水面見上げて壷の中
あんなにも天に広がる青空が美しいと思ったのはいつぶりだろうか、ははは。
ふぅ……貌無き者私を吐き出しやがったな。
それはいい、それはいいんだけど射出される瞬間にちょっと溶かされたせいで体は限界も限界、もう少しで覚醒できそうなくらい体力が削られている。
HP 7/620
な?瀕死だよ。
一桁ってお前、タンスの角に足の小指ぶつけたら多分死ぬからな?只でさえ防御力も紙装甲だってのに体力は風前の灯火だ。
さっき打ち上げられてから華麗な着地を見せなきゃ削りきられていたまであるさ。
効果音はベチャって感じだったけどまあそれはいいとしても、ヤバい。
何がヤバいってここはゴブリンの村だし私の見た目はハリガネムシ。
村にやべえの引き連れて入ってきたと思ったら急に紐無しバンジーキメて直後に下から飛んできたハリガネムシ。
私がゴブリンの立場ならまあ、強めに踏むよね。
何ならちょっとグリグリするよね。
というわけでピンチなんだなこれが、せっかく守った相手に殺されるとか割りかし不名誉って言うか普通にメンタルに来るというか……おっわぁ。
全然気付かなかったけどすぐ目の前にゴブリンの女の子いたわ、めっちゃこっち見てたわ。
15歳くらいっぽいけど見た目がそうなだけで全部のパーツが小さい、ドラッグしてシフトキー押したまま縮小したような感じだ。
善悪の区別つく大人なら何とか、子供は駄目だ嬲り殺しに遭う。
えー、どうしよう。
説得とかしてみる?ゴブリン語とかあるのかな?
あ、そもそも私喋れないから何も伝わらないじゃん。
はっはー盲点だった、ハリガネムシに発声器官なんて物は無いよね。
神様ちなみに私の姿創るときどこの業者委託した?ちょっと話があるんだけど。
「あ、あの……大丈夫?」
………………
………
……
ああ私は冷静だとも、仮に今までアナウンスさんやムカデが一切私に通じない言語で会話してたならそれはもうたいそう驚いただろうとも。
一回深呼吸しよう、口どこだ?呼吸してんのか私?
落ち着け、取り敢えず落ち着け。
[スキルポイントが超過しました、パッシブスキル『混乱耐性LV.4』を確認。]
ほぉら上がった!それ見たことか!
だったらついでに乾燥耐性も上がれよな!もうすでにカピカピになりかけてきてるよ!
ギブミー水!隣り川だけど入ったら間違いなく滝壺まで真っ逆様だちくしょうが!
「水?水が欲しいの?」
え、喋れてんの私?いや発声できてはいないと思うんだけど…ああ。
『拡張解析LV.10』
「わっ!?」
種族名 |森林小人《フォレスト、ハーミット》
LV.2 HP 210/210 MP 620/620 SP 89/110
パッシブスキル 『星の叡智LV.6』『思考盗聴LV.7』
称号 『獣の寵愛』
状態 健康
ほほう、SPの減り具合から見るにさてはちょっと小腹空いてるな?
『星の叡智』に『思考盗聴』か……ムカデが持ってたスキルだな。
それもスキルレベルはムカデ越えてる。
『思考盗聴』で私の話を聴いてるのはわかるんだけど『星の叡智』って何?
惑星から何かしら教えて貰えてるの?木星はガスの星だよーって?
そんなわけないか。
……あ、てかこの私の思考も見られてるのか?だとしたら相当訳わかんないと思うけど人間の脳なんてそんなものだよね。
「ねえ。」
何だいゴブリンのお嬢ちゃん、踏むのかい?
「ゴブ…?踏まないけどその、水いいの?」
ああ忘れてた、欲しいです。
何てったってこの体はしっとりしてることが命でね、どんどん体がカッピカピのパッキパキににに……
「わっ、大変」
あら浮遊感、この温かい感触は掌かな?
あ……自分よりはるかに巨大な人型生物の掌めっちゃ怖い。
てか駄目だ……意識が…………落ち…
目覚めのハリガネムシ、うーむ良く寝た。
全身の潤いと体の軽さ、まるで夢を見ているようだ。
ゴボガボガボ?
「あ、起きた」
雑じゃないかいお嬢ちゃん、いくら水が欲しいと言えどそのままぶち込まれて放置されるとは思わなんだよ。
なにこれ陶器?壷っぽいけどこういうの作れる文明なんだ?
