《子魂の花》
この小説は、フィクションです。
なお、中絶や流産のトピックを嫌う方は、読まないでください。
ですが、『中絶は大したことじゃないじゃん!』と軽く思われている方は、この物語を読んでいただきたいです。
意見を変えられる力はないかもしれませんが、少し立ち止まって、中絶される側の思うことを考えながら読んでいただけると、幸いでございます。
とても寒くて、冷えた夏の昼間だった。
なぜ昼がこんなにも寒いと思ったのはわからなかった。
でも、確かにわかったのは、自分は捨てられた「要らない子」なのだということ。
『なんで、今となってこれだけ頭の中で喋れるのだろう。』
そう思った。一番最初に父から暖炉の中へと落とされた時は、憎しみがはっきりとわかった。
母体の中で逃げ回った末に疲れ果てて僕は外の世界へと誘われた。だけど、ぼくの誕生は喜びの雨に降り注がれることはなく、ぼくが自分の容姿がはっきり見えるだけだった。他人は、ぼくを見れることもなく、ぼくは燃やされた。
要らない子だった。
名の有名な家族の初めての子供で、それはそれで喜ばれた。母も、毎日毎日僕がいる腹の中を撫でて優しい声で子守唄を歌っていた。性別もまだはっきりしなかったけど、父は跡取りが欲しかったためか、男を欲しがっていた。
唯一ぼくが反抗できない相手、父の圧力のある期待。
母はどうかというと、どっちでもよかったのだろう。男でも、女でも、「健康」であれば。
残念ながら、僕は幼くして反抗的な子供であったらしい、性別がどんどん判明していくとともに、脳に何か異常があると認定された。母の「性別はどっちでもいい、健康であれば」の願いを性別不明の赤子である間反抗してしまった。だけれど、母はそれでも生むと言ってくれた、愛すると言ってくれた。母体の中で、話を聞いてた僕はとてもとても嬉しかった。
その後の検査を繰り返し、脳の異常の件は重大事になった。将来に人体に影響する脳の異常、病名はまだ僕の体の性別もわからないため、結局あやふや。
母が許しても、父は、それを許さなかった。
ケンカが続く。口論ではない、割と犯罪になりそうな喧嘩。殴り合いに近いのかなと想像した覚えがある。母体が大きく揺らいだから、このままこの場所が潰されるんじゃないかと本能的な恐怖を抱いたのも覚えている。母の手の温もりが、震えで何度も遮断された。
「大丈夫だからね」
泣いている母の声が、僕にはあながち不明な感情だった。感じ取って聞き取ってわかるけど、理解ができなかった。大人になれば、ここを出たら、それを理解できるのではないかと思った。
だけど、僕が「出る」ということは「誕生する」という意味で、別に「無理やり鉗子で引っ張り出して僕を殺して母体から切り離す」という意味ではない。
僕はずっと母を見守ってきた、母も僕の成長を願っていた。願っていなかったら、毎日宝物を守るように撫でたりしないでしょう?優しい声で、僕を抱きしめはしないでしょう?
だけど、父は違う。
正直にいうと、父のことはよく知らなかった。
たまに喋ってくる大人の男という認識だけだった。
目障りな存在になったら誰であろうと、何であろうと、自分の地位と名誉のために消す男なんだろうなと思っていた。
でも実際、その思ったことが本当だったとは、見当もつかなかった。というよりも、知りたくもなかった。母も、強い女性だと思っていたけれど、本当は弱い女だった。何日かで母は自分の意見を曲げ、父と渋々賛同した。
僕の処分が決まった。
どこかの病院で、僕は急に追われ始めた。何か怖いものに。
冷徹な何か。バケモノ。おばけなのかな?でも、お化けの割にはとてもリアルだった。
足を切られて持って行かれた。
手も、持って行かれた。
ちょっとぼやけていた自分の容姿が、現実世界ではっきりした。
肉体と魂が切り離されたのだろう。
僕は死んだ。
幽霊になった。
無料版はここまでとなっております
この物語はフィクションです。
私は元々『中絶』や『流産』の悲しみを体験したことのない未成年の学生ですので、誰もが干渉できるよう、主人公の親をなるべくクズに仕立て上げました。
なお、個人個人で感じることは違うため、もしこの小説の内容がお気にさわるようでしたら、申し訳ございません。
ですが、この小説が『中絶』を大したことじゃないと思う人達の意見を変えれるのならば、本当に良かったです。
読んでいただき、ありがとうございました。