舞神、まかり通る
問題点を先延ばしにして踊り始めたらいよいよあの歌みたいになるだろ、夢の中へ行ってしまうよ、何言ってんだこいつは。
「急に出てきたと思ったら踊るだぁ?……テメェ、本気で俺様とやり合う気かよ」
ルドラのこめかみに青筋が光る、あれかな?破壊神の怒りを持っていった分ご機嫌斜めかな?
「……いいえ?いくら馴染んでいないとは言えど……本来の破壊神の権能を殆ど持っていった君とでは…喧嘩にもなりませんよ」
スタン、タタン、と小気味よい音をたてながらステップを踏むナタラジャさん、何だかこの2人対照的だな……元は逆だったのかね?
『汝……もう怪我は良いのか?』
うんにゃ?本体は千切れかけてるし全然瀕死だよ?でも…何だろ、あの神様が来てから凄く…妙に気持ちが落ち着いたんだよね。
「痛みは、ハリガネさん?」
「ん……あー、大丈夫そうです…けど、何したの?」
「ただ……踊っています」
こいつ電波系か?
「……美麗でしょう?讃えなさい」
「お、おー…美しい足運びです」
「言ってる場合かよ暴食王…!…こいつとの要件が済んだら終わらせんぞ…」
「へいへい……さぁてどうすっかね」
「……」
「……」
「……」
……やっべえ、すげえ気になる…何でこの人…神か、ずっと無言でステップ踏んでんの?
さっきまで死にかけのダメージだったし今ですら危機は去ってないのに……何でこんな……
目を奪われるんだ…?
「…っ!!てめえナタラジャ!!今すぐその動きを!」
「ふっふっふ……『踏魔舞踊LV.《ERROR》』」
「う熱ぁっ!?……あれ熱くないわ、何だこの炎…青白い…」
……あこれ、クリシュナさんのあのチェレンコフ光みたいな技と似てるわ。
「誰の権能が何ですって……と言うかあれは…まさか…!」
「知ってるのかいクリシュナさん!て言うかまだ居たのかい!?死ぬよ!?」
「……このターンまで進んでたらぶっちゃけどこに居ても同じっすから、暴走してる他の神に襲われる可能性もありますし」
うーん、それもそう、世界滅ぶらしいしこのまま行くと。
「て言うか見えてんの?」
「ナタラジャ様の方ははっきりと…あれは…宇宙の再生のダンス…!」
何それ、スケールでかくない?
「具体的な事は僕も知らないんすけどね…ただ、ナタラジャ様って存在そのものが幻というか……破壊神の黒歴史的な扱いだったので」
「……あの姿もしかして滅茶苦茶無理して顕現してたりすんのかな」
「さあ……でも、あの青白い炎は、万物を癒し再生すると言われてるっす!」
「成程な……やってくれんじゃねえかテメェ…」
「ルドラぁ!!まだ私置いてけぼりなんだけど!!」
「うるせえ!!此奴の踊りは破壊と再生を司ってるが…破壊を俺が持ってきちまったから、何かれ構わず再生させようとしてやがんだよ!」
「普通に答えてくれる…律儀だねお前!」
「元々律儀過ぎて色々と大変だった男なんですよ」
「呑気に話してんじゃねえ!!あぁぁぁぁ!!腹立って来た!!テメェら全員、全身の骨砕いて灰にしてやろうか!!」
「急に雰囲気変わったな…癇癪?」
「踊りに呼応しているのですよ……破壊と再生の踊り…再生だけが出しゃばっていれば、破壊も沸き立つと言うもの……」
「ふふ、ルドラ……扱い切れるものでは無いでしょう?その権能は」
「うるせぇうるせえうるせえ!!ぶっ殺してやるぁ!!」
「…『枯死たる破壊』ぁぁぁぁ!!」
額に目が……っ!!?あれやべえ!!
何てリソースの量だよ……あんなん回避したとて下の亀が即死すんぞ!
『汝!あれはまずいぞ!』
「一か八か…『絶対停止命令権』で…」
「我ながら野蛮な技ですね……『繁栄する再生の時』…そして『ヨガ・テラピー』」
ルドラの額にできた3つ目の眼から空気を焦がすくらいのレーザー…をステップしながら吸い込んでそのまんま跳ね返すナタラジャ……これが神と神のバトルか…!私要らんなあ!
