奉行裁き
「美味しい」
口いっぱいに広がる蜂蜜みたいな甘さ、少し硬いけど噛めば噛むほどに味が出てくるし、何より暖かい…まるで懐かしい誰かの手料理みたいに。
美味しい、美味しい……思わず幸せになっちゃう、腹の底から力が湧き上がってくる……
凄い、今までに無い味だ…身体がどんどん次の1口を求めてるみたい……
「あー……やってくれるな、お前さん…長い…長すぎる人生落とされた事は1度や2度じゃきかねえが…腕を食いちぎられたのは初めてだ……それを美味いって言われたこともな」
「化け物退治なんざ若え頃はやったが…」
「って……聞こえちゃいなそうだな、残念だ…お前さんは面白そうな奴だからそうはならないでほしかったぜ」
「ナに言っテんだじいさン……元気いっパいだよ……おぉ…ワたし声どウし…た?」
鏡はどこじゃ……無いわな、手探り…手…手?
……これ……ナンだ?
「イィダァイ!!はぁ…はぁ…どうしたの……もう終わりかい…?」
「…冗談を、まだほんの序ノ口です」
……まずい。
大抵の人間は腕を落とされる痛みなどに慣れちゃいないし時々いる痛みに強い人間とて股から頭頂までを両断されれば動けなくなるものでしょうよ……
何故この豚は斬られながら真っ直ぐ向かって来れるのです!?覚悟を決めていればどうにか耐えられるような代物では無いんだぞ儂の剣技は!!
「はぁ……はぁ……き、君が悪ぃんだよ…」
「君のせいで……僕は新しい道が開けそうなんだ…」
「……こんなところで止めるなよぉ!!」
っ!!!?
気色が悪いのも程がある!
「『八方睨み』!! 」
「イタイ…イタイイタイアァァァ!!!…んん…その調子…♡」
まずいまずいまずい……戦力や武では負けていない筈なのに儂の物理的なダメージが与えられない所に問題が発生してきている…
「でも……そろそろ反撃しちゃおうかな…『溢れ出す霜降り』」
「……視覚情報が最悪でしかないですね…これは」
豚から溢れ出した油…まず油なのかこれは?……いやそれはまあいいですが。
足下が埋まれば恐らく踏み込みが酷く甘くなるでしょうし普通の武器であればあれその物が鎧に……区切られたフィールドで乱戦と言う状況において強過ぎますねこのデブ……
「ふむ……ここは父さんに倣って1度撤退しますかね」
少しばかりしか持ち込めなかったが……吹き飛べ。
「うぉお!?ばくだっ!!?」
退散退散と……いやしかし、依然として儂の不利は消えちゃいないのですがね。
あの物の鎧自体は儂の攻撃を止めることは出来ぬが……刀が触れる距離に近付くこと自体難しくなってきた。
そもそも踏みたくない事を抜いてもあの液体は間違いなく機動力を削いでくる……先程の炸薬の余波がこの程度で済んでいる辺り引火もしてくれそうにありませんしね。
「……格好付けてしまった以上逃げ帰るのもまずいですしね……いやそもそも我が家の者で奴を正面から倒せそうな者がミリアの質量攻撃くらいのものな気もしますが……」
「その首もらったあぁぁぁぁぁ!!?」
「ああもう!落ち着いて考えることもできぬとは!」
剣士なのだから自分が勝てる者とそうでない者くらい見分けなさい!
……うむ、耳が痛い話だ。
兎も角、周りを盾にしつつ今を凌ぐにせよ周り全ては敵であるためにそれもまた難しいとは……ははーん、父さん風に言うなればこれ割りと詰んでるって奴ですね?いややってる場合じゃないんですよ。
「どぉこ行ったんだーい!!僕のご馳走ちゃーん!!」
「うぉぉ!!?『大外連』」
こいつサーチ系のスキルでも持っているのか!?人混みの中でどうしてこうも正確に……
「居たァ…そんないい匂いさせてたら…すぐ見つけちゃうよぉ?」
おぎゃあ…気色が悪い。
どうしよう、儂の妹が見てるんだぞこの試合、一刻も早く殺してしまいたい。
うーむ……すみませぬコノハ殿、御身傷付けぬよう戦う事が儂からできるせめてもの恩返しと今の今まで使わず来ましたが……使いましょう、あれに負けたとあらば恥も恥でございます。
「……『大混夜叉』口上反転」
大混夜叉とは本来三枚目の刀。
刀としては当たらず障らず、触れれば痛みこそあれど実際の傷などふゆのササクレにも劣る。
故に、名役者なのでございます。
「さあ早代わりだ……一幕ばかりの名演技…」
「魅せろ『万両夜叉』!!」
コノハ殿の細くも鍛え上げられた腕を易々と貫き真っ赤な血潮を散らす白刃、美しい事この上無い……ハチャメチャに痛いが。
しかしこれは柄を握る者にしか得られぬ生きた痛み、冷たき刃を血潮で温め、血が通った名演をここに下ろす。
今この瞬間こそが儂とコノハ殿、そしてこの夜叉の最高なのでございます。
「……はぁ…ふんぬ!!」
ずぁあ……引き抜く方が痛い!!けど…
「さてさて夜叉にも随分と色っぽく紅も入りました事で…もう一幕お付き合い願いましょう」
「な!君……それ自分で刺したの?もう…自分でやりたかったのに」
ああ、そうだろう、そうだろうよ。
貴様が力無い者に働いた所業、人の身に余る大罪……御馳走とまで言った獲物が傷付けば動揺の1つでも見せようものだろう。
「あー……ならもっともっと痛いの寄越せよぉ!!もうちょっとで僕…開けそうなんだよぉ!!」
「『黒衣瞬動』……」
「ん…き、消え……っ!?」
「後ろに居りますよ……技を魅せるのはほんの一瞬でございます故、既に斬らせて頂きました」
「これにて、大トリ一刀『浮世哀縁鬼炎の相』」
「この技は、先程までに当てた傷ならぬ痛みに沿って見えぬ刃を浴びせかける……」
「浴びる刃の数が己の罪と知りなさい……これにて、成敗」
……とまあ、既に聞こえてはおりませんね、まああれだけスパスパ斬りましたし、なめろうみたいになってしまいました。
疲れた…腕も痛いですし血も止まりませんね……どの道この腕じゃもうしばらく刀は振れそうにありませんし…1度ハヌ殿達の元まで戻らなければ……
{こ、これはどう言うことだー!!?}
{今大会常連でありながら強豪の『屍商人』、呆気なく敗退だー!!!!}
{それどころか続いて『鬼宿老』までかなりの痛手!!}
{今大会、開幕から時間は経っていないが既に……大大大波乱だー!!!}
……これ父さんですかね、上手くやっているようで重畳……え…?
「この気配が……父さん…?」
日曜日更新よー、本当に質問コーナー畳むことになったのが不便よね、ここに書くこと無くなっちゃったもん。
運営には何回か連絡してるけど向こうにメールが届いてないのかパンクしてるのか対応してないのか偉いことになってるみたい。




