自分の役割に操られてはいけない
「……申し遅れたね、俺はアンティラ…金剛大将の同僚であり兄弟みたいなものだ」
金剛力士像の兄弟……つまり。
「えーと、阿吽的なあれ?」
「違う……とも言い難いな、そう言った認知も存在している……ごく僅かだがね」
まあ例によってハリガネさんの知識には無い雑学的なあれだろうね。
……意外と馬鹿になんねえんだよな…神話とかの知識…もっと勉強しとけば良かった。
「さて……口下手で断るのが苦手な金剛大将の代わりに俺が話すが、お師匠様は少なくとも君達に協力しない」
「そ、そこをなんとかお願いしたいんす…」
「より的確に言うなれば……不可能なのですよ【調和神】殿」
「お師匠様はこの国にはとうに見切りを付けているし……何より今はそんなことやっていられる精神状態じゃない」
「精神状態……鬱病か何かなの?」
「鬱病か……言い得て妙ではあるが間違っちゃいない」
神様って鬱になるんだ……シャルヴ攻略は精神攻撃も考えないとな……いや駄目か。
「人々の健康を護るのが役目、使命、それだけが存在していられる理由……お師匠様はいつだって神や信仰のあり方に悩んでいらっしゃった」
「う……それは……」
「俺等にはわからんさ、所詮はお師匠様が作った人形に過ぎない……ただ、思う所はある」
「何で……お師匠様みたいな素晴らしい御方が…お前ら人間みたいなゴミ救わなくちゃならないんだ?」
おおう…まあこの場に人間はいないけども……
「中々言うね……まあ確かに醜い部分もあるけど…」
「そう言うところだぞ、確かに醜い部分はある、全員が生まれながらに悪人じゃない、悪人にだっていい所はある……」
「全部言い訳でしかないだろ」
「醜い部分があるけど……あるけど何だって言うんだ?それこそが人間だから見逃せとでも言うのか?」
「人を救うだけが僕らじゃないっす……導いてこそ」
「だから導いてやろうとしたんだろう、正しき者に加護を、魂美しき者に祝福を……そうしたら今度は差別だ何だと……」
「いいか、ヴァジュラは絶対に言わないだろうしお師匠様とて思ったとしても口には出さない、故に俺が言う……人間に、助けてやる価値など無い」
「滅べばいいのだ、こんな国など」
…………
「アンティラさんは随分人間を毛嫌いしてるんだね、お師匠さんの影響かい?」
「いいや、お師匠様は関係無い…むしろどこまでもお優しい御方だからこの事を聞いたらすぐにでも飛んで帰ってしまうだろう……」
「そんな優しい御方を……神を軽んじているんだよ、人間は」
「病が怖い、どんな病気でも治せる薬が欲しい……戦が怖い、身を守れるような肉体になれる薬が欲しい……老いが怖い、死が怖い」
「……そんな無理難題を解決出来る存在だろう?祈ってやるから早くやれ、人間の持つ神への思いなんてそんなものだ」
「与えれば与えただけ際限なく増長し、己達の発展を妨げる……まあ、それが出来てしまう御方だから随分と悩んだんだろうがな」
不老不死の妙薬……話聞く限りだと本当にお師匠様とやらはとんでもない存在っぽいね…ここにあったお薬がまるで凄く感じなくなりそうだ。
「でもなら……何でバイシャジヤグルさんは人を捨てたんすか…?」
「……捨てた訳では無い、こんな状態になってもまだ人を思っていますよお師匠様は……ただこの国に見切りを付けたのだ」
「同じっす……救えるのに救わないなんて!」
「んー……よしわかった、諦めよう」
「ハリガネさん!?」
「仕方ないじゃない、ここまで確固たる意思を持って救わないなら、もう説得はできないさ」
「そんな…でも」
「要するにだ……君達神様はこの国の人間…なんなら全ての生命体にとっての生活環境を保つシステムだ」
「人間が生き残るために必要な物を渡し続けて来たら自分の意思で生きようとする力が無くなった……普通に考えればわかるかもしれないけど、人を信じる神にそんな事は不可能だった」
「だから、アンティラ大将達だけが気付いてしまったんだろう、お師匠さんが壊れてしまう事に」
「え……それはどういう」
「簡単な話さ、お師匠様は恐らくだけど……この国に伝わっているようには失踪していない」
ああ、こっから話すことは全部推測だから盛大に外してても笑わないでねグラさん。
