瓢箪
伊賀海栗さんからいただいたお題「瓢箪」を元に、
よっぱらいながら1時間で書くという修行を師匠のつこさん。様とそれぞれ書いたものです。
https://ncode.syosetu.com/n2252gj/4/
もご覧ください。
ふとした事で、俺は紫金紅葫蘆を手に入れた。呼びかけた者が返事をすると相手を中に吸い込む事が出来る魔法の瓢箪だ。
だがこいつ、思いの外使い勝手が悪い。まず第一に、相手に呼びかけて返事をしてもらわないといけない、という点でハードルが高過ぎる。相手が返事してくれる事なんて、仕事の部下くらいだ。一度渋谷のスクランブル交差点で「すずきー!」と叫んでみたが、誰一人返事をしてくれず、空の瓢箪がカラカラ鳴るだけだった。笑ってんのか。
二つ目に、偽名の相手に使う場合には、名乗ってもらわないと使えない、というのも中々に大変だ。ネットのオフ会位でしか使い道がないんだが。
「あ、どうも、よしあきです」
「よしあきさん! 伊賀海栗です。リアルでは初めまして!」
とかやんない限り使えないじゃん。シチュエーションがレアすぎる。
とにかく先ずは使い道だ。海栗さんを吸い込んだところで仕方がない。使い道を決めた上で改良しないと。
うーん、使い道ねぇ。全く思い浮かばない。そもそもこのネット社会で直接会うって事自体が時代遅れなんだよなぁ。使い方を考える前にネット対応だけでもしておくか。
トンテンカントンテンカン。できた! チャーチャチャーチャ、チャチャチャチャーン!
オンライン紫金紅葫蘆!
ネットの向こうに人がいた場合、相手が返事をすればネット回線経由で相手を吸い込む事ができるように改良したぞ。トラフィックがどうなってるのかわからないけど、ネットの向こうの人が目の前にある瓢箪に閉じ込められる。
これは応用先がいくつも浮かぶ! 1番簡単な使い方は、上司の小言を聞くだけのオンラインミーティングで、最初は上司の話が聞こえない振りをして、
「大和田課長いらっしゃいますかー」
とか聞いてしまえば、確実に
「いるよ」
って返事するだろうから、楽勝で条件達成だ。
「あれ、課長落ちちゃいましたかね? まあ始めときましょうか」
とか言ってMTGが終わった後に戻せばいい。我が家に大和田課長が出現しても困るから、ネット接続先に戻せる機能が重要だな。
◇ ◇ ◇
結局私は仕事を辞めた。上司の小言を回避するためにこれを使うくらいなら辞めてしまった方が早かったからだ。
今は主に政府高官向けのサービスを請け負っている。サービスの内容は、「瞬間移動サービス」である。オンライン対応したことにより、実質的にネット接続先に自由に行き来できるようになったこの瓢箪の付加価値は計り知れない。やはりオンライン対応は重要だと再認識したのだった。
お読みいただきありがとうございました。