忘れられた神達へ
「デタラメってか適当なんだよね、それでいて全然違うと言い切らないほうが向こうに得があるように考えたでまかせさ」
「何だってそんなことを…まさか何かわかったのか?」
「うーん、考察でしかないしこれも当たっているとは思わないほうが良いんだけど、取り敢えずはね……ご飯食べながら話すから皆席にお願い」
「さて、皆いるね……周囲に盗聴とかも無い?」
「儂の索敵範囲には誰も……」
「んー、それっぽいのは無いね、話していいと思うね」
「それじゃあ何から言おうか……ああそうだ王様に会ってきた感想としては……やっぱ神様そのものっぽいわ、かなり強いかも」
「神の気配は薄いけどね?」
「まあ確かに、気配的にはどっちかといえばハヌさんっぽいんだよね」
「オレに…あんまり嬉しい言葉じゃないね」
「あー、説明が難しいな……じゃあまず私が立ててた仮説から話そうか、ブレ子紙と書くものある?」
「タコ墨と筆で良いですか?」
「良いわけねえだろ馬鹿野郎」
生臭すぎて会議にならなくなるよそんなもの。
「……はい、ハリガネさん」
「おお随分上等なペンだね……領主のかい?」
「……貰ったの、餞別にって」
粋なことをするものだ、どうしてるかなー、あいつら……ホームシックだわ既に。
「さて説明するね…まずこの国、外の世界から簡単に入れるし特に何か干渉を避けるようなものも見つかってない」
「だが、一定周期を繰り返している、所謂転生という概念が存在してる」
紙にサラサラと要点を書き示していく、ハリガネさんはいつ文字を書けるようになったんだ…?
………グラさん由来かな、多分。
「まあ世界には不思議がいっぱいだからね、そんなこともあるかも知れない……ただ、この島だけが転生してるとしたら時間とかはこの国の外とどう違うのか、ここがわからない」
「だからまあ王様には取り敢えず国民全体を催眠とかで誤魔化しているって言うふうに理解して見せたんだけど……どうもそんな単純な物じゃなさそうなんだよね」
「多分……って言うかほぼ確実に神様が絡んでいることではあると思う……そこでだ」
「レプンカムイ、君達神様から見て人間とはなんだい?」
「全て…かね?何せ信仰心が無けりゃ姿を保つことも難しいからね」
「そう、実際信仰してくれる一族が絶滅しかけたせいで殆ど存在が消えかけた神様がいた……つまり人は神を信仰することで色んな恩恵を得る、それは同時に神様も信仰されることで力を得ている、ここまでいい?」
「まあそれは何となくわかりますが……いまいちこの場での繋がりが読めませんね」
「さてじゃあ、この国の信仰って今は誰に向いていると思う?」
「…………蛇……いや、酒か」
正解、ハヌさんに加点。
「神様の存在を認めて崇めてくれる存在は今や一滴の酒のために奔走する人形達、とてもじゃないけど純粋とは言えない信仰……そんな物に形作られた神様はいったいどうなるのか」
「……ちゃんとした形になるわけがない」
「そういうこと、ハヌさん神様の名前言える限り言ってみてくれる?」
「ああ?まず…ヴァースキだろ?ナーガラジャ、アナンタ…シェーシャ……あれ…?」
「うん、ハリガネさん別に神話に詳しくはないけど多分それ全部同一人物だよね」
「いや厳密には違うんだと思うよ?ただ物事が曖昧になってるんだ、実際この街で色んな人に神様の存在を仄めかしても皆大して覚えてないだろうし」
「つまりだ、私の立てた仮説の1つ目は、神を思い出せなくなったからこの国から消えてなくなったのではないか、と言うことさ」
「話を戻そうか、転生ってのはいったいどういう現象なのか……私が知ってる宗教だと死んだ人間は生前の罪と善行の重さから罰を受け続ける地獄、良いことしてきたなら酒池肉林の天国ってね……」
「そんでどっちに行くにも中途半端な人間はもう一回生まれ変わる……そう転生さ」
あってるよね?厳密なのはわからんぞ?