『憶測も方便も汝の得意分野であろう……どうにかせよ』
「結論から聞こうか……君、君達かな」
「バイシャジヤグルさんが失踪するように仕組んだ張本人は」
「……何を根拠に?」
「根拠はまあ色々あるけど……君達多分元々嘘をつくシステムが存在しないんだろうね、神様が作った神様に近い生命体ならそんなもんだろうけど……」
「正直に過ぎる、言わなくていいことまでベラベラ喋ってくれちゃうんだもん」
「つまりは全部盛大なマッチポンプだろう?人や弟子を疑わないお師匠様の性格を熟知した君達が、このまま与えるだけでは人が弱くなるだけだーとでも言ったのかい?」
「…………驚いた、随分な頭の回転の速さだな」
「神様は人を護るシステム、君達はお師匠様を護るシステム、そして君達は人類がお師匠様を壊すと判断してしまった」
「だから、お師匠様が決してこの国で忘れられないように霊廟を立て、伝説を流行らせ洞窟の奥底にお師匠様が作った薬のほんの一端を隠して試練も与える…神のように」
「そうなりゃ曲がりなりにも霊廟に訪れる人間のある程度の信仰や認知を受け続けられるだろうからね……後はお師匠様達とどこへ何なりと旅行ができる」
「って言う殆ど妄想なんだけど当たってる?」
「…………」
「沈黙は肯定と判断するよ……本当に嘘つけないみたいだね」
「…………気持ち悪いな君、普段からそんなに色々考えて生きてるのか?」
嘘つけない人ってこんな堂々とディスってくるの?ちょっと泣くぞ?
「ま、まあともかく……そこまでしてお師匠さんをこの国から離したなら、ハリガネさんは少なくとも無理強いできない、神を救うって言うならそれこそお師匠様も救うべきだからね」
て言うか無理やりにでも従わせられる程の戦力も無いしね、本体じゃないヴァジュラ1人に結構苦戦してんだぞこっちは。
「……だからまあ、仕方ないしいいよ…て言うかダメで元々だもん」
まず誘って来れるような位置にいるなら何やかしらのアクションは取ってそうなものだからね、それが無いならとんでもなく遠い所にいるとかだろうさ。
「……でもヴァジュラにはその内会いたいし、今回の騒動が収まったら顔出しに行くよ、どこら辺にいるの?」
「……悪いな、俺はまだ君を信用出来ない、知りたいならヴァジュラに聞け」
不信感持たれちゃった……そらそうなるわな。
『最初から引き入れる気など無かったのだろう?』
まあね、脈がありそうなら呼ぶつもりだったけどヴァジュラが困ってた時点で半分諦めは付いてたさ。
「…………すまん…アンティラが勝手なことをした……」
「いいんだよ、それじゃあ私達は薬だけ貰って帰るから……」
「……すまん……」
「…またねヴァジュラ、お互い旅の者だしその内会うこともあるだろうし…その時はまた話そうや」
「ああ……必ず」
物言わぬ石像に戻ったね……うーんしかしジリ貧なのは結局変わらずか……
「神って……何なんすかね…僕も逃げられたら……」
「仕方ない、うじうじしてないで薬回収したらさっさと帰ってシャルヴを回復させるよ…帰りは急ぐからできるだけ体小さくして抱えられててね」
「何でそんな急いでるんすか……人がちょっと凹んでるってのに」
「いやこの後タコ来るから、ドデカイ奴が」
ほうら天井からうにょうにょと触手が。
「タコー!?わ、忘れてたっす!!」
戦っても負ける気はしないんだけどさ、あんなでかいヤツとこんな狭いとこで戦って潰されたら私はともかくクリシュナさんは1回死にそうだからね。
「ほらダッシュダッシュ、薬は御堂の中だよ」
「僕すか!?この触手を潜って行けと!?」
「タコの攻撃を押さえつける役をやりたいなら代わるけど…」
「全速力で行ってくるっす!!」
現金なやつめ……いやてか足遅……運動出来ない子の典型みたいな動き方だなしかし。
……神も人も、役割が違うだけで似たようなもんだと思うんだけどねぇ…難しいね、グラさん。
『……どちらでも無いからこそ、我等もそうであろうな』
難しいことはわかんないんだけどさ。
更新わっしょーい。
Q.ヴァジュラは男?
A.どっちにでもなれると思うよ。
Q.糸目お姉さんキャラが欲しいです。
A.私も欲しい。




