旅の一歩は別れから
「お父さん?」
…………
「…お父さん」
………
「謝ってるじゃないですか」
初対面で親を囮にしたことが許されると思うなよ?
「でもハリガネさん…私のお父さんは私達を……」
それ以上話すな、厳密に聞いてないから耐えられたのにちゃんと聞いたら泣いちゃうから。
「…何の話です?」
「さっきのミミズここの村では守り神なの、それで生け贄が…」
やめぇや!察してたから何も言わなかったのにさぁ!
まだ剣と魔法の世界に浸らせて…ダークなファンタジーは見たくないんだよ、娘が持ってきたあの刀格好良さげじゃんね……私はカメレオンとかなのに。
「……これは?」
「時々こうなるの、放っておけば治るから大丈夫」
……て言うかお嬢ちゃんさ、落ち着き過ぎじゃない?流石に私も親の敵が目の前にいたら冷静でいられないと思うのだけど…
「……聞こえてたらわかるよ」
あ、そっか…スキルのせいで断末魔がね。
「それに敵はハリガネさん達が取ってくれたもん」
ああ、せめて供養でもしてやれれば良かったんだけどね……
「ううん、森で産まれて森に食われ、そしてそれが土に帰ればまた森に戻れる……私達は忘れなければ別の形で会えるから」
……本当にお嬢ちゃん?何か凄い頭良さそうなこと言うじゃない。
「……落とすよ?」
心の底からごめんなさい。
「……お父さんの教えてくれたこと、だから自分が死んでも悲しむなって」
ふーん……話変わるけど何で君って生け贄だったの?
「デリカシーとか無いんですか父さん」
いやだってさ、この子そこそこ村での地位の高い家だったっぽいよ?
「より良い贄を渡すために偉いところから……」
とんでもないシステムしてんなこの村……フォアグラ提供しようとしてたってことか。
「……フォア…?美味しそうな響きですね」
気にしなくていい、こんな世界じゃ見るのも叶わない高級食材さ……て言うかお腹空いてるの?食いしん坊属性?
「わ、儂じゃありませんよ、この宿主が…」
ああ、成る程ね。
ムカデの時も食べることに凄い貪欲になってた覚えがあるなぁ…寄生してる側が引っ張られるってどうなんだろうか。
……さて、そろそろ死んだ?
「どうだろ…喋らなくはなったけど」
じゃあ行くか、この距離じゃ『拡張解析』も届かないけど目視でわかるくらいには体液…中身?わからんけど血液か何かが飛び出してるもの。
……やっぱあれ村人のご飯にしたらしばらくは安泰だったんじゃ…全員に行き渡らなくても継母とかにこう…
「行きますよ父さん…」
おいおい親の首根っこ掴むんじゃないよ。
「……どこなんですかそれ」
同族にもわからないなら私にそんな部位は存在しないと思う。
「……どこかに欠陥があるのかな、『一回休み』の…」
気になることをぼそぼそ言うんじゃないよ、こら。
……ちなみにお嬢ちゃん、他の村人どこいった?
「……村長の家で隠れてる」
ふむ……いやこれ不味くない?だって生け贄が献上できなかったタイミングで二回襲撃されてるし。
「……」
逃げたみたいでちょっと嫌だけど、このまま行ってしまう方がお嬢ちゃんのためかもね。
「わかってるよ……」
「そうすぐに生まれ育った村を捨てられる物では無いでしょう」
言葉包んでそれ以上に傷付く結果になるんなら言った方がいいでしょ、それに……守り神殺したぜ、私達。
「いやそれはそうですが…」
まあ守り神云々は大丈夫か、厳密に言うとやったの私達じゃなくてそこのペストマスクのお姉さんだし?
「それは酷く無い!?助けたのに!」
その節は助かったよ、だが大人ってそう言うものさ。
「汚い…それが親のやることですか?」
何とでも言いたまえ。
それでどうする?
「……冒険者目指すなら振り返ってられない、そのためにあの人を張り倒したんだから」
「でも捨てない、街に行って冒険者になったら戻ってくる……私が守り神になる。」
……何か思ってたのと違う方に行ってしまったな。
「え、違うの!?」
何かそこまで行くとカルト感が…まあでも、その心意気は気に入ったさ。
そいじゃあ見つかる前に村出るかね。
「あ、ハリガネさんの乗り物…」
ああいいよ、同族がいるし相乗りを…
「え、無理です。」
嘘だろおい。
は?嫌なの?父さんと同じ洗濯機で服洗って欲しくないとかそう言う反抗期か?
