好奇心は猫も殺す、子供の好奇心の場合虫が死ぬ。
いやぁ、面食らった面食らった。
まさかそんな急に髪バッサリいくなんてね、まるで男の子みたいになってるじゃないか。
その上随分縮んで服装も変わって……いやうん、別人か。
あの子と似てるね、弟か何かかな?
まあ自分と違う種族なんてそうそう見分けなんてつかないんだけどさ?
ハロー、私異世界ハリガネムシ!よろしくネギャー!?
お前っ!何しやがるこのクソガキ!
いきなり壺に蹴り入れやがった……教育がなってねえよなぁ。
まあでも普通に考えて家の壺にハリガネムシいたら叩き割るか引っ張り出して埋めるよね、箸が何かで摘まんで外にぽいっと。
ああそうかい、次は枝かい?
しかし残念だったな少年、当たらん当たらん。
私は今までの戦いから異常なまでに回避性能に特化してしまったのだよ、攻撃は一切できねえんだけどなぁ!
……パリィすらできないのはどうよ?私自身のキルっていうとカメレオンが瀕死のまま飲み込んでしまった虫けらに止めさしたくらいだぜ?
こういう異世界に行った奴って大概は何かしら強力な戦闘力とかあるはずだし、無いなら無いで強力な仲間が守ってくれる器用貧乏であるべきではないのかね?
寄生オンリーで仲間もいない、周囲の敵はラストダンジョン。
やってらんねえよな。
うーん、回避はできるしスタミナ消費もそうでもないんだけど相手は子供なんだよな。
つまり割と突拍子も無い行動に出……な?
おいガキ、馬鹿な真似はやめろ。
危ないから、割れたら親御さんに怒られるだろ?さっきのお嬢ちゃん見てる限りボコボコにされんぞ?
お…おおっとセーフ。
流石にその体のサイズじゃ並々水の入った壺はひっくり返らなかったかい、結構不厚めの土器って感じだし見た目より重いのかもね。
……何その棒?
自分の背丈と同じくらいの木片を壺の底に?そんで石を間に?
成る程、てこの原理って奴だな。
頭いいねお坊ちゃん、そしてその執念はどこから来るのか喋れるようになったら三時間くらいは問い詰めてやるからなお前。
哀れ、抵抗虚しくハリガネムシは水の入った壺ごとひっくり返されてしまった……
ゲームオーバーではないけどね、さてどうするか。
陸上で逃げるのは無理だけど……流石に乗っ取るのもねぇ?
まあさっきノータイムでお嬢ちゃんの体奪おうとしてるから今更ではあるけど。
すぐ解除して驚かせれば逃げるか?
……仕方ない、己を怨めよ小僧。
っしゃあ!ハリガネ殺法奥義『ハリガネアロー』!
その細長い体を一度鞭のようにしならせ地面を叩く。
まさしく跳ね上げられたその細長い肉体は目の前の童を乗っ取らんとする槍となって襲いかかる。
……アナウンスさんがやってくんないから自分で言ったけどこれ案外楽しいね、まあ捕まったんだけどさ。
駄目かー、ハリガネ殺法。
まあハリガネダイブと変わらないしね、幼女のジャブや少年の鷲掴みで迎撃されたって挫けないぜ。
何かノリと勢いでやれると思ったんだけどな……小さいおててでガッツリ握られてしまったよね。
……ビチビチしてみよう、気持ち悪いだろう?離せよ。
お?つぶらな目だね、汚れを知らぬ優しい目だ。
そんでもってとんでもなく好奇心の塊だ、何がまずいってこのぐらいの年の子は幼さと同時に大人には無い残虐性を持っているからね。
遊び半分で蟻の巣にお湯流し込んだり虫を踏みつけたりとかさ?皆やったことあるだろう?ない?
私はあるけど弱者の立場になったら怖くてしょうがないからやめような、ハリガネムシさんとのお約束だ。
さあ、そろそろ現実から目を背けるのも無理がある気がし痛だだだ!引っ張んなおい!
千切れてしまう、ハリガネムシさんの魅惑のボディが引きちぎれてしまうよ。
アバババババ!?何だこれ視界が回…振り回していやがるな!?
