腹を割って話せば腹を斬らずに済む
「ふふふ…お父さん、どうぞめしあがってください」
拝啓皆様へ、私は今窮地に立たされています。
どうして…ミミズママを倒し森の怒りっぽい方々を退けたのにご褒美であるはずの食事が色とりどりの芋虫なんだ…
「さあさあ、脱出はいけませんよ?また彼等が戻ってきてしまうかも知れませんから」
「わかっとるわ!ちょっと待て今覚悟決めてんだから」
ふー…いただきます!
「お゛っ……」
「美味しいでしょう?」
「…想像してたより悪くは無いけどさぁ……もっと美味いものに溢れ出た現代に生きる身としてはつらいものがあるよ」
外はふにゃっと中はドロッと…味は何だか塩気がややあるだけで淡白な……てかべらぼうにクリーミーだな、タンパク質!!って叫んでるみたいだ。
「どんな感想ですかそれ……」
「醤油が欲しいね、あとバター…あれがあればダンボールだってご馳走になるさ」
「知らないものが3つ出ましたね」
「多分知らないだけでバターも醤油もあると思うよ…?名前違うかも知れないけど全部昔の人間の知恵だし」
ダンボールは知らない。
もしかしたら知恵がある種族…例えばゲームならエルフとか?その辺が作ってるかもね。
醤油や酒を作るエルフ……発酵に頼る森の賢者ちょっと嫌だな。
「儂も食べよう…いただきます」
……
「……何です?人の顔をじろじろ見て」
「いや、そのマスクでどうやって食べるのかなって。」
「普通にずらしますが……?」
「何だつまらん、世の中にはマスクキャラは絶対に素顔を晒さずに食事の時も気がついたら皿の上が無くなっているようにするのが礼儀だぞ」
「儂の宿主が謂われのない事で文句を言われている……」
「ちなみに最終決戦や覚醒などで外れるのはむしろ有りだ、覚えておけ」
「は、はぁ…?」
手を後ろに回すとパチッと音がする、それボタン的な物でくっついてたの?ベルトとか革紐じゃないの?
「ふう……蒸れるんですよねこれ。」
「マスクを外したらただのモンゴルの戦士みたいな格好した女の子だな、特段可愛くも醜くも無い…素朴な」
でも鎧もマスクも無い方がいいね、防御力考えたらそんなもんか。
「何でしょうね、儂が言われてるわけではないが無性に腹が立つのは」
「そう言えばさ、その刀って結局何なの?」
「何と言われても……長くなりますが」
「拡張解析使おうかと思ったけど文章が堅い上に量が多そうなんだよね、そう言う物の解析って」
「ええと…まず刀についてどのくらい知っています?」
「鉄を暖めて叩いたらできる!」
「それでできるのは温もりのあるボコボコにされた鉄くずです」
ッチ、引っ掛け問題か。
「引っ掛け要素ありましたか…?」
「ええと、刀……と言うか武器は大概の場合職人が材料から造り出す物ですが……この『大混夜叉』は少々生い立ちが特殊でして」
「それさー、もしかして当たらない役者と当たらない刀の駄洒落ってこと?」
「……ノーコメントで」
図星のようだ。
「うるさいよ……儂とて嫌ですよ…」
そしてどうやら触れてほしく無いようだ。
「まあまあ、それでその刀が?」
「ああええと…武器には全部に位というものがありましてね」
そう言う事言い始めたらもう落ち目よ、きっと0位とか出てくんだよその内。
「聞きなさいよ馬鹿者」
「お前今親に馬鹿って言ったかおい」
母さん!うちの娘は反抗期です!
……母さんはいないんだけどさ、強いて言うなら母なる水こそが本当に母親。
「嫌ですよそんな不定形の母親…そもそもお父さんも儂も雌雄無いじゃないですか」
それはそうだともさ、人間だった頃は男だったはずだから男扱いで良いんだけどね。
まあ思い出せないから下手すると男っぽい女の子かもしれないけど……工業高校の女子みたいな。
「多方面に喧嘩を売らないでくださいお父さん……」
「君と話してると話が脱線しまくるね、そんでその位ってのは?」
「わ、儂のせい…?位とはその名の通り武器の格を表してるんですよ、私の『大混夜叉』は一番下の<鈍>ですがね」
「ほほう…他には?」
「下から言うと先程の<鈍>、<並>、<業物>、<大業物>、<災上大厄物>、<至高>となります」
「六段階評価か、じゃあそれ赤点だな」
「こ、これはこれで使えるのですよ…?」
しかし何も斬れないならこんなもんなのかな?
「他の武器もそれみたいに何か不思議パワーが秘められてるの?」
「不思議パワー……いえ、このような特性を持てるのはあくまで<大業物>からです」
「ですが生まれが変わっていまして…稀代の変人と唄われた名工『ミネルバ・マルチネス』の打ったシリーズの物で、本来であれば全て<大業物>を越える連作でありながらも殺傷力という観点を捨てることで<鈍>の位に落とし貴族や王族だけじゃなく物語に語られない平民にも舞うための翼を与えたと言うコンセプトが込められている逸品なんです。
それからマルチネス氏は自分の武器に己と共に戦い共に成長するという概念を与えたそれはそれは凄いお人なんです、つまりこの儂の刀もどんどん成長するに連れて更に強力になるというわけなのです」
うっわぁ、自分の好きなジャンルだとすげえ早口。
たまにいるよねこういう奴、知見が深いし聞き取れるなら話してて楽しいから嫌いじゃない。
「まだまだ話せますがこれくらいに…」
「ブレ子は武器が好きなんだね?」
「いや儂は別に…コノハ殿が殆ど喋っているようなものですし」
「コノハ殿…?あ、宿主か」
宿主は奇抜なファッションに刀マニアか、私もあれだけど取り付く奴は考えた方がいいなこれ。
「あの…儂とコノハ殿は脳で繋がってるので、聞こえてますからね?」
「……娘をよろしく頼むよコノハさん」
「ご、誤魔化した…ほぼ死者に何をよろしくと?まあいいですが」
いやほら、視点を変えたらほぼ同棲みたいなもんだし……父として挨拶を。
「そこより前に礼儀を考えるところは大いにあるでしょうに」
やかましい娘だなぁ…絶対に認知はしないが。
「……腹も満たされましたし、そろそろ行きましょうか…もう少し進んでおかないとキャンプを張ろうにもトレントが怖い」
「そうね…あれ道知ってる筈のお嬢ちゃんが今私なんだけどどうすれば?」
「会話できるでしょう?」
できねえよ。
できてたら今までの宿主と会話できて孤独なるハリガネさんの旅もましだったよ。
「ええ…?それも故障かな…深呼吸しながら目を閉じて、自分の心の内に語りかけるのですよ?」
スピリチュアルなこと言い出した…目を閉じで深層心理に…
……聞こえますか、お嬢ちゃん…今心に直接話し掛けています…聞こえますか…
『踏ミ…潰しテやル…』
「今悪霊いた?」
ミネルバ・マルチネスは数十年単位で放浪しながら各地にとんでもない武器を残していく職人でありながら商人。
それが平和な国とかならともかく紛争地とかでも場所を選ばず同じことやるからまあまあテロ
「子供が遊べる危険じゃない武器作ってみようかな!そうだ一緒に成長できるようにしよう!いやぁ僕って優しいし天才!」