第5話 覚醒しました
「痛い、痛いよおおお!!!」
まさか俺がバレンを、傷つけるとは思わなかったのか、木こりたちは呆気にとられた様子でそれを眺めている。
「フラッシュ!」
俺はその間に光魔法を唱えた。斧の先端から眩い光が放たれる。
「な、なんだ眩しい!?」
木こりたちが眩しい光によって目をやられている隙に、俺は木こりギルドから逃げだした。
◆❖◇◇❖◆
「あの野郎どこ行きやがった!」
「さっきまでこの辺りにいたはずだ! もっとよく捜せ!」
俺が隠れている草むらのそばを村人たちが駆けていった。あれから6時間ほど経過しただろうか。状況を把握した木こりたちは他の村人たちと協力して俺を追いたてた。
身体強化魔法を付与された村人たちには何度も捕まりそうになりかけたが、その度にファイアーボールやフラッシュを使うことで乗り切った。
しかし、このままだと捕まってしまうのも時間の問題だろう。
「キャウーン!」
遠くから犬の遠吠えが聴こえてくる。村の猟師たちが連れているのだ。嗅覚の鋭い彼らなら俺の居場所をいとも簡単に突き止めてしまうはず。
「ぐうぅ」
おまけに背中からの出血も止まらない。背中に何本もの矢が刺さっているからだ。段々と意識も遠のいていく。
「俺、死ぬのかな……」
そう呟いた刹那――突然ミスリルの斧が光り輝きだす。輝きはどんどん大きくなり、やがて俺の全身を呑み込む。
すると背中に突き刺さっていた矢が全て外れ、身体中の傷が癒える。
「なぁっ! これはいったい……」
ミスリルの斧は未だに光を放っており、更には斧から自分の身体に魔力が流れるのを感じた。
「そこにいるのか!」
「もう逃がさねぇ」
イワンとヨーゼフがやってきて、俺を草むらから引きずりだす。それを見た他の村人たちも続々と集まってくる。
「このクソ野郎! 殴り殺してやる!」
腕を切り落とされたバレンもやって来た。しかし、俺は全く動じない。むしろ落ち着いていた。なぜなら、体内に大量の魔力を宿しているからである。
俺はミスリルの斧を取り上げようとしたイワンの下顎を殴りつける。それだけでイワンは吹き飛んだ。
「貴様ァ!」
ヨーゼフが怒りに任せて斧を上段から振りかぶってくるも、ミスリルの斧に魔力をまとわせて対応する。ヨーゼフの斧は俺の斧に触れると同時に砕け散り、俺は斧を上に振り上げてヨーゼフの頭を真っ二つにした。
「なっ なんなんだお前は」
バレンを見ると、彼は先ほどの威勢をすっかりなくし顔を青ざめさせていた。他の村人たちもこちらに武器を向けているものの、身体を震わせたり冷汗を流したりしていた。
弱っていると考えて油断していた相手にいきなり2人も味方を殺されたのだから当然だろう。
一方で俺は高揚感を感じていた。ここにいる人間を全員なぶり殺したくてたまらない。
こいつらを全員殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
俺はまず、バレンにゆっくりと近づいていく。3人の村人が彼を守ろうとして俺に襲いかかってくる。
1人目は右手で短刀を横なぎに振りかぶってきたが、リーチが短いため俺は斧で右手を切断、その後に下から斧でそいつの腹を切り裂く。
残りの2人は左右から槍で突いてきたため、俺は身体強化魔法を発動、上空に飛び上がってかわす。
地面に舞い降り、斧を両手で水平に持つ。
「サンダーボルト!」
魔法を詠唱し、斧の刃先と持ち手の先端の2箇所から魔法の稲妻を生成する。高圧の電流によって2人の村人は焼け焦げた。
「こいつさっきまで死にかけだったはずだろ!? どうしてこんなに強いんだ! しかも能無しのくせに魔法まで撃ってきやがる!」
「なんでかは分からねぇ。でも逃げるぞ!」
他の村人たちは仲間が惨殺されたのを見て逃げだしていった。
俺は再びバレンへと近づいていく。
「ヒイイイイ! やめろ、こっちに来るなぁ!」
バレンはあまりの恐怖に腰が抜けてしまったのか、尻もちを着いたまま起き上がれない。足元には小さな水たまりができていた。
俺は無言で斧を振り下ろす。バレンの頭はスイカのように弾け、周囲に脳漿が飛び散った。
バレンの亡骸を放置して他の村人を追いかけていく。それから俺は一方的に村人たちを殺めていった。
◆❖◇◇❖◆
「マリアさん急いで! 早くしないとあいつが来てしまいますよ!」
「分かっているわ! 急かさないでよ!」
キイイイとなにか金属のような重いものを引きずる音が遠くから聞こえる。マリアとシャルロットは村から脱出しようとしていた。
彼女達2人は夕食を食べながら談笑していたが、村が騒がしくなったのを感じて家を飛びだした。するとそこではあの能無しがダインとその取り巻きたちを斧で切り裂いていた。
2人はそれを見て助けを求めたが、もはや彼を止められる人間は残っていなかった。村にいた狩人や木こりなどの屈強な男たちは既に殺されていたからだ。ある者は斧で切り裂かれ、またある者は魔法で黒焦げにされたりしていた。
それを見てマリアとシャルロットは村をでることを決意し、カバンに硬貨などの財産を詰め込むと村の入り口に向かったのだ。
入り口に着いた2人は驚く。
「何よこれ」
村の入り口はなぜか真っ白な霧に覆われている。村の門からだいたい100歩くらい歩いた距離に、村をぐるりと覆うようにして霧がかかっている。
「少し奇妙ですけど、このままだと能無しに殺されてしまいます。行きましょう」
「ええ」
2人ははぐれないように手を繋ぎ、急ぎ足で霧の中へと入っていく。10分ほど歩くと霧が段々と晴れてきた。
「やっとでれたわ!」
マリアが安堵したのもつかの間、霧を抜けた先は村の入り口だった。
「ど、どうして……」
シャルロットが目を大きくさせて困惑する。一方で、レイモンドは下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりと地面に斧を引きずりつつ近づいてきていた。その距離はわずか10メートルほどしかない。
「ヒャア! お、驚かさないで下さいよ!」
マリアがシャルロットの右腕を掴んで霧の中へと戻ろうとしたため、シャルロットは思わず叫んでしまう。
「霧が深くて村に戻って来てしまったのだわ。早く逃げるわよ!」
シャルロットは彼女より早く正気を取り戻したマリアと共に再び村をあとにした。しかし――。
「な、なんでよ!」
真っ直ぐに突き進んだにも関わらず、目の前に現れたのは村の門とレイモンドだった。彼は離れた距離から斧を横なぎに払う。
「えっ?」
マリアとシャルロットの首が吹き飛ぶ。彼らが最期に見たのは、彼ら自身の首のない胴体だった。