皆思ってる以上に自分のことを知らない
青い空、緑豊かな木々、そこにいるのは仰向けにひっくり返ってじたばたと四肢を動かしながら目をギョロギョロさせているカメレオンだけ。
もうどのくらいこうしてるだろうか、多分10分くらい。
何でかって言うと拡張解析とかいう最強の情報スキルかと思ってたら何一つ自分のことはわからない代物だったと言うか事実。
周りのことは全部わかってるつもりなのに自分のことは全くわからないとか二十代かよ。
……深い。
まあ、自分が何なのかはわからなくても他の知識を得られるって考えたら中々有用なスキルだろうさ。
それにしてもこの森の出方とかはわからないんだけどねー。
それで駄々捏ねながらカメレオンの情報だけをひたすら眺め続けてたわけなんだけど、こいつは体の色を変えて風景にとけ込んでいるんじゃなくて光の屈折率とかを皮膚を通すときに変えて見えなくなってるらしいね。
本当に透明になっているとは恐れ入る、でも若干見えてるのはクリアガラスとかがやっぱり目視できてしまうのと同じ事なんだろうか?
あれじゃあ水中とかなら見えなくね?
いやわからん、私に科学の知識は無い……アニメとゲームはあるんだけど大学で何やってたんだろう。
凄く知りたくないな。
色々解析してて思ったのがさ、これ取説みたいに使えるならこの貌無き者の魔法もわかるんじゃないかって事よ。
結論だけ言うならわかった、わかったところであんまり意味は無かったけどね。
この貌無き者は特性として形を持たない。
うん……自分でも何言ってんだこいつって思った。
まあ詳しく説明するならこいつは厳密に言うと生物であるかすら曖昧らしい、色々説明文には書かれてたけど固有名詞みたいなのが多過ぎてわからなかった。
ざっくり説明するならこの世界を構成する……所謂マナ的な物体が物事を考えて行動するようになったことで産まれた存在?だかなんだか。
だから勝手に拾い食いみたいに生き物を吸収してはその生き物の姿になれるみたいな、自然現象みたいなものなんじゃね?ってことで決着を付けてみることにしたよね。
全く知らない業界の事を業界用語を使いまくって説明されてるような感じだから一から十まで聞いても二くらいしか理解できてないんだよ。
くそ、意識高い系め。
ああそれで魔法とスキルね。
『貌無き者』は前に食べたり見たり触ったりしたものを覚えている限り模倣するみたいな感じらしい、記憶……現象って私さっき言ったのに?
まあいいや、そんでもって『図々しき者』は使ってる最中だけ覚えている限りのその者の行動と同じ事ができる。
うん、強いさ。
確かに情報だけ見れば強いかも知れないけど、情報だけ見ればな!
しかし数分透明化したらMP二割くらい持って行かれたから使えるかって言われたら使えねえのよ。
つまり燃費が悪すぎる、外車かおのれは?
国産車にさっさと乗り換えたいね。
いやまてよ?
こいつの記憶がスキルに関係してるなら、寄生してる私が覚えてる奴にもなれるって事じゃねえか!
さあ強く念じよう、姿を思い出しそう……はぁっ!『貌無き者』!
……何も言うな、何も。
私はムカデになろうとした、あいつは目立つけど骨格的に移動には便利な身体だったからね?
それが燃費良く動けるならいいじゃねえか!ってさ。
ても結構記憶ってシビアなものでさ、全体的にディテールが雑になってしまったのだよ。
6歳くらいの絵かな?関節はガタガタだし色合いも違う、尻尾の方とか最早デカい肉の塊みたいだ。
顔は見えないけど多分一番酷いんじゃなかろうか?
これ混乱耐性無かったら精神に異常を来すよ?
あ、そうか肉っぽいのは私が体内にいたからって事か。
それに2mくらいあるムカデの尻尾とか自分で見えねえもんな、雑にもなるさ気にするな……えーと、ハリガネムシ。
名前わかんないからハリガネムシって自分を呼ぶしかない状況、普通に考えて地獄。
うーん、いい考えだと思ったんだけどこれじゃあなぁ……いや歩きにく!?
体の後ろの方でずりっずりって身体と地面がすり合う音だけ聞こえるし割と気分が最悪だから戻ろう……あ。
『貌無き者』!
……ふっふっふ、やった私天才だ。
記憶が関係している、ならばあの戦いの最中何度も見て殴って食い散らかした鹿にならなれるってわけさ!
