出会い直しのやり直し
「あれが新天地かー!」
「はしゃいで海に落ちないでくださいよミリア……儂の甲冑じゃ助けに行ってもトドメにしかなりませんからね」
沈むんだろうなぁ…………
あれ…………これ前見たな。
「ブレ子、このくだり前やってるよ」
「何を言ってるんですか父さ……いえ確かに、ミリアも覚えていますか?」
「うん……て言うか……何これ……シャル…ヴ?」
何だこれ…あの国での記憶……?グラさんは?
『………あ…ぅ……』
グラさん?寝ぼけてんの?
『……黙れ、ただでさえ意識が曖昧だったのだ……また性懲りも無く貴様は身を犠牲にしおって……』
……何か久々に話した気がするね、涙出そう……え、私何か犠牲にした?マジで?知らぬ間に大事なところが欠けちゃってる?
「あーあ混乱してるっすね、案の定……まあ無理やり君達の記憶をうちの国に到達する直前にアップデートしたんで……ちょっとしたら落ち着くっすよ」
何だこの子、いつから船に……不思議と敵対心は湧かないけど、見た目のせいかな?おっとりしてる……て言うかぽっちゃりしてる。
「………誰だ君は」
「もうその話はいいっつーの!放っときゃ思い出すっすよもう……それより大変なのは娘さんす」
……ブレ子が?
「あ……あぁ……シャル……やめ………」
「ブレさん…?どうしたの…?」
「うーん……やっぱ死ぬ寸前の記憶も戻っちゃうとこうなるっすよね……ほら落ち着いて息をして、偏りはいけない」
青い光……何だ?
「調和っすよ、乱れず、落ち着き、澄み切った……丁度真ん中で止まった天秤のように、まっさらな気持ちが大切なんす……君は死んだ、だが今は生きてます……ほら、もう大丈夫」
「……かたじけない……というか貴方は…?」
「『調和神 クリシュナ』……会ったことは無いが、随分記録にある姿と違うね?」
「あれレプンカムイ、珍しく静かだったと思ったら『拡張解析』でもしてたの?」
「厳密には違うがね、いやあしかし……まさか僕も死んじゃったとは思わなかったね、仲間を助けてくれてありがとうね調和神」
「クリシュナでいいっすよ……沖の神」
「妙な空気を出すんじゃないよ神様連中は、そう言う重要なところ話さないで勿体ぶるから事件が起こるんだぞまったく……全部思い出したわ、成程こうなるんだね」
身体が粉々になる感覚まで思い出した気がするけどね、まあそんな経験も1度や2度じゃない。
『1度もなるなそんなもの……』
『よし……代われ、我が話す』
はいはいどうぞ、皆とも久々だろうしね。
「……ふむ、確かに何やら久しく感じるな…この身体で動くというのはっ!?」
「……ミリア、急に抱き着くな危ないであろう……いやすまん……な、泣くな……困る…」
先生ー!!グラさんがミリアちゃん泣かせてまーす!!厳罰に処せ。
「何で……ハリガネさんもグラさんもすぐ居なくなっちゃうの……今回も死んじゃうし……」
ああこれ私も怒られてるわ、情状酌量を求める方向にチェンジだ。
「あー…すまんな、うちの者が手間をかけた……グラトニカだ」
「暴食王っすか……転生の際に少しこんがらがっていた部分を勝手ながら整えさせていただいたんすけど……大丈夫でした?」
「ああ、今までよりすこぶる調子が良い、礼を言うぞ」
そんなことしてたの?……有能だなクリシュナさん、ただのツッコミ役かと思ってたのに。
「あのー…聞こえてるんすけど…てかツッコミ役にさせてるのは君でしょうに……」
「……うちの者が迷惑をかけたようだな」
楽しくお喋りしてただけだよ、クリシュナさん反応が楽しいからボケがいがある。
「その分僕の疲労は溜まるんすけどね!?」
「……悪い奴ではないのだ」
何だろう、ハリガネさんに苦労させられる枠が増えた気がする。
「自覚してるならば落ち着きを持ちましょうよ父さん……」
ハリガネさんが落ち着いてしまったら盛り上がりにかけるだろうよ。
「……さて、それじゃあ改めまして説明するっすね……ええと、どこから話すべきか……」
「まずは自己紹介じゃないかね?僕達は君を知らないのだからね…厳密に何が起きたのかもね」
「あー……うす、じゃあまず君達は『輪廻転生』についてはご存知っすか?」
ざっくりとだけね、あんまり理解してないけど。
「……まあハッキリ言えばやり直しのためのスキルっす」
「そもそもあの国には信仰に基づくシステムから、善行を積み、徳を積むことで回り続ける人間の生というものから脱出する…そういった物があるんす」
天国と現世と地獄的なね、それはギリギリ…いや悟りの道とかそういう話もあるのかな?
