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第4話 怒りました

「ごめんなさい。説明をまだしていませんでしたね。深紅のものがオリハルコン製です。オリハルコン製だけあって、この世にある殆ど全ての木々をまるでバターのように切り裂けます」


水の精霊は一息ついてから話を続ける。


「一方、銀色に光輝くミスリルの斧はオリハルコン製に比べ、切れ味は劣ります。しかし、ミスリルというのは魔法伝導力が非常に高いので少ない魔力で魔法の行使が可能です。刻まれている魔法文字も術士の消費魔力を抑えるものとなっていますから、通常の10分の1の魔力で魔法が使えるようになるでしょう」


「なっ!? 少ない魔力で魔法が使えるようになるってのは本当なのか!」


保有魔力の少なさによって翻弄されてきた人生だったため、レイモンドは魔法が使えないことにコンプレックスを抱いていた。だから消費魔力が少なくて済むというミスリル製の斧は魅力的に感じた。


「はい。見たところあなたも僅かに魔力を保有しているようですから、ミスリル製の斧であれば魔法を使えるようになるかと」


「じゃあ、このミスリルの斧をくれないか」


「もちろんです」


レイモンドは嬉嬉として銀色の斧を受け取り、斧に僅かな魔力を流す。


「ファイアーボール!!!」


呪文を唱えると斧の尖端から炎の玉が飛びだす。炎の玉は真っ直ぐ飛翔すると、近くにあった岩にあたり、破裂音をたてながら爆ぜた。


「ほ、本当に魔法が使えるようになるなんて……」


「ご満足頂けましたか?」


「ああ、ありがとう……いえ、ありがとうございます精霊様」


「いいえ〜♪ 気にしなくても大丈夫ですよ。これくらいしかやることありませんし」


水の精霊に頭を下げ、中断していた仕事に戻る。精霊は再び泉の中へと潜っていった。


そんなこんなで、カンカンと照りつけていた日差しもすっかり弱まり、周囲をオレンジ色の光が支配する時間になった。


今日伐採した木々が荷車の上に山のように積まれている。いつもならこの半分程度にしかならないが、今はミスリル製の斧のおかげで簡単に木々を切り倒すことができた。


「〜♪ 〜♪」


レイモンドは鼻歌を歌いながら上機嫌で山をおりてゆく。そんなレイモンドを遠見の魔術を用い、密かに見つめる影があった。泉の精霊である。


「さて、私はここから動くことができませんし、たまにはこういった余興をしても良いですよねぇ。チートも与えましたし、楽しませてくださいね。レイモンドさん♪」



◆❖◇◇❖◆


「おい、お前その斧はどうしたんだ!」


イワンに怒鳴りつけられる。俺は木こりギルドにて、多くの木こりたちに取り囲まれていた。金の無い能無しの俺が高価な魔法武器を持っていたら怪しむのも当然か。浮かれすぎていたせいでそのことに気がつかなかった。


「これは貰ったんだ」


「貰っただぁ?」


ヨーゼフに睨みつけられる。そんな時だった。


「おやおや、これはいったい何事なのです?」


どこか人を小馬鹿にしたような雰囲気を孕んだ声が木こりギルドに響き渡る。


「おお、バレン殿!」


イワンが猫を被ったような声音で声の主へと話しかける。振り返ると、そこにはブロンドの髪を長く伸ばした若い男が突っ立っていた。


彼は村長の息子バレンである。


「どうしてバレン様がここに?」


「たまたま木こりギルドの前を横切っていたら、何やらギルド内が騒がしかったので様子を見に来たのですよ。何があったのです?」


「聞いてくださいバレン殿。能無しが何故か魔法武器を持っているんです」


「ほう、魔法武器ですか」


バレンはじろりとこちらを見つめる。その視線は当然ミスリルの斧へと注がれた。


「レイモンドさん、この斧はどうやって手に入れたのです?」


「欲望の泉で精霊から貰った……いえ、貰いました」


「……そうですか」


少しの間バレンは目をつぶり口を開く。


「皆の者、この能無しを捕らえなさい。罪状は窃盗罪です」


木こりたちが一斉に斧の切っ先を向けてくる。


「なっ!? バレン様、俺は別に盗みなんてしてません!」


「はぁ。全く往生際の悪い人ですね。あの泉に精霊など居ませんよ。私の子供の頃は色々な物を泉に沈めたものです。ですが精霊など現れませんでした。どこから盗んで来たのか分かりませんが、その斧は私が預かっておきましょう」


バレンは口元を歪ませる。彼の性格的に、持ち主が現れなければこの斧は自分のものにするつもりだろう。


周りの木こりたちもにやにやと下卑た笑みを浮かべている。


(どうしてこいつらは俺を目の敵にするんだ……)


こいつらはいつも俺がなにかをしただけで突っかかってくる。魔法がろくに使えないという理由だけでだ。


そう考えると、今の状況がとても理不尽に思えて腹が立ってくる。


「さぁ、その斧を寄越したまえ」


バレンはこちらに右手を差し出してくる。俺の身体は怒りで震えた。


「聞こえなかったのかね? その斧を――」


ザシュッという軽快な切断音が辺りに響き渡り、バレンの右腕がぼとりと床に落ちる。


「へっ?」


バレンは素っ頓狂な声を上げ、腕の切り口と床に落ちた右腕を交互に見る。次の瞬間――。


「痛ったああああああ!!! 痛いいだいぃぃぃ!!!」


ギルド中にバレンの悲鳴が轟いた。


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