表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

耐えた笑いと、耐えられない涙

作者: KEN

笑うのを我慢しなければいけない定番の席上としては


『お葬式』


の場が一番に頭に浮かぶはずですが、僕はそのお葬式の席上で『怒る』のを我慢し


『笑う』


のも我慢をし、お葬式が終わってからどうしても我慢しきれずに


『大泣き』


をした経験があります。



あれは今から20年以上前、結婚をして中古で購入した新居に引っ越したばかりの頃、裏のお宅に住んでいる旦那さんのお葬式に参列したのは・・・


ちょうどジメジメとした季節だったので梅雨の時期だったかな?


裏のお宅の広いお庭には紫陽花がキレイに咲き誇っていたし、玄関先のタイル敷きの土間に、しょっちゅうナメクジが這っているのを見付けては、虫嫌いの嫁の為に塩をかけて退治しまくっていた記憶があるので、間違い無く6月始め頃の出来事だったと思います。



この、我が家の裏のお宅に住んでいる家族とはほとんど面識も無い関係なので、別段に仲良くする必要も無しに、ただ、かなり大きいお庭と、邸宅はいかにも『地元の有力者』って感じで、近所でも口うるさいと評判になりそうな風貌と貫録のある60才ぐらいの奥さん、この奥さんには嫌われないようにする為にも顔を合わすと愛想笑顔での挨拶を忘れないようにしていたけど、お亡くなりになられた当の旦那さんとは全く面識の無い関係、それでも御近所さんの誰かが他界をしたとなればせめてお通夜ぐらいに参列するのが大人の世間付き合いなんですが、お通夜の夜に僕は仕事が遅くなってしまい、嫁も用事があったせいでどっちも顔を出せなかったので、翌日にたまたま仕事が休みだった僕が一人でお葬式に参列する事になりました。


25年前当時、20代中頃の若かった僕は身内のお葬式に参列をした経験が一度あるだけで、正直な話がこのお葬式は二回目の参列となり、他人のお葬式に参列するのは始めての経験なので少し心細さを感じながらも、結婚をしたのを機会に購入した真っ新な礼服に身を包んだ自分の姿を鏡で見ると『しっかりとした一家の主』としての自覚が芽生え・・・


と言ったところで、量販店のセール時に新調した礼服なんで自慢できる代物でも無いんですが、慣れないネクタイに悪戦苦闘をしながらも、足元だけは二十歳の時に成人式用に購入した


『BUTTERON』


の4万円もした自慢の皮靴を履き、お昼前に自宅から徒歩20分ぐらいの斎場へ足を運びました。


斎場の受付に到着すると、慣れないネクタイを締めるのに時間をかけたせいですでに式は始まっている様子、慌ててご香典を渡そうと手を忍ばせた上着の内ポケットは空っぽ・・・


どこかに落としてしまった?


それとも家に忘れてしまった?


と、心配しながらも金額がしれているので「後日に裏のお宅に持って行けばいい」と冷静に判断をし、受付を素通りして斎場に入り、空いてる右側のパイプ椅子に腰かけると、少しだけ顔を知っている御近所さんは何故か左側の椅子にしか座っていない様子・・・


これは後で知ったのですが、お通夜にお葬式に、結婚式等の冠婚葬祭の席上では


『右側=親族席』


『左側=親族以外の参列者』


が常識なんですよね、そんな事も知らずに何食わぬ顔でお経を聞いていると、どこかから携帯電話の着信音がしたので


「誰の携帯やねん?こんな場所ではマナーモードにしとくんが常識やろうが・・・ほんまにマナーを知らん人間やなぁ・・・」


と呆れてたのに、その迷惑な携帯電話の着信音は僕のすぐ近くから聞こえている様子・・・


何か聞き覚えのある着信メロディー・・・


ん?この着メロは?


機種変更ついでに変更した僕の携帯電話の着メロ!


と気付いたので、慌ててポケットをまさぐるも、慣れないスーツで何か所にもあるポケット、周囲から冷たい目線が集まる中でめちゃくちゃ慌てながら何とか電源を切ってその場を凌ぎました。


式も終わりに近付いてご焼香が始まったので、ちゃんとマナーモードに設定できていなかったらしい携帯電話の着信履歴を調べると、何回も自宅の電話からの番号だったので「何の急用や?」と思い同時刻に受信していた嫁からのメールを読むと


『下駄箱の上にご香典を忘れてるよ(-_-;)』


やって・・・



心の中で


「もう遅いんじゃ!式の最中に恥をかいたやねえか!何でこんな時に顔文字やねん!」


って、自分のどんくささを棚に上げて嫁への怒りを抑えるのに苦労したんですわ。


それでも何とか式が終わったので、慣れないお葬式の場で恥をかかないように周りの人の流れに合わせて斎場を出ると、いつの間にやらバスに乗車・・・


気が付けば、別に行かなくても良い火葬場まで行くハメに・・・


親族でも無い僕は当然にも知っている人なんて見当たらず、火葬場に到着してからも一人寂しく話す相手も見付からずに茫然とし、ここまで来ると流石に全くの他人の僕がこんな場所にいるのは不自然と気付きながらも、なかなか集団から離れるチャンスが訪れてくれなくて、お骨上げの場まで同行してしまい、長いお箸で骨を拾っている裏の奥さんの姿を見ると、不謹慎極まりないって思いながらも、いつも裏庭でワンちゃんの排泄物を長い箸を使って処理をしている奥さんの姿を思い出してしまい、笑いを堪えるのに必死で頑張りました。


一応は僕の身内のお葬式で経験した一通りの儀式が住んだ後、図々しくも豪華な夕飯までご馳走になってから再び斎場に到着、簡単にお葬式に顔を出して帰るはずの予定が4時間以上も終始無言の時間を費やして、やっと斎場に帰って来れたんで「やれやれ・・・」って心境です。


それで斎場へ来た時と同じ道を徒歩で帰宅しながら


「いったい俺は何をしてたんや?」


と思うと笑いとも怒りとも解らない感情を抑えるのに苦労しながらも、ふと、お葬式から帰宅する際には


『自宅に入る前に塩でお清めをするのが最後の儀式』


だったと思い出したので、帰り道に近所のコンビニに寄って塩を購入し、玄関の前で足元に


『パラパラ』


と、塩は大量にあったし、ほとんど顔を見た事がなかったとは言え、家族との会話ぐらいは聞いた事のある故人のおっちゃんの声を思い出し、少し怖くなったので念入りに何回も何回も足元に大量の塩をパラパラと撒いていると、思わず子供みたいに声を出して泣くのを我慢できませんでした・・・


だって・・・


だって・・・


だってですよ・・・


4万円も出して購入した『BATTAMON』の革靴が・・・

















見る見るナメクジみたいに溶けてしまったんだもん・゜゜・(≧д≦)・゜゜・。




信じるか信じないかは・・・


あなた次第です・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