暴食の魔王、進撃
「い、嫌だ……ああ……あああ!!」
うるっさいな……挑んだからには食われる覚悟くらいあるだろうに。
「ブブ!アンタならやれるだろ!!」
「頼むよ!こんなの祭りじゃねえ!」
「あ、あんな化け物が出てくるなんて聞いてねえぞ!?」
「うるせえぞガキ共!!俺だって片腕飛んでんのが見えねえってのか!それに…助けを求めるような奴がこの場に立ってんじゃねえ」
あーむ……うむ、絶品。
「結構…食べタかナ……うん、元気イっぱいイ」
「そらぁ良かったなぁ……クソッタレ」
しかし…まあ、随分とイメチェンしちゃったもんだな私も……勝手にやってグラさん怒らないかしら、スタイルにこだわりとかあったのかも?
両手足を覆うカチカチでそれでいてしなやかな真っ黒い甲殻、それどころか一振すれば人体なんてティッシュみたいに裂けちゃうような天然のナイフ……ていうか恐らくムカデの甲殻だ。
無性にお腹は空くけど、しかしながらさっきよりかは頭の回転は早い気がするよね、顔は……どうなってんだかわかんないし想像したくないけど、多分人間とはかけ離れてるんだろうな。
「……ブブのジい様、私今何二見えるヨ?」
ああくそ喋りづらいなもう。
「……まあ、化け物…とは言わねえよ、この国に住んでるヤツ等なんざ大抵がそんなもんだ…だが人間には見えやしねえな」
「……ソっか」
……本当にごめんねグラさん、頑張ってあの姿になってくれたんだろうけど……でも。
何を捨てても君に会いたいって気持ちは変わらないんだ、だから……
「うン……私、やっぱコのマまここに暴食王を呼ブことニするヨ」
「……そうかぁ、ならお前さん、守りたいものは自分で守れよ」
そうする、ありがとね。
「……何回ぶりくらいだろうな、途中で死ぬのは」
「覚えとけよハリガネさん、次会ったら負けねえからな」
「……うん」
……パキッゴシャ…脳髄に響いてくる咀嚼音も、舌に当たる熱さえも愛おしいくらい美味しい……これが暴食王の味覚だったのかな……それならどんだけでも食べちゃう気持ちもわかる。
未調理の人間肉、それも血抜きすらしてないままで踊り食いにしてもこれだけ美味しいんだ、ちゃんとした食事なんて摂ったらどうなっちゃうんだろうね。
{な……なんと言うことだー!!!}
{突如としてリングに現れた怪物に、我等が英雄【鬼宿老 ブブ】が無惨にも食い殺されてしまったー!!!}
{……おい、これ大丈夫なのか?仕込み…じゃないよね?あ、ちょ……}
{皆の者、国王バスキンである}
{今し方の伝令聞いたであろう、英雄が死んだ、その者を仕留めた者こそ次代の英雄である}
{何を恐れる必要がある、何を戦く必要がある}
{貴様等は、誇り高い戦士であろう}
{酒を欲すならば戦え、次代の名声を欲すならば殺せ、逃げ出したとてこの先があると思うな}
{……以上だ、吸音機を返すぞ}
{…………ど、どうしたお前らー!!聞こえただろう王の声が!!ならば戦え、殺せ!これこそが我等の祭りだと余所者にしらしめてやれー!!!}
……へえ、目的わかんないけど……協力的だな。
今の放送……この父さんの気配…
「ハヌ殿!シャルヴ殿!」
「ブレ公、戻った……アンタ手が!?」
「かすり傷です故問題ありません、それより今の放送……渦中の怪物は父さんかもしれません」
「……ハリガネさんが…ですか?」
「ひえ!?シャルヴ殿!?」
何も無いところから急に現れるとは……影の薄さの極みでございましょうか…
「あ…すみません、【偽蛸剣 ポリプシオン】の力で…」
ほう透明化ですか、強いですね……いいな。
「ともかくさっきの放送で俺達から向こうに人が流れてる…一息つくなら今だよ」
