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第3話 出逢いました

「てりゃ!」


5本目の木を切り倒す。直径50センチはあるであろう大木はゆっくりと地面に横たわった。


周囲の木々を切り倒したため、上空からは太陽の光が燦々(さんさん)と降り注いでくる。


太陽は丁度レイモンドの真上にあった。


(正午だし、お昼にするか)


一旦切り倒すのをやめてリュックの中から昼食を取りだす。


朝買ったパンの残りとリンゴをかじりつつ、森の中にある泉を見る。


透き通った泉の水は太陽の光を反射して鏡のように輝いていた。泉の側には薄汚れた(ほこら)もある。ここの泉は「欲望の泉」と呼ばれている。


名前の由来は昔、狩人であった現村長の先祖がここの泉に弓を落としてしまったとき、泉の精霊が現れる。精霊は落とした弓以上に高性能な弓を村長の子孫に与えた。


高性能な弓を使って次々と強力な魔物や盗賊を滅ぼした村長の家系は繁栄し、代々村長の地位についているという村の伝説があった。


以前は歴代村長達が祠を作って泉を(まつ)っていたのだが、現在は彼らの信仰心もすっかり薄れて祠は長いこと放置されていた。


様々な人々がその後泉に多くの物を落としても泉の精霊が現れなかったのだから無理もないことだ。レイモンドはそう結論付け、昼食を食べ終えると仕事に戻ろうとした。


「あっ」


しかし、立ち上がり歩きだそうとした刹那、腰に提げていた斧を落としてしまう。腰と斧を結んでいた紐が老朽化していたのだ。


斧は落ちどころが悪かったのか、軽く跳ねるようにして坂道を転がり泉に落ちてしまった。


「ちくしょう」


レイモンドは頭の中が真っ白になって途方に暮れる。斧がなければ仕事ができないからだ。


何とかして斧を引き揚げられないかと泉を覗こうとすると、泉の水面にいくつもの渦巻きが立ち始めた。


渦巻きは段々と大きくなり、やがて渦の中から1人の女性が現れた。法衣を身にまとい、氷のように透き通った髪をストレートロングにした彼女は本当に美しい。レイモンドは思わずみとれてしまう。


コバルトブルーの瞳を持った彫りの深い顔で、キメの細かい青白の肌は生気を失っているように見えるものの、それが神秘的な印象を彼女に与えていた。


「あなたは落としたのはこのオリハルコンの斧でしょうか? それともこちらのミスリルの斧でしょうか?」


女性は微笑むと、水中から2つのきらびやかな斧を取りだして自分の周りに浮遊させた。


しばらくの間、レイモンドは呆気に取られていたが、やがて正気に戻ると深呼吸をして気分を落ち着かせる。


「あなたは何者なんだ?」


彼は蚊の鳴くような声で彼女に話しかける。


「私? 私はこの泉の精霊ですよ」


「えっ。もしやあの伝説の」


「私の伝承なんてあるのですか?」


レイモンドは村に伝わる伝承を話した。


「なるほど。いつの間に祠なんてできていたのでずっと不思議だったんですけど、私のために作られたものだったのですね! 嬉しいです!」


鈴のなるような声で精霊は片手を上げて喜ぶ。たわわな胸が揺れて、レイモンドは思わずドキリとしてしまう。


「それで、あなたが落としたのはどちらの斧なのですか?」


「どちらのと言われても……。俺が落としたのは鉄製の斧だ。オリハルコンでも、ミスリル製のものでもない」


「うふふふふ♪」


「どうかしたか?」


「いえ、あなたは正直者ですね。なのでこの2つのどちらか好きな斧をどうぞ」


「? なぜ正直者だからという理由で俺にそんな上物を渡そうとしてくれるんだ?」


「あなたが不審に思うのも最もですね。ですがあまり難しく考える必要はありませんよ。ほら、私は水の精霊じゃないですか。だから水の女神の眷属(けんぞく)なのです」


「そう言えば、水の女神は正直者が好むだったか」


この国で信仰されている水の女神の逸話として、詐欺師に騙されたことにより正直者を好み、嘘つきを嫌うというものがあったはずだ。当然、女神様の被造物である泉の精霊も女神と同じような性格をしていると言われている。


「ですです〜♪ 身も蓋もないことを言えば、私が水の女神の眷属である以上、女神の信者を増やさないといけないのです。それに、私はこの泉からでられないので、やることが道具の製作くらいしかないのですよ〜♪」


ふむ。ということは2つの斧も精霊が作ったのか。結局レイモンドは精霊から斧を貰うことにした。こんな機会はもう二度と訪れないだろうからだ。


精霊の持っている2つの斧を見比べる。ひとつは真紅でシンプルなデザインの斧である。もうひとつは磨いた銀のような輝きを放ち、刃や柄の部分には魔法(ルーン)文字が刻まれていた。


「このふたつはデザイン以外にどんな違いがあるんだ? オリハルコンとかミスリルだとか言われてもよく分からん」

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