見よこの愛らしい体に格好いい角!殆ど張りぼてだけどな!
わーい歩きやすーい!三輪車から自転車に乗り換えた気分だ!
よぉし、そんじゃあ後は走るだけだー!
うん、だからどこにだよ。
私はちょくちょく自分が完全に迷子なことを忘れているね。
右も左もわからず常に道に迷ってるとか十代かよ。
……深い。
アナウンスさん、地図とか出せないのかね。
何かこうカーナビとかつけてほしいよね、角と角の間とかにさ。
えーと、私がさっき来たのがあっちだから……こっちか。
道はわかんないけど取り敢えず歩いてみよう、何ならカメレオンのまま戻れなかったからそこまで進んでないしな。
しかし何で私は目が覚めた段階でこいつに取り込まれていたんだろうね?リスポーン地点は基本生き物の腸内固定ってわけかな?
死にたくなってくるね、はは!そしたらまた腸内で復活しかねないから死ねねえよボケが!
……大丈夫だハリガネムシ、お前は強い子だから例え光が遠かろうとも、見えた光の方向が肛門であろうとも心が折れずやっていられる筈だ。
ふう…落ち着いた、行こう。
鹿になってみて感じるのは意外と四足歩行楽しいってことだね、いや言うてもカメレオン四足なんだけどさ?
足の長さが違う、体が軽い気がするもの。
まあ実際軽いんだろうけどな。
この体で体重無さ過ぎると下手をすれば横から風を浴びたらぶっ飛ぶのでは?
あー、てか鱗犬……あいつになれたら早かっただろうけどなぁ。
貌無き者が最初になってた奴って狐…いや犬?わからんけどそういう感じの奴もいるのかね。
肉食動物の姿になれるならなりたいものだけども、狼とか…狼とか!
正直今はただの鹿だから強そうかって言われたら微妙だ、いざとなったら不完全なムカデにでもなってビビらせれば逃げるだろうか。
いやでもうーん、見た目だけでも強そうなら戦闘は避けられる…って思いたいけどどうかね?
ぶっちゃけムカデクラスがごろごろいるならどうにもなんないし?
拡張解析持ちとかには一瞬でバレちゃうだろうからなぁ、どのみちこいつで戦うのは諦めた方が良さそうだ。
歩きながら適度に補食しつつ森を一直線に抜け、尚且つより良い寄生先を探すと…近いとするならオープンワールドのゲームでやれること多過ぎて何していいかわかんない奴だな。
何かこう、右上とかにやることリスト乗っけといてもらいたいね。
あとスキルツリーとか進化ツリーとかも見たい、割と進化先とか重要な気がしてきた。
いやまあ…ハリガネムシは進化できなかったんだけどさ?
何だっけ、あの時に出てた奴…次世代のハリガネムシとかだったか?
背骨と脳食べる奴みたいな…うろ覚えが過ぎる。
『一回休み』に解析当てても雑な返信しか返ってこなかったから正直これもう私だけに意図して隠されてるんじゃねえかと勘ぐってしまうよね。
だってカメレオンにはえらい量の資料投げてきたのに私はわからんのだよ?
不公平だよ、不平等だよ…攻略本が欲しくなる。
……何らかの知恵袋的な物に問い合わせられないかな?
Q.「どうすればハリガネムシから人間になれますか?」
A.「は?」
うん、却下。
そもそもまずできないけどこんな質問されたらお婆ちゃんも知恵袋の紐引きちぎると思う。
こんな人生について必要な3つの袋1つも持ち合わせてないってのに酷い話だよ。
まあ3つの袋知らないんだけどさ、玉袋と福袋とあと何かとか?
どうでもいいや。
それはともあれ事態が好転しないのは私の歩みが遅いからか?
いや違う、この森が初期スポーン地点になることがおかしいんだ。
私悪くない、それを裏付けるようにご褒美を見つけてしまったからね。
水の音、水の音がするのだ。
水溜まりや小池じゃないぞ?多分滝か何かのような大量の水が重力に引っ張られ水面に叩きつけられる震動だ。
滝があるなら川がある、川があるなら村がある…といいな!
まあつまり人がいる可能性が、ある!
うぉぉぉ!早く人間になりたぁぁぁい!
補足するとあの時戦った鹿の強さやカメレオンの力を複雑に考えれば考えるほどMP消費量は増えます。