「今のこの国に当てはめるなら地獄が非人、天国が街の人達、なら転生先の中で人間をやり直すのはどれだ?」
「……神…か?」
「そう、私が立てた仮説の2つ目はそこに行き着くのさ」
「最初がどうだったかはわからない、しかしほぼ確実にこの国の神様の多くは転生に巻き込まれて人間になってしまっている、ある時を境に歪んでしまった、転生というシステムそのものも元々はきっと管理する神がいたはずなんだ」
「……ですが父さん、そうだとすればおかしな点が多くはありませんか?」
そう、矛盾点は沢山あるんだ。
実際蛇…王様が祭りを開催する理由がよくわからないってのは解決してないし真の王が戻るという話もそれじゃ矛盾してきちゃうからね。
あと神を忘れたから転生が歪んだのか、転生が歪んだから神を忘れたのかって部分も卵が先か〜みたいな話になっちゃう、ガバガバ理論なのよ。
「だからあくまで仮説なのさ、わからないことも多いしね……ただ、王様が私の的はずれな理解を肯定した、それはつまり真実には行き着いてほしくないんだよ王様は」
となるとネックになるのは恐らく神であるハヌさんか……
「……うん…よし、ハヌさん…君今回の祭不参加にしないかい?」
「……おい、それは冗談かい?」
「冗談なもんかよ……元神だった可能性のある君が祭でどうなるかわかんない、なら最初から参加せず遠巻きに眺めてて貰うほうがいいと思ったんだ」
「それでオレは次からは非人として生きろってのかい?」
「いやそういうわけじゃないよ……」
「じゃあなんだってんのさ、何だって…アタシをもう一度あんな目に合わせようとするんだ……それもアタシが神憑きだからか…?」
泣いちゃった……うーん、参ったね…そりゃまあ起きたら自分の記憶が曖昧に失われて、それがこの国じゃそのまんま本人の価値になりかねないのに、失った経験がある。
そりゃ怖いだろうけど……うーんどうしたものか。
いや実際祭の中で神が帰ってくるならハヌさんを離して置くのは良い案だとは思うけど…発動条件が祭の参加であるとは限らないんだよな。
正直蛇王とやるならハヌさんは必要になるし、神様になった場合どうなるかが未知数すぎる、下手すりゃ襲い掛かってきかねないからね。
それもまあ本当に最悪の場合なら参加させなければレプンカムイに任せることもできるだろうし、しかしさてどうやって言いくるめるか………
…………いいや、やめた。
「……いや、やっぱ参加していいや、ハヌさんは私が護ろう」
「ごめん、今私ハヌさんを言いくるめようとしてた……でも違うよね」
「君が例え危険でも参加したいなら、それを止めるんじゃなくて支えてやるのが仲間だもん、だから君は私が護るよ」
やめたやめた、打算とかこうしたら有利とか、私の得意分野だけどさ…それを家族の問題に出しちゃいかんよね……心まで寄生虫にはなりたくないもん。
てか危ねえ、仲間にまでそんな風に扱い始めたらいよいよただのカスですよハリガネさんも。
「一蓮托生だもんね、ちゃんと皆で生き残れる方法を考えるよ」
「いや…わかってくれたならいいんだが…」
「ふむ……まあハヌ殿に何か起きても父さんやグラトニカ殿が微笑みかけてやれば戻るのではないですか?」
「オレはそんなにチョロくないが!?」
「……ねえ、それで思い出したんだけど……グラさん、全然話してなくない?」
「いやー……まだ怒ってるのかずーっと嫉妬心やらで心が滅茶苦茶だよ、読めないし会話してくれないから参っちゃう…いい加減許して欲しい」
もうね、シンプルにグラさんと会話がしたい…『死がふたりを分かつまで』は発動してない筈だけど寂しさが末期なのよ。
「……こっち向いて、もっと深層まで見てみるから」
「お……深層までの見方ってそれであってるの?物理的に胸に顔埋めれば見えちゃうものなの?」
「……黙って」
「…………っ!!?」
「ミリア!」
何だ急に飛び退いて、ブレ子がキャッチしなきゃ壁に後頭部叩きつけてたぞ。
「ナイスキャッチブレ子……どうしたお嬢ちゃん、何かヤバイ事言ってた?」
「ハリガネさん…………そ…それ……誰…?」
……へ?
やあ、一日遅れ更新パッドさんだよ。
今年ももう暮れですね、ハリガネムシも2周年を越えまして、これも皆様の応援のおかげでございます。
もうちょいで総合1000ポイントということで年明けまで気を抜かず頑張りますので応援よろしくお願いします!