『ヤケになるでない……まだあのレベルで無いだけだ』
「…まったく、それは下に放つ技では無いと言うのに……環境破壊も甚だしい」
「はぁ……はぁ……ちょっとスカッとしたわ…」
「……でしょう?破壊だけでは成り立たないのですよこの権能は……しかし同時に再生だけでも成り立ちません……数瞬の間怒りが収まろうとも湧き上がるのがその権能です……」
「使いづらいだろうから返せってか!?笑わせんじゃねえよ!」
「まさか……ですが、向き不向き以前に、慣れと言うものもございます……権能に振り回されている内に…塗り返されていますよ?」
「くっ……ふざっけんな!テメェの再生はあくまでオマケみてえなもんだろうが!!」
「オマケとは心外ですが……実際、壊し過ぎないようにする程度にしか使ってこなかった物ではありますね」
「……君の考えていた一巡も、今の踊りで多少は遅らせられるでしょう……少し、話しませんかルドラ、それにハリガネさんも」
「え…あー…私居ていいのそれ、さっきから蚊帳の外って言うか……もうそこで2人がドンパチやってる間にクリシュナさん連れて家族で逃げたろかな思ってたんだけど」
「心にも無いことを……どの道逃げ場などありませんしそれに、ルドラが隙を見せた瞬間にでも飛び掛る準備をしていたでしょう?」
「やだな〜、何のことっすかナタラジャさーん、冗談キツイっすよー」
びっくりした、超ばらすじゃんこいつ。
「…お前本当に……まあいい、今更俺様と何の話がしてえってんだよ…舞神」
「……何でしょうね、難しいことや政…沢山話したいことはあったのに、いざ目の前で話すとなると…言葉に困る」
「そりゃ、元々俺様とテメェは……」
「会話しなくとも以心伝心でしたものね」
「……いや違うぞ?お前が勝手に俺の言葉を曲解した上で突っ走ってただけだぞ?」
「……あれ?」
初手からコミュニケーションに不安が生じてきたぞおい。
「……お互い喧嘩好きでしたね、悪ガキって感じで」
「……それもテメェが癇癪に任せて暴れまくって、それを聞き付けた他の神との喧嘩に俺様が巻き込まれてただけだな」
「……おや?」
「……テメェさっきから幼少期の俺様との思い出を美化しようとしているが……立場的にはガキ大将と子分だったからな?」
「……それはいいとして」
「流したぞおい」
大丈夫か、本当にこいつ大丈夫か。
「……私はね、君にずっと謝りたかったんですよ……政治事に喧しい神達も全て主神らしく張り倒していれば、この国も、君も、民も…こんな事にはならなかったのですから」
「……本当に…」
「やめろ」
「……それはいらん…俺はしくじった、皆もそうだ……だから俺がやり直す……それだけだ」
「……いや、ですが…」
「誰も彼も、神ですらお前頼みだ…創造神も、維持神も、三神体制だの良くは言っても……」
「……それでも、私は君に生きていてほしかったんですよ」
「……うるせえよ、妻子を心配しろよ、俺が居なくても似たような役職の奴もいるしどうにでもなるが、テメェの変わりはいねえんだよ、国王の自覚が無さすぎんだよテメェはよ……」
「ぐうの音も出ないねこれは」
ボッコボコだもん、しかも言葉的に積年の恨みだもん。
「ふふ……ぐう…」
「ぐうの音は出た!じゃないのよ」
「……て言うか1番謝らないと行けねえのは蛇野郎ってかヴァースキの野郎だからな?彼奴が何も自分で決めねえで適当に流されてっからこうなってんだよ」
「……彼も必死だったんですよ」
「それでこのザマだぞ、文句も出るわ……あー…くっそ……会いたかったよ、会いたかったけどこのタイミングじゃねえだろ……」
「今の今俺様は世界滅ぼそうとしてんだけどな」
「……一巡した世界でまたダチになれたら最高だ、って言ってたもんね」
「テメェはさっきから的確に口挟むのやめろや!」
怒られちゃった……
「……手遅れなのはわかってんだろ?」
「……ええ」
「……だから、踊りに来たんですよ」
……踊り、か。
「……さっきからそれ何なんだよ、踊るって…別に言葉通りじゃねえんだろ?」
「あ、わかって無かったんだ!?二人の間でだけ通じる解決策なのかと思ってたわ!」
「やけっぱちにしては中々凄みがあるから乗ってやったが……こいつ、割とそういう事するからわからんのだ」
「私ここ数分で大分君達のイメージ変わってきちゃったなぁ…」
「…んで結局なんなの…?」
「進んでしまった破壊の権能、溜まってしまったリソース、始まってしまった輪廻……もはや止められません……それは例え神の力を持ってしても」
「……我々は神と持て囃されて居ても、所詮は人の思いの結晶……」
「人の思いでも無ければ、我々とて介入は不可能ですよ」
「民を集めてくださっているんでしょう?…ではやることは1つ、踊るのです」
「……ヘルプ、ルドラヘルプ」
「わからん、こいつはずっとこう言う奴だからわからん」
やあ!!遅くなったね!!私の事を覚えているかな!!?
時代はボリウッドだ。