当たらなければ到らない。
第二次反抗期を今まさに迎え、潤いを取り戻した事で川から這い上がった私だが、困ったことに勝ちの目が今まで以上に見えない、何と言っても今まで頼みの綱だった寄生が使えて無いからね!
ああちくしょう、こんな事ならお嬢ちゃん囮に差し出して逃げるんだったかな……ってなんてな。
魂まで悪役に染まっちまったらハリガネムシはもうヒーロー名乗れねえじゃねえか、やってやるよクソが!
因みにヒーローを名乗ったことはない。
うむ……改めて目の前で見てみるとデッカいなこいつ、前は貌無き者いたから多少はましだったけど本体だけじゃ圧巻と言える体格差だなまったく。
何とか私一人の命で許して貰えるものか…どうせ生き返るから大してマイナスに考えて無いんだけどさ。
いやまあ……コンテニューは一回きりで次死んだらお終いってんならハナから詰んでる状況だ。
やらなきゃ死ぬ、やっても死ぬ、いつも通りなことだね。
やらねえくらいならやって死ぬ。
頑張って逃げろよお嬢ちゃん、数秒くらいしか稼げなかったらごめんね!お話にならないレベルだったらあれだからさっさと逃げてくれ!
使えるスキル…拡張解析?してどうすんねん!
……てかこれまず気付かれてるか?そもそも敵意がこっちに向いてないと言うか、怒りで動いてない?
あ、そもそも私あの時の見た目鹿だったしバレてないのか。
ありがたい、と思える時間は過ぎてんだよな。
このまま放置して逃げたら村人食って回復すんだろ?勘弁してやれよ、あいつらステータスとんでもなく低いぞ。
それにな、お前は。
あの子の父親を殺した。
センチな気持ちになったわけじゃないよ?ただほら、あんないい子が一番の拠り所を奪われたわけだし、あの子は私の恩人なわけで。
ここ数日たまに口喧嘩もしながらだけどコントも繰り広げて、漫才の大会に出れるね私達は。
だからまあ何だ、多少の憤りはあるでしょう。
人間だもの。
…………今の言葉に食い付いた奴は寝るときに気をつけろ。
さて、目に留まってすらいないならどうやって時間稼ぐのよって話だとは思うんだけどさ。
なにもハリガネムシさんだってここ数日伸び伸びと壺の中でくつろいでたわけじゃないんだぜ?
スキルについて色々気になったことがあってね、それはもう拡張解析様々な感じで読んで読んで読みあさったわけだ。
そしたらお誂え向きな物を見つけた。
今まで文字通りただの飾りだと思っていた【称号】のステータス。
これの『神落とし』に興味が沸いてふと目を落とした時に初めて気付いたことなんだけれど、どうやら【称号】とはただの飾りではなくいくつかのスキルを内包した言わば【複合スキル】。
びっくりだよね、説明書読まないタイプなのが災いしまくってるよ。
あ、ちなみに『殺戮する者』はカスだった、『畏怖LV.1』と『威圧LV.1』の複合で効果はそのまんまビビらせるだけ、しかもどうやらお嬢ちゃんすらちょっと寒気がする程度だ。
多分我が友くらいしか逃げない、使えた物じゃないね。
レベルも上がらなければオンオフ自在のパッシブスキルみたいなものだし今後日の目を見ることは一切無いと思う、屋内に湧いた虫とか追い払うのに使うかな?
HAHAHA、ハリガネムシさん追い払われちゃうね。
……お嬢ちゃん不在だったな。
さてよしやるか仕方ねえ、なるべくやりたくは無いけどもうこんな状況じゃやるしか無いというか……いいや『神落とし』。
[称号『神落とし』セット。]
[その者大きく曲がりなれど元来より君臨する一柱。]
[これは荒ぶる神を鎮めた呪い、されど啓蒙は開かれた。]
[新たな視界に映る真なる悪神を探し出せ。]
うるせえ三行にまとめろや!
