歩く道すら仇をなす
行けども行けどもかなり森…なあお嬢ちゃん、本当に道知ってんの?
「方角は……」
こんなジャングルじゃ方角なんてすぐわかんなくなりそうなものだけど……ブレ子この辺りに見覚えは?
「儂はこちら側にあまり近づかなかったので…お父さんが『一回休み』から目覚めるのを待って行動していたもので狭い範囲内で生活していました」
そう言えばさ、何でそっちから私の居場所はわかるのに私はわからないんだろうね。
「うーん…それは儂も考えてはみたのですが、もしかしたら『一回休み』による不具合かもしれませんね…だとすれば時間が経てばわかる筈です」
まあ長い目で見るか……
しかしまあどこを見ても一面の緑……目に優しいのか悪いのかわかんなくなってきたよ。
妙な所と言えば生物を見かけない、いや厳密に言うとまあまあ見かけてはいるんだけど前ほど見かけないのだ。
前ってのは所謂『一回休み』前、前世だね。
困ったものだ、このままじゃお嬢ちゃんが空腹でイライラし始める。
「まだしない…」
イライラはするんだ?振り回される前に食料見つけなきゃヤバいな。
「大丈夫ですお父さん、私はしばらく森にいて食料の手に入れ方を心得ましたからね」
……カメレオン食えば良くね?
「カメレオン……?」
消えるトカゲ的なサムシングよ、ムカデの頃はおやつ感覚で食べてたし一時期は生死を共にしたマブダチさ。
「親友食べたんですかお父さん…」
生きるためには仕方なかったのさ……悲しい別れでもあった。
「美味しかった?」
クソマズイよ、生でトカゲ食って美味いって言えるほど貧困な生活してなかったものだからね。
て言うか現代人に異世界のサバイバル料理は厳しい、料理……料理かあれ?
ちなみに一応聞いておくとなんだけど食料のあては?
「そうですね、えー…あれならいるかな。」
木?何だ木の実でも採れるのかい?
「そぉい!」
おお豪快に木の皮を剥がし…何してんの?
「いたいた、これです」
ほーん…あ゛っ!?お前っ近付けんな!
いや何だそれキモ……
「あ、それって彩蝶?」
「ええ、彩蝶の幼体…所謂芋虫ですね」
お嬢ちゃん大丈夫なんだ……うぇぇ気持ち悪いよ。
「お父さんよりは全然可愛いじゃありませんか」
お?何だ喧嘩か?
いやね、確かに私の元いた世界にもこう言うの食べる事はあったよ。
でもあれ甲虫の子供じゃん、それ毛虫じゃん。
……毛虫って木に住むのか?
「毛虫…いえまあそうですが、そちらの世界の生き物とは違うのですから多少は…」
そう言う問題じゃねえんだよ、木の皮の裏にクワガタとかの幼虫がいて、それを食べる文化は知ってる。
でもあれは見た目が白一色で淡白な見た目してるから許せた物だもの。
木の皮剥がしたら色とりどりの毛虫が出てきたら流石のハリガネさんとて泣いちゃうよ。
「自分の見た目を見直してみては…?」
うるせえ!客観的に見れないから多少正気を保ってんだよ私は!
「私これ結構好き…優しい味」
ぷぁー?ちょっとハリガネさんカチーンと来たよ今。
何だお嬢ちゃん、私を飲むのは嫌でも得体の知れない毛虫は食うってのか?ハリガネ差別か!
「仕方ないでしょう、この者等は成長したらそれは美しい蝶になります…お父さんは生涯そのままじゃないですか」
本当の姿は別にあるわ!ちくしょういつか戻ってやるからな…
きっと私の本当の姿は誰もが振り向く美少女かイケメンか平凡風美形さ。
「己の過去の性別すらわかっていないのですか…?」
冗談さ私は…私は?
