後退知らず
『更に先へ』
言わずと知れたハリグラさんコンビの必殺技であり、グラさんを魔王たらしめる奥義…ただし、これ自体の本領は加速にあらずってね。
「けむりん、クリシュナさんだけ守ってあげて!私たちは……もう止まれない 」
どこまでも続く一本道、敵が来るなら避けることは不可能…でも一々戦ってたら疲れちゃうし増援も来ちゃうよね。
ならどうするか…
『我の事は気にせずともよい、蹴散らせ』
「おっけぇぇい!」
加速?1歩ごとに乗算されていくパワー?どれでもないさ。
『更に先へ』は歩みを止めない限り、止まらない力だ。
1歩進む事に怪我の修復は爆発的な速度に、身体を覆う甲殻は硬度と鋭さを、強化された踏み込みは仮想的な質量を!
「ま、前から…あれは…亀?」
ロボ…いや外側はパッと見生き物っぽくもあるけど…動作が違うな、何かぎこちないし空中に浮いたまま水平移動してるし。
まあいいさ、事故には気をつけな…自賠責すら入ってない1文無しだぜ私達は。
「邪魔だァァァ!!」
どけどけーい!ここにおわすは暴食の魔王様ぞ!!
「すごっ…!は、速すぎる…っす…!」
「警告、直ちに停止してください」
「警告、警告」
「押し通ぉる!『無双腕・百LV.10』」
思った通り、ある程度硬くはあるけどこの状態のグラさんならかすりさえすれば即死させられる程度だね。
「……っ!旦那様…この先に強い生体反応がございます」
「わかってるよ!私が合図したら囮を頼むよけむりん!」
迷宮主……何が相手かは置いといてもまず間違いなく強敵ではあるだろうさ。
この状態のグラさんだし、惨敗するってこた無いだろうけど…まともにはやり合いたくない相手だわな。
『汝、準備はいいな……抜けるぞ』
「頼んだよ!けむりん!」
洞窟を駆け抜けた先に光……こう言う洞窟って大概発光する苔とかよく分からんものがあるよね、不思議。
なんて…言ってる場合じゃねえなこれ、居るどころじゃない、待ち構えてる。
「くそっ……けむりん!」
ああ、君なら命令より先に私の頭の中を読んでくれるよね…ナイス反応速度……
「間一髪でしたね……まさか囮で一瞬たりとも騙せないとは」
「中々に頭も良いんだね、流石迷宮主と呼ばれるだけはある……さて、どうしたもんかな」
迷宮主との接敵が確定していた以上いくつか想定はしてたし対応も考えてはいたが…
まず出会い頭の攻撃、これはもちろん想定してたし何なら場合によっちゃこっちから仕掛ける予定すらあったんだわ、奇襲が何だかんだ1番火力出るからね。
しかしまあ、先手を打たれたわけで、リズムも迎撃姿勢も、なんなら私等の『更に先へ』で稼いでた歩数バフも失ったわけで。
そして何より誤算なのは……迷宮主のタイプ、これがもうクソでかくてゴリマッチョないかにも我パワータイプでござい。みたいな鈍そうな奴ならいくらでも固めようがあったさ。
迷宮主って語感だけで想像しちゃってたなぁ……バッチバチにスピードタイプじゃん、それも加速中の私達に反応してタイミングよく攻撃をできる程度には。
「……けむりん、亀は逃がしてクリシュナさんを守っといて……そしてごめんクリシュナさん、ちょっと構う余裕無いから……舌噛まないでね」
「な…何を言ってんすかハリガネさん…!?」
「頼んだぞけむりん」
「……かしこまりました旦那様……どうぞゆるりとお楽しみくださいませ」
天井から垂れ下がった水晶に照らされる大広間の先、あのゴールに向かってけむりんボール(クリシュナさん入り)をシュート!!
