共反者は守りあう
「えと…具体的には?」
まず君に寄生する。
まあ落ち着きなさい幼女、その手を離しなさい、ごぶっ潰れ…
「やっぱりそうじゃん!」
聞けよ、まあ聞いてくれよ。
正直私の今の姿のまま長に近付くのは無理ってものだ、言葉もわからなければ説得も難しいからね。
「説得する気なんて無い癖に……」
失礼な奴だなぁ…まあ確かに普通に君の姿で近寄ってそのまま寄生するつもりだけど。
「……」
大丈夫大丈夫、そんなに体に悪くないから。
「少しは悪いの!?」
…………
……大丈夫、大丈夫。
「…とにかく嫌だからね。」
もー、さっきから文句ばっかりじゃないかさ!代替案を出さなきゃ野党議員だよ!
「……勢いで乗り切ろうとしてない?」
ふふ、私のことが中々わかってきたじゃないか。
「この…!…はぁ。」
随分疲れてる様子だね。
「ハリガネさんのせいでしょ……」
でも実際どうするさ?作戦内容が気に入らないなら何かしら案を出せってのは本音だよ?
「えー…うーん。」
まあ、腰抜けのお嬢ちゃんには正直厳しいところはあるけどね。
「腰…そんな事ない!」
血のつながりすらない継母にビビりまくってるし?そんなんで冒険者になんてなれるかって話さ。
「何でそんなこと言われなきゃならないの!私は!」
私は…何だ?
「私は、あの人に…ビビってなんか…」
じゃあ、やれるだろう?一撃入れてやれ。
「一撃…」
ああそうだ、顔をガツンと。
「顔を…」
そこの斧を握ってフルスイングでな、躊躇うなよ?
「斧……は使わないよ!?」
やったれやったれ、そのくらいの勢いが大事さ。
「いや殺すのは……」
流石にまずいか、そんじゃあ……いつやる?
「……ちょっとまだ心の準備が…」
そんなんで冒険者やってけると思ってんの!?思い立ったら今だろうが!
「そんな…今すぐ?」
ほらほら!斧握って立ち上がって!
「使わないってば……いやまだちょっと…」
……やっぱり根性無しか。
期待はずれ、残念だよ。
「……根性無し…じゃない。」
「やってやる、今すぐ。」
「……ぶっ飛ばしてやる!」
その勢いが大事だ!さあやってやれ!その前にしゃがんで?
「しゃがむ?……えと、こう?」
あ、そうそうそのまま大きく口で息して?
「…寄生しようとしてない?」
……寄生はしないけどハリガネムシさん生物の体内にいないと干からびちゃうから。
「つまり…?」
胃を貸してほしい。
「………ぜっっっったい嫌!」
溜めたねー、そんなに嫌?
「嫌!」
おいおいそんな邪険にすんなよ、ハリガネムシさんだって傷つくんだぜ?
「最初の案と変わってないし…」
寄生はしないから大丈夫さ…ね?
「…ハリガネさんとこの距離で会話するのが既に嫌なのに。」
はいハリガネさん傷ついたよー、もう協力しない。
「えぇ!?それはちょっと…」
うるせえ!好きでこんな姿でいるんじゃねえよ!
まあ人の体内に居座る類の生き物になったからって平気で実行するようになったら色々とお終いな気はしてるけどね、私の人間性も限界と見た。
「えと…あ、ほらこの壺に入れたまま持ち歩いてあげるから…」
えー、私船酔いとかするタイプなんだよねー。
「……」
……大人しくするからその目をやめなさい、じと目で致命傷与えてくるからねこの子は。
ああ、比喩抜きさ。
しかし私って乾燥したら死ぬのかな?今まで何度かカピカピになってきたけど体力が減らされた覚えは大してない…と言うか生態とかしらないからよくわかんないんだけどこういう虫いたよね。
何だったっけ?クマムシだかグソクムシだか…まあいいや、あんな感じでカピカピは一種の防御形態ではなかろうか?
「そう…なの?」
全くの憶測だから間違えてたら普通に死ぬ。
「だ、だよね…?」
ただやってみるだけの理由も根拠も保険もあるから、いっそのこと実験がてらやってみるのもありかなって。
「保険…?」
私はなるべくコンパクトに丸まって乾燥するからサイズは小さめだね、だから飲み込みやすい筈だ。
わかるだろう?
