知らなければ怖いもの知らず
機嫌直すのにめちゃくちゃ時間かかった……おかけであんまり進まず何とかキャンプさ。
「火をおこしますので薪を拾ってきていただけますか?」
「ほいほい……薪ってどんな?」
「え…適当に乾いた木があればそれで大丈夫ですが」
その信じられないものを見るような顔をやめなさい、お父さんは現代っ子なの!
さて拾うかね。
乾燥した木の枝、燃えそうな木の枝…何かよくわからないキノコ、これは燃やしたらヤバい煙がでそうだな、紫色だもの。
いや待てよ……?あの芋虫だって見た目は毒そのものだけど味は悪くなかった…つまりこの茸も…
「え、何で毒キノコ持ってるんですか?食べられませんよ?」
毒だったわ、凄い目を一瞬向けられたわ。
「て言うかそれ火に近付けないでくださいね、煙吸い込んだら笑いが止まらなくなって最悪死にますよ」
あ、ヤバいガスは出るんだ。
嫌な方ばっかあたるな私の勘は……持っとこ。
『そんなもの鞄に入れないで…』
どっかで使えっかなって……食べなきゃ大丈夫大丈夫。
「お父さん、あんまり火のそばにいないでくださいね?熱い…ええと熱いはわかりますか?」
「何だお前馬鹿にしてんのかこの野郎」
新手の精神的な家庭内暴力か?
「だってお父さん…そこらの幼子より物を知らないじゃないですか」
「急にこの世界に投げ出された私の気持ちも考えろよ…しかもハリガネムシだぜ?」
できるならその場で身投げしてたレベルだよ。
「何の不満があるのかは知りませんが…儂とて目覚めたら周囲に誰も居らず不安でしたよ、どこにいたんです?」
「時期によるけど…うーん、多分ムカデになって鹿と戦ってたかその鹿に負けて眠ってたかな」
「鹿…ムカデ…それ、本当なんです?」
む、何だねその目は…マスクで一切わからねえじゃないの
「と言っても、説明の手立ても無いから何とも」
「ムカデや鹿なんて儂会ったことも見たことも無いですよ?」
「んー死んではいないと思うんだけど…鹿は黒くなったしムカデはデカくなってたからわかんないのかね?」
正直最後の黒い奴にいたっては本当に鹿だったのか怪しいしな、瞬殺されてたし。
「……わかんないな」
「ああいえその…儂が信じられないのはムカデの方です」
えー…いたもん、本当にムカデいたんだもん!
「いやええと……存在は信じてますがまさかこんな所にと言うか…」
「どういうこと?あいつレアエンカ?」
「……儂の思い違いだと良いのですが、ムカデで父さんが付いていたとしても神の称号を持つ者を倒せると言うと…暴食王という化け物が浮かんでしまいます」
ぼうしょくおう…暴食王?
「ああ、あってんじゃね?説明で何かそんな様なこと言ってたし」
「…………成る程」
ブレ子?
「おいブレ…何してんの?」
「出発の準備ですが?」
「え……もう日も落ちるよ?それにまだキャンプ張ってすぐ…」
「うるさい!こんな森にいられるか!儂は1人でも街を目指すぞ!」
何だ何だキレる十代か?
「一刻も早く街に行って報告しないといけないって儂の体に刻まれた記憶が叫んでるんだ!わかったら準備しなさい!」
「ええ…心と身体が反抗期かよ」
……でもこいつの焦り様、相当にヤバいのか。
「落ち着けよブレ子、彼奴はマブダチみたいなもんなんだからそんな襲って来たり何かしないさ」
「信じられるか!」
ごもっともです、別れ際に次は殺す言われたし。
参ったねこりゃ、本当にテンパってるわ…いやこのまま街に向かうのはやぶさかでも無いけどね。
お嬢ちゃんの種族はどうやらやたらと夜目が聞くみたいだから不便は無い。
『ハリガネさんは見えないの?』
厳密に言うと目すら無いから普通の視力があるだけ凄いんだぞぉ…
しかし不便は無いけど見えてるだけだから襲われたらなぁ…松明持ってくか?