……あれ……おかしい、前はもっと覚えてたのにどんどん思い出せなくなってきてる。
私は……[ERROR]
[ERROR][ERROR]
[ERROR][ERROR][ERROR][ERROR]
な……んだこれ…
「……さん、お父さん」
「何ですか急に黙り込んで、そんなに過去の事が思い出せませんか?」
ああいや、大丈夫。
「勘弁してくださいよ、お父さんが倒れたらまた探さないといけなくなりますからね」
任せとけ、ハリガネさんは放置したら1日と保たないぞ。
「次探すの嫌ですよ儂は」
「私も、そのまま街まで行くね」
お嬢ちゃんハリガネさんいなくても街まで行ける……行けるな、ブレ子いるし。
つまり今のお嬢ちゃんに私は必要ないと、これが寝取り……おのれブレ子!
「ねと…子供の前で人聞きの悪いことを言わないでください!」
もうね、腕とかあったらハンカチ噛み締めてキー!ってするよね。
いやまあ…私が必要になった場面ってほぼ無いんだけどさ?今の戦闘力低すぎて個人的に怨まれてたミミズ以外じゃ殆ど足止めにもならないし。
ブレ子ならその点戦えるから安心だ、私的にも。
「とは言え儂の刀は格上には通用しませんがね……」
……これだ、つまりブレ子にとってミミズは雑魚も同然…ステータスだけならばムカデにも及んでいたあのミミズを。
我が子を自称する異常者…しかし戦闘力は高い、侮れないな。
「宿主が強いので…いやちょっと待ってくださいまだそんな扱いなんですか儂は」
ああ畜生モノローグで喋ることもできねえ、全部筒抜けになりやがる。
「仕方ないではありませんかそれは……儂は同種族ですし」
お嬢ちゃんはギフトだもんね……スキルってそんな方法で手に入るもの?
「生まれ付き持っている方は時々いますよ、それでも双方合わせて使える別々のスキルが発現していることは珍しいですが……」
その上獣の寵愛?だか何だかの称号も持ってたもんね。
「称号ですか…それはちょっと珍しいというか…」
え、うん…て言うか見てないの?
「一応言っておきますと急に解析するのは失礼にあたるどころか強烈な不快感を与えることになりますからね?」
「びっくりする」
まあまあ、過ぎたことは忘れたまえ……ミミズとか鹿が急に襲いかかってきたのってそのせいか?
「野生の獣に初手で解析したんですか?良く生きてましたね」
しっかり一回死んどるわ。
「しかし獣の寵愛とは聞いたこともありませんね、案外レアかも知れませんよ。」
「本当に?」
解析持ちじゃないとスキルとか称号が見えても何もわからないもんね……解析していい?
「え……嫌」
ほらほら痛くしないからばばばば!?
「不審者にしか見えませんよお父さん、わきまえてください」
水筒回しやがったよこの娘…昔良くやったよね、バケツに水入れて遠心力。
……ねえ、結構話したけど今どの辺?同じとこ回ってる気がしてならないんだけど。
「いえ進んではいますよ、景色が変わらないからわかっていないだけです」
木々に切れ込みとか入れてこうよ、迷っても最悪同じ道には行かなくなるし。
「そんな事せんでも儂のスキル『地図作り』で見ておりますからご心配なく」
スキルばっかに拘ってるとろくな大人にならんぞ。
「スキルに頼らないと生存すら危ういお父さんに言われたくは無いですね」
言葉キッツくない?
「……ストップ、さっきの言葉は撤回します」
「確かに儂等は進んでいましたが景色が変わっていない…囲まれました」
それを聞くと同時に動き出した背景、いやもっとわかりやすく言うなら森そのもの。
折り重なるように生い茂る樹木の枝が一本一本を蛇のように絡みつかせ此方の様子を伺うように蠢く様はぶっちゃけ駄目な人は虫より怖いかもしれない恐怖だ。
「……『トレント』ですか…」
嘘だろおい、今度の敵は文字通り大自然か?
ムカデはステータス的にミミズと同じくらいだけどレベル1のドラゴンとレベル80越えのスライムナイトみたいなもの
スキルと操縦士の差がデカい




