり』
お前大丈夫なんかい、一番恐がれよ幼子。
しかしこれあの馬鹿でかい関所通れるのか?
…厳つい顔した兵士が並んでるところを見てると鬼教官の真似したくなるよね?やんないけど、今幼女だし。
「…そこで止まれ、どこから来た?」
「旅の者です…こっちは妹のミリア、ウーゴ殿からここに行くようにと」
「ウーゴ……どうぞこちらから」
あらあっさり……まあ王都の城下町って言ってたくらいだし人も多い、ある程度大きい街ならこういう客も慣れてるってこったろうね。
でもウーゴさんさては結構上の役職だったとかなのかな?兵士君の表情がちょっと和らいだし知り合いとかかな。
扉を抜けたら石畳の地面にレンガの家そして噴水や所々に植えられた街路樹……わー、スッゴく異世界してる。
てかRPGで序盤に来る城だ、大概滅ぶ。
でも何より私の目を疑ったのは街の風景その物じゃないよね。
路上に佇む四本のポール、そしてそれを四角形に繋げる弾力のありそうなロープ。
これは…そうだよな?
プロレスリングのような物がそこにあった。
ウーゴ、ガビ、ロッドの三人
本職は順に農家、農家兼硝子職人、農家兼鍛冶屋