炎を怖がる程度の奴がいるとは思えないけど。
「なあブレ子、一回落ち着こうよ」
「落ち着いていられるものですか!その子に知識がないからそんな悠長な事を言ってられるんですよ!」
むう……何だというのだ。
「でもなブレ子よ、あのムカデはお前が紐無しバンジーさせたミミズ擬きとステータスはあんまり変わんないぞ?そんな怖いか?」
「怖いですよ、お父さんだってそんな雑魚と呼んでは失礼な程弱いのに格上に勝てるじゃないですか……そういうスキルを内包してる存在はステータスだけじゃ測れないんです」
って言ってもねえ……いや『更に先へ』はぶっ壊れか、彼奴と戦ったことは無いから危険性が良くわかんねえな。
「『更に先へ』……?」
「ユニークスキル、効果は立ち止まらなければ強くなり続ける…だったかな?」
「逆にそれ聞いてじゃあ安全ですね!って言うことあると思います?」
そんなに怖いかなぁ…?
「森に生き物が少なくなった理由がわかりましたよ!今度からそう言うものに会ったならさっさと教えてくださいね!」
んー……何か…ね。
さっきも言ったけど実際一緒に戦ったからこそわかるんだよ……彼奴は襲ってこないんじゃねえかな。
「……何を馬鹿な事を?」
「だってさ?彼奴が私を吐き出した時にやろうと思えば殺せたわけじゃん?」
「なのにあの時は口約束で次は殺すって言っただけだよ?」
「…会話が通じる相手とは思えませんが」
「まあ何だ、そんなわけだから変に怖がって今出て行く方が危ないだろ?」
お嬢ちゃんの体に無理させれねえし。
「……そうですね、すみませんどうかしてました」
問題ないさ、私なんて情緒安定してた時期が無いのだから……それが娘に引き継がれなかっただけ儲けもの。
いや認知はしねえからな。
「それはともかくちょっと寝たら?火の番はしとくから」
「いえですがそれでは……」
「まあ私が眠くなったら普通に叩き起こして代わるけどね、どんなに熟睡しようとも」
「やってみろ、本体部分を刺してやりますよ…」
冗談っすよ…へへ。
「……では…御言葉に甘えさせて頂きます」
「おうよ、子供はよく寝て育ってくれ」
「お父さん」
何でござるか?
「…ありがとう」
「……寝なさい、私の母性が目覚める前に」
ペストマスクの不審者に母性抱き始めたらもう末期よ、何かしらの。
……寝たか、一人しか起きてない夜の森の心細さ地獄だな。
『私もいるよ?』
ああ…もしかして私が寝ないと寝れない?
『ううん、どっちかと言うと…常に寝てるような…』
……そう言えば微睡んでるみたいな声だなずっと、夢見てる感覚に近いのかね。
まあいいや、芋虫食おう。
「はっ!朝……」
…お…はよ…
「うわー!?一睡もしてないんですかお父さん!?」
何だねその亡霊を見たような顔は…
「仕方ねえだろ……昨日の夜よくよく考えてみたらお前が倒れたら私どうにもできないけど私が倒れる分にはブレ子が背負える事に気付いちまったんだから…」
合理的判断に基づいた完徹だとも。
「ええ…じゃあ歩けなくなったら言ってくださいね…?」
「それがびっくり、種族柄なのか徹夜したのに随分と調子がいいんだよね」
『二晩くらいなら…』
子供にしてはいい体力じゃないか。
まあぶっちゃけハリガネ形態だと寝ることすら稀なんだけども、何か不思議と休む必要が無い、多分カロリーが消費されなすぎるからとか色々あるんだろうけど。
「さて、ブレ子がすっかりムカデに脅えてるからさっさと行こうか」
「脅えてなど…いや怖がらない方が無理ですよ、魔王ですからねあれ」
「はは、それもそ…」
……あいつ魔王なの?
ブレ子の感覚的には急に森の中にフル装備のランボーがいるって言われた感じ。
ハリガネムシ的には地元で面倒見てくれてた怖い先輩が彷徨いてる感じ。