「……予想はしてたけどさ。」
でも実際他に案なんて浮かばないよ?天才でも秀才でもないんだから、学歴すらもハリガネムシになったら腸内まで持っていけないしね。
学歴は腸内に持っていけない、名言みたいだな。
「……危なくなったらね。」
…まあいいや、じゃあハリガネムシさんはハリガネ球に進化するよ。
「え……おお…うわぁ。」
感嘆詞だけで反応するのやめなさい。
「……川辺の石ひっくりがえした時みたい。」
あれ複数匹じゃん、私は今一人だと言うのにそんなことになってしまっているの?
「……気分悪くなってきた。」
この体になってから散々な言われよう……元の体の時はきっとイケメンだった筈だから戻ったあかつきにはお嬢ちゃんを驚かせよう。
「戻れるの…?」
お黙り!希望無くしてハリガネムシやってられるかよ!最後の希望すら手放しちまったら善の心も失っちまうわ!
善の心…あるよね?
「中に二人いるの…?」
精神分裂するくらいストレス抱えてそうに見えるかい?私は思うけど。
「うん……」
どうしてこっちを見ないんだい?ほらほら、もう転がる以外の移動方法無いんだぞ私は。
「ああ……動かないで…直視できない…」
……素じゃん、素のドン引きじゃん。
まあいいや…からからになったら行こうか、継母ひっぱたきに。
「…う、うん…やってやる。」
さあ、私を持っておくれ?一番最初にそうしたように。
「最初はまだ大丈夫だったのに…」
改めて見てみると気持ち悪い生物って意外といるからね、仕方ないさ。
おい待て誰が気持ち悪いって?
「ほら…あぁぁ…感触が、からからしてる…」
乾燥してきてるからね、身動き一つ取れない以外は体調に問題は無さそうだよ。
「そ、そう…よし…」
頑張ろう、最初お嬢ちゃんの力で踏み出したら後は私が手伝ってあげるから。
さてさて、実況するか。
ここで相手選手の登場です、ばっさばさの黒髪をなびかせ明らかな怒りの感情を持ってお嬢ちゃんに近づいていくようです。
「■■■■■■■!」
おおっとここで開幕怒鳴り声だ!お嬢ちゃんは…萎縮してしまっているー!
君なら行ける!頑張れ!拳を握れ!
ん、言い表せぬ圧迫感……え、こっちで?ハリガネさん握ってる手で行くの?嘘でしょ?
一回考え直せ、流石に力いっぱい握られたらこの状態の私はポッキリいってしまうのでは?カリカリだよ?カスカスだよ?脆弱にすぎるハリガネ球だよ!?
あぁぁぁぁ!?
っんごっふ…!!
…へへ……いいパンチ持ってんじゃねえか。
……それはそうと後で無意味にのたうち回ってSAN値削ってやるから覚えとけよお前。
「■■!■■■■■!」
わからん、啖呵切ってるっぽいけどなに言ってるかわからん。
お嬢ちゃん、見えないからちょっと位置を……わあ、これ継母多分気絶でるよ?前歯が四本抜けて泡吹いてんじゃん。
えってか本当に顔面フルフイングしたのね、すげえ威力。
幼子の一撃でもこうなってしまうなんて…人間との違いを実感したよ。
まあ君ら人間より小さそうだが。
「ハリガネさん……煩い。」
……ご、ごめんなさい。
謝らされた…?この私が…まさかお嬢ちゃん、覇王の素質が目覚めちまったってのか…?
「行こう、長の家に。」
う、うん。
……何だ、震えてるの?やっぱり覚悟決めても子供だもんねー……
「違うこれ…地面が揺れてる…?」
……あ、やべ。
私の直感が告げる過去の敵、て言うか数日前に崖下に葬り去ったはずの…ある意味継母的な。
やっとこさ継母に反撃したばっかだってのに、運命ってやつはお構い無しに地獄に叩き落としやがる。
仕方無いかね。
お嬢ちゃん!私をそこの川に放り込んで逃げてな!
「でも…!」
外側が無くても私のハリガネ殺法を見せてやるさ!ほら逃げろ!
「っ…!ごめん!」
おう気にすんなー……着水!
よっしゃ!戻るぞ潤いが!
さあ、ママ。
第二次反抗期だ。
このお嬢ちゃんは本来であればナメクジだろうが毛虫だろうが優しく接するいい子です。
流石に明確にコミュニケーションが取れるハリガネムシは守備範囲を大きく外れすぎて場外ホームランした。