死して目覚めるハリガネムシ
思考が溶け落ちる。
体を構成する絵の一番外側の線が解けて行くようだ。
全てが水に流れて、私が私でなくなっていくような気がする。
薄まって薄まって薄まって、最後にはきっと私だったなんて誰もわからなくなるだろう。
死んだのか、ハリガネムシになる前がどうだったかとか…そもそも死んでハリガネムシになったのかもわからないけど。
まあそうだとしたらこれで二度目の死だね。
死んで畜生道まで落ちたとかなら次はどこなんだろう、できることなら人間になりたいんだけど。
いやぁ無理か…落ちるなら餓鬼とか地獄とかだっけ?覚えてないわ。
仕方ない……いやでもこれどうなってんの?
イメージで言うなら体を溶かされて巨大なガチャポンのケースに収められているような…イメージで言っても何もわかんねえわ。
[アクティブスキル『一回休みLV.3』を使用中]
[一時的に全ステータスが封印されています]
[一時的にパッシブスキルが発生しています]
んふ?
一回休み…一回休み…ああ、あったわ。
いやアクティブって言っておきながら一切触っても反応無いもんだから忘れてた。
え、つまり私死んでないの?
でも確かに体が弾け飛ぶ感覚はあったし体力が0になったのもなんとなくでわかったんだけど。
何か教えてくんないかね、ステータスの妖精さーん?
……駄目みたいです。
あくまでアナウンスだから自分で見つけろってのかい、へっ!
…まあ普通に考えて録音データとかだろうからそれに悪態ついても無意味なのはわかる。
一回休みねぇ…ボードゲームとかじゃターン飛ばす時に言ったりしてたけど。
実は死んでないとか?瀕死状態でどっかその辺にいるとか?
だとしてもカピカピハリガネムシだよなぁ…それはもう梅雨明けのアスファルトにへばりつくミミズの如く。
……うーん、例えるにしても似たような存在だから別に上手くないな、くそぅ。
微睡んでるような感覚だから正直頭が働かない、授業中の昼寝みたいだ。
確かに意識はあるはずなのに全く頭が働かない、ギャグも雑になっていく。
やべ、どのくらい経った?
いかんいかん気を抜くと寝ちゃうな。
ん……おお?
これは…体が、ある。
体が動…かない、けど!
生きてる!生きてるぞ私!
っで、ここどこ?
脈動するやや暖かい質感の肉みたいな壁……ああ、体内か。
即座に体内か、って納得できるようになってしまったら人よりハリガネムシに近い存在になってきている気がするね。
早く人間になりたい、切実に。
でもこれは鹿の?寄生とかできるレベル差でも無さそうだったけど。
ステータス。
種族名 アビス・ゴルディオイデア
LV. 30 HP 620/620 MP 590/590 SP 1200/1200
STR 8 DEX 18 AGI 23
アクティブスキル
『寄生LV.7<LOCK>』『単位生殖LV.4<LOCK>』『拡張解析LV.4<LOCK>』『一回休みLV.3』
パッシブスキル 『気配遮断LV.2<LOCK>』『怒りLV.1<LOCK>』『産卵LV.5<LOCK>』『乾燥耐性LV.4<LOCK>』 『混乱耐性LV.3<LOCK>』『探知LV.1<LOCK>』『審美眼LV.1<LOCK>』『炎耐性LV.1<LOCK>』『破壊衝動LV.1<LOCK>』『恐怖耐性LV.1<LOCK>』
『物理耐性LV.10』『魔法耐性LV.10』『溶解耐性LV.10』『毒耐性LV.10』『炎熱耐性LV.10』『低温耐性LV.10』『衝撃耐性LV.10』『放射線耐性LV.10』『真空耐性LV.10』『振動耐性LV.10』
称号 『殺戮する者』『神落とし』
状態 休眠期
おぉ…申し訳程度にステータスが上がっていやがる。
本当にマイナーチェンジみたいな感じになってるけども…あ、でもスタミナはまあまあ上がったかな。
そしてべらぼうに高い耐性の数々…これムカデでも割り切れないんじゃね?
称号不安だなおい。
神落とし…まああの鹿だろうけど、正直やったの私じゃなくてムカデだからね?
私は神様にノータッチだったよ?
そんでもって休眠期……何か私の知らないハリガネムシの特性か何かあるんだろうか?
まあ、生きてるのがわかったしもうちょっと足掻けるようだね、ハリガネムシはまだ舞える!
ハリガネムシの舞?何かMP持って行かれそうな踊りだな。
さて、そんでここは本当にどこ?
どこのどなた様の体内にいらっしゃるんですの?
全くの勘で言うなら鹿ではない、粉々にされた気がしたから多分普通にあの時の私は死んでる。
じゃあ何で?わかったら苦労しないよ。
昼夜もわからないレベルで窓一つ無いワンルームだぞ、ここがどこで何で生きてるかとかわかるわけがない。
多分名探偵とかでも投げ出すレベルだこんなもの。
ハリガネムシ探偵…寄生して自白させれば逮捕率は良さそうだな、倫理は何処へ?
いやしかし…どうしよっかねここから。
正直凍りついた体が少しずつ解凍されるように、やや動くようにはなってきているんだハリガネボディは。
て言うか一回休みは本当にアクティブスキルか?勝手に発動されたんだけど。
早く解けてくれないと何もできないし絵面が地味だ、一面肉だもの。
……わー、綺麗な腸管ですねー。
窓無し扉無しの閉鎖的な密閉空間ですが、どこか回帰したような安心感のある体内、何と今ならお値段そのままでこの家を動かす権利までついてきちゃう!
別に楽しくないな。
さてと……そんなこんなで身体が徐々に動くようになってきた。
[アクティブスキル『一回休み』解除]
[アクティブスキル『一回休み』の効果によりステータス上昇]
[レベル上限が45に上昇]
[眷族の行動がフリーになりました]
[只今の眷族の数、2]
アナウンス君、君はいつも私に情報と謎をくれるね。
眷族って何……作った覚えが無いんだけど。
ああ、カメレオンとムカデ?それなら一応数はあうけど…いやカメレオン死んだよな。
それにムカデもそういう感じじゃ無かったろ、最後追い出されてるし。
何ならあいつ最後喋ってたよ?
つまり……どういうこと?
ムカデって成長すると喋んの?その内ハリガネムシも喋れるかな?
駄目だ脳内に疑問しかない、3歳児みたいになってしまう。
うーん……と言うかこの一件を経て更にゲームなんじゃないかって疑いが浮かぶな。
所謂このターンはコンテニューによるデスペナルティって奴だね、ネットゲームとかRPG…ロールプレイングゲームなら良くあるシステムだ。
しかしこれゲームだとしたら何ゲー?モンスターをハント?RPG?ローグライク?
結構数あるゲームをやり込んできたけど全くわからない、だってここまでリアルなのはやったことないもん。
まあ……普通に考えてハリガネムシ体験シュミレーションは罰ゲームだろうさ。
そろそろ寄生、いけるか?
[アクティブスキル『寄生LV.7』で生体侵食を行いますか?]
ああ、勿論。
[生体侵食開始。]
何かこの機械音声みたいな声も聞き慣れたものだね、声優変えられないかな。
[生体侵食50%に到達、視点を切り替えます。]
お、カメレオン、ムカデと来て第三の肉体か……
お願いだから走れる奴か戦える奴!
……こ、これが…私?
最近ブクマや評価いただくことが多くて驚いてます、皆様いつもありがとうございます。