「へって…オ、ギャァァァァ!?」
「うーむ、素晴らしき叫び声…色気の欠片もねえなこりゃ……さて」
空気が動く感覚を察〜知、振り返る間もないから見えちゃあいないが…ここだ、『強制停止命令権LV.10<EXTEND4>』。
「お前は、行かせるわけねえだろ…?」
「ノアぁぁぁぁぁ!!?ってちょ!けむりんさん!…別に僕をここから出せって事じゃないっすけど……今のそんな死ぬ覚悟で戦わないといけない場面じゃないでしょう!1回皆で逃げて体制を…」
「お言葉ですが……クリシュナ様は旦那様がどれ程臆病かご存知で?」
「ご存知って……いやぁ、僕あんまり彼が逃げてるとこ見たことないんであれっすけど……でも確かに、慎重なとこと大胆なとこが極端だなと…まあどちらも生き残ることに関しては信頼してるっすけど」
「そう、旦那様は極端なお方です……つまり、己以外を逃がすという事は、最低でもあの場で生き残るべきなのは自分ではなくクリシュナ様であると考えた故の行動…」
「……先を急ぎましょう、旦那様の読みが正しければこの先が目的地でございます」
「っす……護衛、お願いします」
「旦那様に命じられている以上頼まれずともやりますが……そうしおらしく言われると意地悪したくなってしまいますね」
「危ない!?凄く危ないこの人!?」
「ふふ、ほんの冗談でございますよ……旦那様の御友人をつまみ食いだなんてそんな恐れ多いこと……とてもできませんもの」
「初めてハリガネさんと組んで良かったと思ってるっすよ…て言うか、神を相手にそんな冗談言うのは恐れ多く無いんすか…?」
「ふむ……まあ私にとっての神は旦那様ですから」
「いや…複雑な心境っすわそれ……」
さて、どうしたもんかねグラさんや。
『無論、蹴散らすが良い……この魔王の道を塞ぐというならば、それなりの覚悟あってのことであろう』
簡単に仰る……一応迷宮主だよ?見る限り……金属っぽいけど、ロボじゃない……どっちかと言うと鱗?いや鱗にしちゃ不揃いだけど、体を金属質な鎧で覆ってる…大型の猫科動物って感じ?
『あの身体……かするだけで肉を持っていかれかねんな』
それに関しちゃ私達も同じさ……さぁて、変身。
「んっぐ……いだだだ……肩関節やらなんやらがメキメキと……あ、やば攣る!攣る!あ……」
「フー……完成、通称ちょっと昔のグラさんモードさ…かっこいいだろう?」
「うん……ダサい云々は置いといても長いな、名前考えるか」
さて……『拡張解析LV.10』。
「っとうお!?」
はっや……変身は黙って見ててくれたってのに解析は嫌かね……
「恥ずかしいからってそんな勢いで飛びかからんでもいいだろ…がい!!」
「…マジか、完璧カウンター合わせられたと思ったんだけどな…」
確かに額を穿ったと思ったけど……残念、当たったのはそれはそれは鋭い牙でした…ってね、カウンターにカウンター合わせやがったよこいつ、化け物か?化け物だわ。
「でもまあ……グラさんの拳もカッチカチだ、良い音したね……全部そうやって防いでみな、総入れ歯にしてやるぜ!」
『無双腕・百LV.10』!!
けたたましい金属音、飛び散る火花に真っ赤な雫……これほぼ私のだな、痛い。
「……ふう……やるじゃない、名を聞こうか?」
「……」
「……」
いいもんねー、さっき解析当てた時にちらっとだけ名前は見えたし……
「開幕少々出鼻をくじかれたが……やろうか、【鈍色不壊 フルメタルジャケット】……名前すげえな」
わっしょいドスコイお久しぶりです。
Q.迷宮主ってどうやって発生するの?
A.近くに居た生物達がリソースにおびき寄せられてプチ蠱毒した後に迷宮主が決まるパターンと、昔その土地に居たとんでもなく強いやつがリソースの記憶としてコピーされて出てくるパターン
またはその両方。