……あ、概ね三行くらいか。
さあさお立ち会い、何か神々しい鹿をぼてくりこかしたら手に入ったこの仰々しいスキル、その効果をとくと見よ!
……よう、やっと足元のゴミに気がついたか?そらそうだよな、お前は元々臆病な種族みたいだし…正直今だって私を狙ってるって言うよりは腹減ってんだろう?
『神落とし』とかの称号はさっきも言ったけど複合スキルだ、こいつに混ざってるのは『注目LV.4』『轟く名声LV.5』『内側の瞳LV.2』そしてまさかの『威圧LV.10』!
『内側の瞳』意外は軒並み注目を浴びれるスキルだ、その上『威圧』は『畏怖』の上位互換。
つまりこいつにとって私は怖いけど魅力的な餌、なのに確実に自分より弱い。
さあ、この意味不明な存在を食えるのか?怖いだろう?怖いだろう?でも美味そうなんだろう?
度胸があんなら噛みついて来やがれ!
あ、普通に食える奴だな?ちょ、タイム!タイあぁぁぁ!?
危ねえただの体当たりか……ああそっか、消しとばしちゃうから齧りつく意外何もできないのか。
此奴の怖かった技って散弾みたいな軌道した爆撃と高圧水カッターくらいのものだもんな、回避……うん、行ける。
っしゃこーい!ここ数日でこの体の練度もそれなりに上がってんだ、今更見えてる突進なんざ怖くねえな。
へいへいピッチャービビってる!
……これ何が元なんだろうね?ピッチャーって投げる側だろ?打つ側がビビるならともかく投げる側ビビることあるか?真っ直ぐ返されたときミット持ってないから危険とかそう言う?
うん!死ぬから急に別のこと考えるのやめようね!掠めたからね今!
でもまあ、木の幹を砕いて地面を割る程の質量でもこんな虫けら一匹潰せないで龍神様の名が泣きますなぁ。
無視して他の連中追った方が効率的だけどな、お前は私から目を離せない。
悔しいか?もっと悔しがれよ、空腹で動いて辛いか?もっと苦しめよ。
親を食われる気持ちがわかるか?一人しかいない肉親を食われて埋葬すらできない気持ちが。
わからねえよな、わからねえだろ。
それでいい、生物の正しいありかたさ。
だからこの行動には何の意味も無いこじつけと八つ当たりみたいなものだね。
単純に胸糞悪い物見ちまった、間接的にはお前のせいだからここで力尽きるまで私を狙い続けてもらう。
…もうそろそろなんだろう?柔らかい体で衝撃を分散しようが水のレーザーで減速させようが、その重さじゃ無いのも同然さ。
いやあんな崖から飛んだらそりゃそうだろって話なんだけどね。
拡張解析を使うまでもない、見てわかる満身創痍だよ。
ズタボロで戦うと大変だよね、体は生きようと必死に回復するけどSPが空っぽだとそれを上回る勢いでHPが消費される。
こっちはムカデで経験済みでね、まあちょっとこすいけど許してくれや。
……とは言ったものの正直私もギリギリはギリギリなのよね、何てったって外に出てるのに回避のために素早く動かないといけないから体が乾く乾く。
一度川飛び込むか?いやー、顔出した瞬間を狙われるかダム破壊してそのまま流されるかだね。
八方塞がりは根性で打開!
「………さーん!」
大腸リスポンの覚悟を決めたところで聞き慣れた声が近付いてくる、逃げた筈の少女の声、私がせっかく時間を稼いでやったはずの。
「ハリガネさーん!」
逃げて…ない…?どして…ど…え?
やべえ構えてる…庇…無理…助け、駄目だ来るな…
来るな!
叫ぶ喉は無い、聞こえているかも知れないが少女の足は止まらず、命を削りその分だけ殺意を込めた体当たりが迫る。
ああ、駄目だ……
PVが10000越えましたー!これからも頑張ります