「概ねハリガネさんの考え方でいいっす、詳しいことは説明しても理解できない筈なんで……そんでまあ、色々あってそのシステムの大元がぶっ壊れまして」
色々て。
「端折ったね〜…」
「この後もイベントが控えてるんすから時間があんまし無いんすよ……そんでまあそのその大元ってのが…僕っす」
「……生きてるでは無いか」
「いやまあ生きてるっすよ、ただ殆ど死んでると言いますか……」
「僕実は『調和神』を構成する成分のほんの1部なんすよね、後はデカイ亀とか別の男神だったりするっす」
みんな合わせて1人の称号…的な?
「と言うかバックアップっすね、本体が死んだ後にそこの崩れた調和を正すための僕と、この国の調和が崩れ過ぎて外にまでご迷惑がかかりそうな時に周囲丸ごとやり直させる亀の2人で今はやってるっす」
でっかい亀……レプンカムイと気が合うかもね?同じ水生生物として。
「海亀ならそうかもしれないがね、何なら僕的に海亀は捕食対象なのだけどね」
「食える物ならばって言っとくっすね……」
んで、その亀さんはどの辺にいるの?
「ああ、あの国の地面深くに埋まってるっすよ」
ああ、インドの地球支える亀的なね……ん?この話前も見たぞ。
亀……あく……アクパーラ?
アクパーラってなんだっけ?
「え、アクパーラさんを知ってるんすか?」
いや、朧気だけど名前がぼんやりと……なんだっけ。
……あ!蛸剣の材料に使った奴だ!!
てかやり直したらあんだけ苦労した蛸剣も作り直しじゃん!!最悪だよちくしょう!
「……ブレさんが腰に下げてるそれは……違うの?」
「おお…?確かにこれは……」
「直前まで身に付けてた装備品は一緒に連れてきたっすけど……何かまずかったっすか?」
ちょっと代わるねグラさん。
「おい蛸、ポリプシオンのおっさん?生きてんなら返事しなよ」
……………
あれ……狸寝入り?死んだ?
「ああ、例の長老種が死ぬイベントはまだ随分先なんで、今は洞窟で混乱してると思うっすよ」
「成程、生き返ってんのか……まあ同じ座標に転送されてきても困るわな」
「彼のポイントもそれなりにあったので記憶は引き継げてると思うっすよ、まあだからといって手を貸してくれるとは限りませんけど」
「えっと……それでアクパーラっすよね、彼はいわゆる……僕の前任者…的な?」
「正直ちょっと曖昧な部分はあるんすけど、現在の亀はクールマって名前でやってるっす……構造的には一番下に今の亀がいて、その上に前任者……まあアクパーラ、そして地面があって、我々が居るって感じっすね」
「無駄に壮大なラザニアみたいだね」
島を背負う亀って実際居ても視認しようと思ってできることでもないし実感湧かないもんだな。
「えーと……僕自身は死ぬことは無い……って言うか死ぬんすけど僕、もしくはクールマが死んだ場合は強制的に『輪廻転生』が発動されるっす、でもノーリスクじゃないんで…そろそろこの調和の取れてない輪廻から抜け出したいんすよね」
「それを僕等に手伝えというのかね?他はともかく……他所の神話体系の僕にもかね?」
「……僕が手を着いてお願いすれば力になってくれるって言うなら、喜んで地べたを這うっす…」
「……それ程切羽詰まってるんでしょ、レプンカムイ様は助けるの嫌なの?」
「いやいや、ただ……神相手に取引するんだ、見返りを明確にしないといけないと思ってね」
「っ……それは」
「はい、やめやめ!……ケチ臭いこと言ってんなよレプンカムイ、シャルヴとハヌさん助けるついでなんだからいいだろ別に」
