歪んだ認知
〔ここ?そりゃ先代様の身体だぞ?〕
「いやそうじゃなくて……ダンジョンに潜る経験に乏しい私だってここが普通のダンジョンとは違うことくらいわかるさ」
〔んあ〜、ざっくり言うと前哨基地だぞ、蟲の〕
「前哨基地とな……この国を攻める上での?」
〔いやぁ……どっちかと言うと世界規模だと思うぞ?システム面の書き換えが起こったのも彼奴らが出た後だし〕
「システム面……また私にしか理解できなそうなことを話すね、クールマ神はどこまで知ってるんだい?」
〔どこまでと言われても、知ってること全てだぞ……ただ、君にまだ受け止める器が無いだけだぞ、とはいえだ、今知っておかないと行けないことも多い……僕が一肌脱ぐなら、今だとも思うぞ〕
「……どうせ他の子達は理解できないさ、私が発狂しかけたらまた止めてくれればいい」
〔……さっきの、前任者の記録……あれはどのくらい読み取れた?〕
「お恥ずかしながらさっぱりさ……でもまあ、大方の予想は着く、この世界はきっと誰かが創った……通じないだろうが、ゲームの世界だ」
それも多分規模的にはコンシューマー機じゃなくて何年もやってる老舗大型MMOとかそんなレベルの。
〔ま、そのくらいわかってればよかろー〕
「あってるの?」
〔いや全然〕
しばくぞこいつ……いや見える範囲に行ったら死ぬのは私だけど。
〔……そうだなー……まあ君にはまだ理解できないだろうが……強いて言うなら、最初から居たんだぞ、僕達は……君達が理解できず闇雲に認知してたたけでね〕
…………さっっぱりわからんな、やっぱ私の今の状態じゃ無理か、閃きの予兆すらないもん。
「んー、駄目みたいです」
〔駄目かぁ……ま、しかたないぞ〕
「それよか蟲の話聞かせてよ、あのちっさい亀のロボ何なの?」
〔あー、あれは……まあ先代様の身体に最初に取り付いた蟲の物だぞ〕
〔何で機械なのかは知らないが、恐らくここをダンジョン化しようとした意図を読んで、食料にならない探査機として無機物の兵士を作ったんじゃないかと思うぞ?〕
「成程……え、てか寄生虫って私らみたいな?この身体に私等の本体サイズのが……?何ともまあどえらい身長差カップルですこと……意味あったのそれ?」
〔いやぁ、それがさっぱり無かったんだぞ……〕
だろうねぇ。
「……え、じゃあどういう?」
〔全くもって意味が無い、今朝前髪が決まらなかったとか、それ以下の危機感すら湧かない程度には何の感覚も無かったんだぞ……だから気づかなかった〕
「……寄生……っすか」
「ふむ……ですが、いくら体積が膨大と言えど自分自身の1部を乗っ取られたら流石に気付くのでは?」
〔本来感覚も何も無い腸管のごくごく1部……それもご丁寧に操作権を奪うんじゃなく、ただ異物を感知しない程度に麻痺させるものだったんだぞ〕
「えげつない……ハリガネさんもそんなことが?」
「いやぁ……多分私じゃ練度が足りないね、何だかんだでグラさんとは『共生』だし……感覚とかを奪ったりとかはやり方もさっぱりさ」
「……まあでも、そんな巨大生物の1部に寄生してまで侵略の第一歩を始めた理由……増殖か」
〔正解だぞ、先代は自分すら気付かないレベルで害も無く無数の寄生虫に侵されていたんだぞ〕
「……気分の悪くなる話っすね」
「でもそれが全てが旦那様と考えると…………っ!……ふぅ」
「…………くたばれ」
「あ、凄いストレートに……ですが逆にイイ!」
無敵か?
〔それに気付いた時点で対策を取ろうとはしたんだぞ?ただ……あまりにも遅すぎた上にタイミングも最悪だった……その頃には地上に神は居なかったんだぞ〕
〔助けを求めようにも神は居らず、困った先代様はせめてここで増えた蟲共を逃がさないように、身体をカうッチカチにして礎としたんだぞ〕
「……成程……それでダンジョンに」
〔まあ待つんだぞ……先代様はひとまず蟲共を逃がさぬことに成功したと思っていたが……まあ誤算だったのは蟲共自体、ここを出て行くつもりが無かったことなんだぞ〕
〔……恐ろしい話だぞ、あの蟲共は先代様の身体を自分達の製造ラインにするため、わざわざ地上を攻めた奴とは別に現れて、先代様自身にも自分達を外に出せなくなったところで初めて具体的な行動を開始したんだぞ〕
「……いやまて、それおかしくない?バスキンはこの国の担当は自分だって言ってたし……何より蟲は今回この国に対しては何もできてないって」
〔……え?〕
「……お?」
〔ちょっと待つんだぞ、バスキン?〕
〔君らまさか……あの裏切り者と手を組んでるのか…!?〕
「うん、彼の中身は私の親戚らしいんだけど……え、待って違うの?」
〔これは…やりやがったんだぞ?〕
〔君達、さっさと地上に戻った方がいいんだぞ〕
〔アイツは……アイツは僕の知ってる限り寄生なんかされてない〕
「ど、どういうことっすか!?」
〔地上で最初に蟲の影響を受けた蛇はバスキンじゃ無いんだぞ!仮にバスキンから蟲の気配を感じたとしても……それは彼奴が奪った神の物だぞ〕
〔あーくそ…ここからじゃ上手く見えないが……地上の戦力はどうなっているんだぞ?〕
「えっと……うちの娘の侍と魔物使い……それからハヌマーンの化身と豊穣の神と沖の神」
〔……強くないか…?君らのチーム、どうにかなりそうな面子だぞ〕
神×4、魔王、人間、亜人、自然現象……何だこのチーム。
〔まあともかく早く行った方がいいのは確かだぞ…!〕
考えが追いつかないが……バスキンの野郎がもし私らの同胞を語って、ここまで読んだ上で私の家族に手を出すなら……少し考えないとね。
『……汝、少し落ち着け、せめて地上に出るまでは冷静で居るのだ』
ああそりゃ勿論さ、まだ頭はクール、心はホットなハリガネさんさ。
「つまり今は股間もホ……やめておきましょう」
「ははは、酸素の問題さえ解決出来れば置いていくのになお前」
「つまり今は私の事が必要なのですね、旦那様ったら熱烈…」
「……いや実際、本当に少し和んだよ……ありがとねけむりん」
「……いえ」
「ただ、私の想像通りの事がもし地上で起こってたなら……私が彼に例えどんな酷いことをしても」
「……誰も止めるなよ……?」
「……っ……クールマ君……それなら、最初に蟲が取り付いた神の名前は……?」
〔……暴■神■■ラ、だぞ〕
壊れたラジカセみたいに所々の音が飛んだ言葉……でも、わかっちゃうなぁ……
遅くなってごめんよ…
いやー、YouTubeの方も更新が滞っておりますね、申し訳ない限りで……
いつも応援ありがとうございます、モチベーションになってますぞ!