……昔見たオモチャが子供たちに見られてない時に動き出す映画でこんなシーンあったよね、子供って本当残酷。
あ、吐きそう。
口無いからそんな気がしてるだけだけどさ。
て言うか三半規管も無かろうにこの気分の悪さはどこから?体力一桁だからどんな体調不良があろうとも受け入れるけどさ。
うおっと!?はい着地、顔面からいったけど軽いからノーダメージさ。
子供は気紛れでもあるよね、急に投げ捨てるなんて酷いじゃないか……ぶん殴られた感じだ?
お帰りお嬢ちゃん、幼い弟に拳骨フルスイングは流石にやめておいた方がいいと思うんだけど。
「■■■!■■■■!」
……何て?
まあ怒ってるのはわかる、でも急な暴力はさ?……いや私が言えたことじゃなさすぎるからこの話やめよう、存分におやり。
わーわー、喧嘩だ喧嘩だ。
体乾燥してきたからさっきぶちまけた水の上で転がっていよう、何て屈辱的な行動だ全く、泥を啜るってこんな気分?
あ、終わった。
「だ、大丈夫?」
全然問題無いよ、ちょっと体が引きちぎられかけて危うく腸内リスポーンするとこだっただけさ。
あれは弟?
「……腹違いの。」
ふーん、仲悪いんだ?
「……」
まあいいや、壺に戻してくれるかい?死んでしまう。
「う、うん。」
それからSPが減ってきたからそろそろ何か口に入れないと…口?
……あれ、ヤバくね?
「え、どうしたの?」
いや良く考えたら今まで私はSPと言うか栄養素は『寄生』で取り付いた相手から吸い取ってた……のかな?多分。
それができなくて尚且つ今は寄生できる相手がいないんだ、このままじゃ回復もままならない。
「ええ…どうしよう。」
お嬢ちゃんご飯捕まえてこれない?
「マブ…なに?」
ああ失礼、透明になって舌でぶちかましてくるカメレオンだね。
「無茶言わないで、見つけられないよ。」
そんなわけあるかい、歩いてたらちらほら見かけるわ。
「え…?」
歩いてるだろう?木の上とかさ。
「恐がりだから、私も二回くらいしか見たことないよ?」
……成る程。
私の脅威度が低すぎて怖がられることもない奴かな?いやでもムカデの時も何度か見かけたからそこまで索敵範囲広くないか。
んん…?
「……」
…………まあいいや。
ところで君はさっき何で怒られたの?結構ボコボコにされてたけど。
「……洗濯物をやり忘れてて。」
それだけであんなに?
「私が前妻の子供だから。」
納得したからそれ以上言わなくていいや、胸糞悪い奴だなこれ。
「えぇ…自分で聞いたのに。」
優しいお兄さんを期待したかい?血も通ってるか怪しいハリガネムシだよ私は。
まあゴブリンのオッサンの歴史に感化されて守り神ぶち殺したり情緒不安定も極めてるがね。
「……」
ぬ、どしたの?鳩が眉間撃ち抜かれたような顔して
「…死体ってこと?」
いや私の例えはどうでもいいのよ、流せ流せ。
「……ううん、何でもない。」
内緒が多いな君は、私は助かる代わりに君を外の世界まで連れて行く。
そう言う交換条件ならば信頼関係と言うものが大事だとは思わないかね。
「それは……」
私が君の立場だったら一切思わない、怪しすぎるハリガネムシを信じるとか馬鹿すぎるもん。
「何なの…?」
ごめんね、つまりは隠し事があるのは構わないけど聞かれた事を誤魔化すなら多少は本当の事や情報を渡した方が怪しまれないよってことさ。
私に隠し事なんぞ無い、でもだからといって全部話せとかは言わないから自分が不利にならない程度に教えておくれ。
それで、答えたく無かったらいいんだけど……君のお父さんは。
「……うん。」
やっぱりか、まあそういう展開だよね。
乗り掛かった船だし最後まで面倒見てやろうじゃねえか。
さ、そう言うわけだから水を用意しておくれ?ついでに砂糖が溶けていれば多少のエネルギーは吸収できるんじゃないかな。
お嬢ちゃんの身長は140cmくらいでハリガネムシは全長30cmくらい。
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