「ご、ごめんなさい勝手がわからなくて……」
ああいや結果的には助かってるから全然それはいいんだけど……君は何者?
「え……?」
うん、その疑問符はごもっともだ。
て言うか今のセリフはそっくりそのまま返されるものだよね、私はアビス・ゴルディオイデア。
皆はハリガネムシって呼ぶよ、話せる人は君が初めてなんだけどさ。
「ハリガネムシ…?」
皆のお腹に取り付いて意識を奪って活動する生物……待て、その斧をいったん下ろしてくれ、いや振り下ろすじゃなくて地面にね?そうそう、そのまま手を離そうか。
よし。
「危ない生き物なの…?」
危ないかどうかで言えば私は君達の村を救ったんだぜ?生態がどうであれ多少感謝の念があってもいいと思うがね。
「あ、ありがとうございます…?」
それでいい、素直な子はいいね。
「あなたは、龍神様なの?」
なにそれ。
「ううん、違うならいいの。」
うん?まあいいや。
私のことは気軽にハリガネムシさんと呼びたまえよ、君は何て呼んだらいいかな?フォレストハーミットさん?
「それは嫌……」
まあ種族名だもんね、お嬢ちゃん名前は?
「……ええと」
名前無いの?『図々しき者』?
「ううん、あるんだけど……フォレスト・ハーミットの女はしきたりで名前を教えられないの。」
あー、何か中東の方の人が肌見せないとかそう言う理由かな?
じゃあお嬢ちゃんでいいや。
「ハリガネ…おじさん…?」
誰がおじさんだ誰が。
ピッチピチのニョロッニョロだろうがい。
「じゃあハリガネさん……?」
それでいいよ、しかし名前考えないとな。
格好いい名前付けたいけどそもそも名乗るタイミング無いんだよね、そもそも君が珍しいし。
「……うん、私昔から色んな動物と話せるの」
どうしたんだ俯いて、そんな凄いこと胸を張って言うべきだよ?私なんて母親かと思って声かけたら粉々にされそうになったからね。
「えぇ……」
ちなみにそれ持ってる人っていっぱいいるの?
「まさか、私だけだよ……」
そうか、それじゃ村の皆とは話せなそうだね……ところでさっき女の人が私の後ろにいた奴のダッシュに巻き込まれてぶっ飛ばされたけど大丈夫?
「え、ああ…うん」
生きてるならいいんだけど、紙切れみたいな吹き飛び方してたからちょっと心配だよね。
「ねえ」
何だい?
「水に浸けなかったら、ハリガネさんは死んでた?」
多分、いや体力的に考えてあのまま干からびるのも時間の問題って感じだったからあのまま置いておいたら間違えなく死んでいたかな。
どうしたの?
「一回助けられて、一回助けたからおあいこ?」
お、おうそうだね、依然として風前の灯火だけどさ?
あ……いやさっきの感謝しろって奴は半分冗談だから気にしなくてもいいんだよ?
「…じゃあ、全部治るまで面倒見るからお願い聞いてくれる?」
…おっとー?この子意外にもそこそこ強かだぞー?
まあいいや、物によるけど聞くだけ聞いてあげるよ。
「私を連れて、森を出て欲しいの。」
成る程、無理。
「何で!」
森から出る方法知らないもん、もう私結構長いこと歩いたけど全然出れないよ?
「道は私が教える」
マジで!?道わかるの!?
じゃあいいよ、全然いいよ。
まあ今の私の戦闘力とか君にデコピンされたら死にかねないんだけどさ。
「デコピン…?」
こう指でパーンって、いやそれは置いといて。
正直私1人なら最悪どうにかなっても君を連れてってなると守りきる自信がないんだよね、こんな危なすぎる森……いやむしろ君らどうやって生きてきたの?
さっき見た感じだととても戦えそうにない種族だし小さい上に肌が緑がかってるから森に溶け込めるにしてもカメレオンより迷彩性能低いわけじゃない?
しかもアクティブスキル一つもなしでその上パッシブスキルも戦闘向きじゃないってのさ?
「龍神様が、護ってくれてた」
またそれか、なんなの龍神様って?何か願いとか叶えてくれる?
「さっきそこから飛び降りた」
……あいつかよ。
フォレスト・ハーミット、実のところレアエンカウント