あなたを父さんだと思ったことなんて無い!とか言われちゃう?特段産んだ覚えも無いから気にしないけど。
「センタッキ…?いやその、儂が寄生してるのに父さんまで取り付いたらこの体爆発四散しますよ?」
何かの実かよ私達は、寄生した相手は泳げなくなったりするのか。
てか君は何で私より私に詳しいの?そもそも生後どのくらい?
「どのくらい…産まれたのが雨季で今は乾季ですのでまあ結構…」
私どのくらい寝てたんだよ。
『一回休み』ってそんなやべえ代物なの?半年じゃ利かないくらい寝てたってことか?
まあレベル低いけど…いやうーん…生き返れるって考えたら安い筈なんだよな、じゃあ贅沢ってものか。
「ちなみになんですが、どうやってこの森を抜けるのですか?長く広いことはともかく、危険な生物も山ほどいますよ?」
お嬢ちゃんが道を知ってるみたいだし何か出て来たらその腰の物でスパッとやっちまってくだせえよ先生。
「はは、御冗談を…お父さんですら斬れませんよこの刀じゃ」
引き合いに出したのが私な辺りそこそこな雑魚だと思っていやがるな?
謙遜すんなよ、さっきの技は何かこう…格好良かったし?
「それは斬ったふりだけですね、ええと…錯覚させるんです、それっぽい技をそれっぽく放つだけで相手が斬られたと勘違いすると言うか…」
簡単そうに言うが随分大仰な代物っぽいな…さては名刀?それとも君の力量?
「両方です、私の器の技術と少々生い立ちが特殊なこの刀…とは言っても最下層の『鈍』なので攻撃力はてんでありませんがね」
ほう……ふーん、後で拡張解析しよう。
えー、つまりだ。
動物と話せる町娘、寄生先のいないハリガネムシ、ノーキル縛りの不審者。
無理では?私だって今までそこそこなモンスターに寄生してきて何とかこの森でやってきたってのに。
「おい誰が不審者だ」
うーむ、やはりここは村長の家畜何かしら盗むしかないか?
「いやそれはどうかと…先程村を守るって話していたばかりですし…」
えー、だってさー……お嬢ちゃん?
「嫌だ」
だよねー…水筒か何か用意するか、ただ私できることならお嬢ちゃんには一回寄生しておきたいんだよね。
「コノハさん、斬っていいよ」
「ええ、斬れないので柄で潰しましょう」
待ちなさい残酷ガールズ。
私が欲しいのはお嬢ちゃん本体じゃなくてスキルだよ、何せ通訳がなきゃ未だに誰とも会話できてないもん。
ブレ子はちなみに人間の言語いけるの?
「私その名前気に入ってませんからね?そうですね、この体に記憶されている言葉……この辺りの地域で使われている言語なら問題ないくらいです。」
ああ、スキルじゃない生物の特性みたいなやつか…まあ一々できることスキルにしてたら訳わかんないもんな。
どうせ街に出たらお嬢ちゃんとはお別れだし折角ならスキルは貰っておきたいんだよね……問題は一個しか貰えないってことだが。
正直言えば一個しか貰えないなら『星の叡智』一択だ、相手の心が読めても理解できなきゃ意味が無いからね。
となると……やっぱ一回寄生させてくんない?
「……嫌だ!」
力強い、相当な嫌悪感が伺える。
えー、助けてやったじゃないかさー……
「それはそうだけど……仲良くなったからもっと嫌だ」
……それはそうだわ。
「お父さん、諦めましょう……」
こんなんだったらムカデから貰っとくんだったかなぁ……いやでも解析無いと詰んでたところ多々あるしうーん……
「ほら、水筒に入れてあげますから」
ほほう…竹っぽい材質の筒をそのまま使った水筒とは趣深い……居心地も良好。
顔を出せば外の様子も見えるしなかなか良いかも知れない、しっかり運んでくれたまえよブレ子…私は乗り心地に煩いぞ。
「ぶん回しますよ?」
「もう捨ててこうよ」
……冗談じゃないかさ。
え、本当に置いていくの?
戻ってこいよー……
ねえー!
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