「私馬鹿だから見返りとかわかんないし、そもそも死んでた命なんだから1回くらい協力してやろうや」
「…………ってグラさんが言ってました」
「ハリガネさん……熱ある?」
「何だ、お嬢ちゃんは私がタダ働きなんて絶対にしない鬼畜だとでも思ってるのかい?」
顔面こねたろ、うりゃうりゃ。
「うぶ、やめぶ…うぢゅ………やめろ」
「はい、すみませんでした」
たまにクソ怖いんだよなこの子、ちゃんとグラさんの教えを受けてる気がする。
「そうじゃなくても……ハリガネさんなら取れるかも知れないメリットを取らないはずがないもん……こういうのはブレさんが言うことだから不思議で…」
「……グラさんが戻った、それだけで1回くらい命を賭けてやれる理由にはなるんだよハリガネさんには」
そう、勿論今大手を振って喜べる状況じゃない、それはわかる。
何てったって蛸みたく1度死んだ存在がやり直しによって生き返ってるだけなんだからね……その時がきたらきっとグラさんは……
『貴様ともあろうものが弱気ではないか、そんなに我の居らぬ世界が堪えたと見た』
ああ、二度とごめんだ。
だから私は君をもう一度王にする。
「見返りはいらない、は訂正しよう……グラさんが戻るまで何回でもやり直すつもりだからそれに付き合ってくれればいい、ついでにハヌさんもシャルヴもクリシュナさんも助ければいい」
つまり見返りは無事な仲間達ってわけだね。
「……え、何か僕今めっちゃ惚気られたっすか?」
「……いつものこと、気にしないで」
「父さんはすぐそうやって恥ずかしいことを仰る…」
「よしお前等そこに直れ」
人がカッコつけたらすぐこれだよ。
「ハリガネさん引きこもっちゃおうかな……しばらく」
「いや……あの……もう来ちゃうんで」
おやまあ、随分しっかりした船に随分みすぼらしい少年が乗ってるね……見覚えのあるガキだな。
「うっぶっ…!?」
「ブレさん!?」
「おう吐くなら海に吐けよー」
あーあー…まあ自分の死因だもんな…
「クリシュナさん一緒に来て……この時のシャルヴは死にかけてるから暴れる前にさっさと回収して寝かしちゃおう」
「っす…ハリガネさんは大丈夫なんすか…?」
「うーん…多分一撃で死んでるからあんまり実感無いんだよね、どっちかと言うと皆が死んでた方が辛かったし…」
まあいいさ、恨みっこ無しだよ戦いの場だし。
「よう、さっきぶり…シャルヴ」
「て、てめぇら大人しく…って……え…?」
高速で背後に回り込んで完璧な姿勢の裸絞め、ダメージは少なく意識を刈り取る速さは無類……素晴らしいね。
ああ、首の後ろをトンっとやって気絶させるのはフィクションの中だけだともさ、そもそもグラさんの体でやったら某国民的ヒーローよろしくスコンと音を立てて頭が転がり落ちるだろう、尚新しい顔は無い。
「鮮やかな……でもやっぱちょっと恨みあったんすか?」
「…………ちょっとだけな」
ハリガネさんのだから私は〜のセリフの後あたりからグラさんが喋ってないのは嬉しさと恥ずかしさで硬直しているからです。
皆様ー、世紀末肩パッドでございます。
ちゃんと看護師試験も受かってたし新生活に向けてクッソ忙しい毎日ですわよ。
そんな中でも週1投稿はなるべく続けていきたい所存、ただし日曜が休みの日になることが減る分不定期投稿にはなってしまうと思われる。
そんなんでも頑張って書いていくから待っててね!!それでは!!




