旧世界より愛をこめて
「えー…こちらですな」
岩石や水晶でできた迫っ苦しい道を進むこと…1時間は経ったか?いかんせん一方通行だから方向感覚も時間感覚も失っちゃうよね。
「……いけどもいけども風景は変わらないが、まあ国を物理的に背負ってる亀の体内って考えたら仕方ないのかね?」
個人的にはゲームならワクワクするような要素なんだけど、せめて戦闘とかお宝とかあればね……いや戦いが好きなわけじゃないけども。
『壁を隔てた先にはいくつもの生体反応がある……子亀の言う通り危険の少ない道を選んでおるのだろう』
にしてもだ……一方通行ってのは迷いは無くても逃げ道も無いからね、安全な道に見えて1番の危険に向かって一方通行……なんてこともありえる。
『……ふむ』
……こんな真っ直ぐな道なら速攻で最高速度だろうけどね、他の連中は余波で消し飛ぶかも知れないけど。
『……だが策はあるのであろう?』
まあね、そのためのけむりんだし。
『旦那様…』
「あー……止まろっか」
「…?まだ危険は先かと…?」
「いいかい子亀君……君の言う危険は置いといて、この先は私達には危険と判断したのさ」
この先、まあ洞窟な以上考えておくべきだった危険がある。
「こっから先さ、多分酸素無いよね」
「……っあ」
「君は……どういう訳かは知らないけど酸素が無くても活動が可能な生物……いや生物かも怪しいが、神様ってそんなもんなんだろう?実際クリシュナさんは気付かなかったし」
「さて子亀君……君、この先に酸素が無いことは知ってたかい?」
「……」
「知らなかった、ならそれでも構わないよ、だがもし知っていたなら、私は君を引き潰すしか無くなるわけだ」
「……お客人、ここは僕の話を」
「答えろ、それ以外の選択肢が今君にあると思うなら続けて構わないが……すぐさまその可愛らしい身体が粉々になるよ」
悪いね、ここに来るまで想定外だらけでこっちにも余裕が無いんでね、疑わしきは粉砕させてもらう。
「……知っていました、ですが……ここに辿り着く以上貴方達であれば無酸素程度…」
「問題無いと?…生き物を散々見てきた君が?それはちょっと…無理がないかい?」
「……お許しくださいお客人…ぼ、僕は……」
「……まあいいや、実際君が言うようにまだ物理的な危険……生物は当分出てこないみたいだし、何も無いと言うならそれは嘘にはならない」
「は、ハリガネさん…?どうしちゃったんすか……」
「……ごめんねクリシュナさん、確認だよ」
正直慎重に越したことはないけど……自分でもこの状況下で冷静でいられてるかと言われると怪しいものがあるね。
「……まあそれはいいや、先に進むしか無い以上はある程度の不安要素は仕方ない……けむりん、タコさん酸素供給よろしく」
『おう!』
「かしこまりました、マウストゥマウスでよろしいですか?」
「よろしいわけが無いけど一応聞いとく?」
「はいごめんなさい、真面目なやつでございますね」
……ふー。
これが迷宮か、世の迷宮探索者が何で勇者って呼ばれてるのかわかった気がするよ。
『完全なる閉鎖空間、それも1歩進む事に死の危険が伴う環境だ、そんな中で冷静でいられるものが勇ましい筈があるか……汝の言う勇者とはただの蛮勇が気狂いよ』
……気狂い度で言うなら負ける気はしないんだけどさ。
『どこで張り合っておるのだ…』
……実際、ハリガネさんこの手の精神攻撃は余裕だと思ってたタイプだからちょっとショックさ……お化け屋敷とかも平気だった気がすんだけどなぁ。
『お化け屋敷?』
魑魅魍魎の類に扮した人形や人間が入った人間を驚かしに来るアトラクションだよ。
『ふん…その程度我と汝ならば文字通り跡形も残さぬであろう』
んー、出禁だねぇ。
「ごめんね子亀君、ハリガネさんちょっとメンタルが不安定なんだ……気を悪くしないでおくれ」
「いえ…実際僕の配慮が足りなかったのは確かですからな…」
……とは言えだ、この子はやはり信用ならない。
「うん、じゃあ……改めて聞こうか、この先には何が待っているんだい?」
「この道は……空気が無い以外は海水で埋まっているわけでも危険な生き物がいるわけでもございませぬな」
「……ですが、最も安全な道とは到底言えませぬ……何故なら」
「ここから先、この長い一本道を越えた先に待ち受けているのは迷宮主の領域…」
「玉座とも言える広大な空間、その正面入口なのでございますからな」
「……腕に覚えがあるか聞いた理由はそこかい?」
「いかにも、この道を通る以上迷宮主との対面は避けられませぬ」
「……なるほど、つまり君は私達と迷宮主の…あわよくば共倒れを望んでこの道を案内している…と?」
「……そ、そんなことは…」
「……僕は、僕はどうしても父の体内で我が物顔で君臨する…迷宮主のことが」
「ああ、いいよ」
「……では」
「もういいよ」
「うんざりだ、君の言葉には何一つ本当の事がない……」
「君は……本当にこの迷宮の本来の王なんだろう……だけど、最初から最後まで何一つ私達に対して本音で接しては来なかった」
「クリシュナさんの手前チャンスは腐るほどやった、だが……」
「……悪いね、こっちはこっちで家族の命とこの国の命運を背負ってるんだ」
クリシュナさん、私の後ろに。
「いつから……いつから僕の言葉に気付いたのですかな?」
「最初っからだってば……君がクリシュナさんと知り合いじゃない時点で疑ってかかっていたのはあるが……」
「説明しすぎたね、あれだけ私寄りな説明が出来てしまう君は、どう考えてもこの世界の…言わば運営側の存在だ……具体的に言うなら……管理者側の」
「……不安要素確認」
「自律型巡回機構アクパーラ-Ⅲ、撤退」
生き物の声じゃない、どこか違和感の残る音…まるで機械音声みたいな……
『汝!』
「想定内だよ、やっちまえけむりん!!」
逃げられると思うなや、ハリガネさんの認めたメイドが相手だぞ。
深海の圧力にも耐えられる、強度は折り紙つきのけむりんドームだ、逃げるなら少なくともグラさんくらいの火力ださねえとなぁ。
「……捕縛完了でございます旦那様、とは言え強度に殆どを割きましたのでここから先、私の戦闘力は……」
「酸素の供給さえしてくれてればいい、それもできないようならそいつも解放してくれて構わない……良くやったね」
「あぁ!不思議とまだまだ行ける気がしてきてしまいますね…!」
もうこいつ褒めるのやめようかな。
「ど、どういう事なのか説明してくださいっすハリガネさん!」
「ピーピー騒ぐんじゃないよ、この子…いやこいつは……何の確信もしてないけど君の知ってる存在では無いってことさ」
「なん……っすかそれ…!」
グラさんわかる?
『我が何でも知っていると思うなよ……わからぬ、が……とてつもなく嫌な予感はしている』
『……汝、前方から何か来る…構えよ』
巡回機ってことは……まあ戦闘用があってもおかしくは無いし、腹の中にいる以上戦闘は避けられない……上等。
「クリシュナさん!!このまま突っ切って迷宮主素通りするよ!」
「で、できるんすかそんな事!?」
「やらなきゃ死ぬんじゃい!」
「行くよグラさん、『更に先へ』!!」
おひさー!!
最近色んな方からファンアートも貰えて嬉しい肩パッドだよー!!
結局転職はしなくなったので頑張って今後も書いていきたい所存!!