「……ブレ公、腕見せてみな……あー、貫通してるじゃないか」
「乙女の向こう傷です、と言いたいところですが……血が抜けるのが思ったより早いので止血していただけると助かります」
「無茶ばっかすんじゃないよアンタ等親子は……」
存外面倒見が良いですねこの人は…父さんも罪深い。
おや…何名か此方に向かって来ておりますね……今は少し不味いのですが。
「あ、あんな化け物に食われるくらいならてめえ等女子供でも…足しには!」
「くっそ……すまねえが死んでくれ!」
あら情けない……キムンカムイ殿が見てたら尻を8つに割られますよ。
「ぼ、僕がやります……【ポリプシオン】……『蛸足重撃』」
刀身がタコ足に……流石にかっこよくは無いですね、強いですが。
「ありがと……うぐっ!……はぁ……!」
「お、おいどうした…どこか斬られたのかい?」
「少し…頭が痛くて……でも、大丈夫……です」
『大丈夫やあらへんやろ坊、さっきから踏み込みも力みもガッタガタや……悪いこた言わへんから1回座って休んどき、おっちゃん心配なってまうわ』
……どこから発声してるのかはわかりませんがめちゃくちゃ喋るなこの刀、やっぱいりませんね。
「まだやれ……る」
「いえ、少しでも座って休んでいてくださいシャルヴ殿、儂があちらの様子を見てきます故……この場の守りはハヌ殿にお任せいたします」
「ああ、任せな……ほら終わったよ、ただ応急手当だからね…無用な戦闘はなるべく避けな」
ふむ、血は止めたとはいえ流石にそう何度も振れそうにはありませんね。
「承知しておりますよ、儂の体も借り物ですからね…返す手立てが無くとも大切にしたいものです」
存外居心地も良いですしね、壊れられても困る。
「……行ってまいります」
しかし父さんはいったい何になってしまったのだ?
ああ美味い、食べれば食べるほど力も湧いてくる……とはいえそこまで巨大化した感じも無いけどどこにこんな量の食事が詰まっているんだろうね?
「た、助け……」
あむ……うん、まあ気にしなくていいか…暴食王が一々気にすることじゃない。
「父さん!……ですよね?」
おやブレ子だ、姿を見る限り痛手は負ったけど目的は達成しているみたいだね。
「やア、腕はドうしタ?」
「いや父さんこそ何ですかその姿は、半人半虫形態とでも呼びますか?」
「グラさンを呼び戻スためニ無茶してネ、まあ然程問題…………イや駄目ダすぐ離レてろ」
血の匂い、甘い黒蜜みたいに蕩けるような芳醇な、他の奴らじゃ比べ物にならない潤沢な栄養、美味そうだ、美味しそうだ、すぐに口に入れてしまいたい、早く速く迅速く高速く……!
……いやいや……グラさん、お腹すいてるのはわかるけどそれは駄目だよ。
「父さん……?」
娘は食えない……だろ、グラトニカ。
「…………すまんブレ子、長くは持たないから全部言う…グラさんの危機はある程度脱した……と思う、ただまだ起きてないから本能に従って君たちを食い殺しかねない」
「できるだけ端の方で隠れてろ、いざとなったらミリア伝いにレプンカムイに援護を求めて命大事に、以上……ダ」
おっと……うーむ、久々の食事で寝ぼけながらありったけ食い荒らすつもりかな……まあ最悪キツイの1発貰えば正気に戻るとは思うけど……
まあ、久々の解放なんだし……身内以外は好きなだけ食えばいいさ、何か忘れてる気がするけど。
日曜の更新よー!
いやー、今日も今日とてTwitter社からの連絡は無いですな、やってられませんよ。
専門学校も無事卒業したことでガンガン呟きたいこともあるのにちょっと残念な気持ちよね、それはそれとて今回も楽しんで呼んでください!
随時質問などもお待ちしております!