手慣れた物さ
……すっげ。
「…まだまだあるから、慌てないで……ね?」
豊穣の力ってピンと来なかったけど……ガリッガリに痩せた土地を一撫でしただけで根菜類や芋っぽいものがわらわらと…これ実質兵糧無限か、ふざけてんな。
「流石だねラクシュミーさん、体力は平気?」
「ええ…疲れるけど、それ以上に溢れてくるもの…」
「ありがとうお姉さん…!」
「ありがとう……本当に…」
「これで…明日も生きてられる……!」
「良かった……良かったぁ…」
スラムのガキ共、老人、病人……全員が死に怯えて暮らす者か。
「この国は今や死すら許しにはならない…死ぬ事で解放されずに更に強い苦しみが待ってる、そんな世界で死から救われたら、例え神じゃなくても信仰しちゃうよね」
「ええ……生き返る気分…ね 」
それじゃあ、今度は私の力を見せようかね。
「さて、皆……腹も満ちた辺りでこの方の名前を教えてやろうじゃないか…ここには覚えている人は居ないだろうが……彼女は神、クリシュナ神だ」
「クリシュナ…?」
「……?」
「神様って…どういうことですか…?」
うーん、やはりザワつくか。
まあこの国で殆どの神の認知が消えかけてた以上殆ど唯一神信仰みたいな物だったろうし、当たり前っちゃ当たり前だね。
「……やっぱり…知らないわよ…ね」
「まあ見てな、引っくり返してやるから」
「少し、話をしようかな……ご飯代だと思って聞いて言ってよ皆」
「……君達は、負けに負け続けてここにいる、産まれ直しても這い上がることが出来ず、どんどん落ちていく存在だ、生きているように見えているだけの屍だ」
「……えぇ…?」
そんな怪訝な顔をしないでラクシュミーさん、考えあっての罵倒だから。
「……ありとあらゆるものを忘れさせられ、何もかもを失った君達に…それ等を思い出すなんて不可能、だから私が今ここで改めて教えてやろうじゃないか」
「神はいる」
「今、ここに……絶望に喘ぐ君達が祈りを捧げるべき存在は、ここにいる…!」
「……神様…」
「そうか…居たんだ…本当に!」
「言う必要も無い言葉だが、あえて言おうじゃないか!」
「良くやった民達よ、良く今まで耐え忍んだ…!」
「神が居なくなった国で、良くぞ帰りを待って生き延びた!!」
「私はハリガネさん、この国に来た理由はちょっとした寄り道程度の者だし国盗りをする気は無いが」
「ただ!君達が、明日を信じて日々を笑って過ごせるように、歌と祭りが絶えないこの国を取り戻すために!」
「友との約束を果たす為にここに居る!」
「無理強いはしない、恩だとも思わなくていい」
「でも少しでも君達にこの国を、忘れ去られた神々を信じる心があるならば、協力して欲しい…!」
観衆は沈黙…でも私には見えるよ、こんな熱量…誰もが求めた言葉を吐ける存在と、奇跡を体現させた存在……信じずには居られないだろう?
……燃えろ…!信仰がエネルギーなら…このスピーチは起爆剤になる。
さあ……もう一撃!
「ぁ………ハリガネさん!!ラクシュミー!」
……欠損した腕、ズタボロの布切れに変色した皮膚、歳の頃はブレ子…と言うかコノハさんと変わらないくらいかね。
「……信じても…良いんですか…?我々は……神を…」
「それは……よし、答えてやりなよ女神様」
「え、ええと……コホン……ごめんなさいね、民草にそんなことを言わせてしまって…」
「……私から信じて、なんて…とても言えないけれど」
「……約束するわ…神として、ね?」
割れる様な歓声……ふぅ、よし。
よし……完☆璧。
「そんなわけでスラム街の信用は得られた…と思う、全部は無理だろうけどね」
「……化け物っすね」
「アンタのそれ…狙ってやってたのかい…?」
「……外界は彼様な存在ばかりか?」
「儂はたまに父さんが怖いです」
「……うちのメイドが叫んだ後倒れたまま痙攣してるんだけど」
『汝……その、よくやった…?』
「たまには普通に褒めていいんだよ君達ぃ!」
たまに頑張ると私への評価が全体量が上がって比率が悪い方向に向かう気がするな。
「これで……戦えるのかしら…?」
「いや全く、そもそもラクシュミーさんは戦闘向きじゃないし」
「……まあ、そう…ね」
「……じゃあ…どうして?」
「苦しむ人間が居て、それを救う算段があるなら、君達神様が他のことに集中出来るわけないじゃない?まあ、先払いだよ先払い」
実際問題早めに解決した方が良い案件ではあったし…少しでも信仰心は集めておきたいからね。
「ぅうむ…事実胸につかえていたものが取れた気分だ、礼を言うぞハリガネさん…」
「僕からも……いや本当に、君このまま国に残らないっすか…?」
「うむ…国家最高参謀程度の席であれば作るが…」
「ハリガネさんは流浪の民だから……この国で冒険終了には速すぎるよ」
「よし、そんじゃあそろそろ次の神様呼ぼうかね!」
バスキンの休憩も大丈夫そうだしリソースは何なら増えたさ、さて次は誰が来てくれるか……ガチャ要素かな?
「あれ……けむりんまだ復活してないの?」
「……ハリガネさんの演説聴いて、痙攣しながら倒れたっきり」
「……起きて、ドッペルゲンガー」
グラさんの美声で耳元に囁きかけるウィスパーボイス、相手は死ぬ。
「〜〜〜!!!?」
「おし、死亡確認」
「追撃?」
『……ミリア、こやつの思考は覗くでないぞ』
「……うわ…見ちゃった……うわ…」
ちょっと待って超怖いんだけど、全力で目を背けときたいのに若干気になるの凄い嫌。
「……すまんね、うちのメイドがこのザマだからもう少し休憩……作戦会議の続きもしようか、聞きたいこともあるし」
「……私は、少し外の空気を吸ってくる…わ」
「はいよー…ブレ子、この前の紙頂戴」
「こちらに……大切に扱ってくださいね、儂の苦労の結晶です故」
拡張解析当てたら【状態:腱鞘炎】って出て笑ってしまって以来恨みがましいな。
「ふむ……次の一手は…」
「……ハリガネさん…か」
「……蟲……なのよ…ね?」
どすこーい。
Q.【青天井】のユニークスキルってどんな?
A.HPの上限の撤廃。
Q.神の中の強さってどう決まるの?
A.何を成したかどうか、あと信仰。




