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異世界転移してきた勇者にパーティーを追放されたのでシェフになります 作者:名無し@無名
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アンナ・フェリル-2

「初めまして、こんにちは。よかったら座らない?少しお話でもしましょう?」

「え……っと、は、い」

「立ちっぱなしも疲れるでしょう?ほら」

「……あ、うん」


 促されて対面のソファーに腰掛ける。ふかふかの感触に包まれて、私の身体は思ったよりも沈んでしまった。少し驚いて、「あッ」と声が出てしまったけど、女の人はそれを見て更に笑みをこぼした。


「私はアンナ。アンナ・フェリルって言うの。貴女は?」

「わ、私は……如月、莉緒」

「キサラギ・リオ……変わった名前だね」

「みんな、は、莉緒って……呼んでくれる」

「じゃあ私もそうするね。よろしく莉緒ちゃん」

「う、ん。よろしく……アンナ、さん」

「アンナでいいよ。それより、貴女はどうしてここに?」

「私は……えっと」


 無理矢理連れてこられた。

 正直に言えばそうなるけれど、私は少し言葉に詰まった。しかし、さっきのノルヴァさんとアンナのお兄さんのやり取りを見る限り、恐らく境遇は同じだろうか?なら、そのまま答える事にしよう。


「オルクス……えっと、私と同じ、ギルドの……料理人がいるんだけど、その人が、この国の騎士さんに……無理矢理」

「そっか、やっぱり私達と同じなんだね」

「アンナの、お兄さんも……料理人?」

「うん、私と兄さんは街を転々としながら露店で料理を提供しているの。私は料理はてんで駄目だから配膳だけどね」


 そう言ってアンナは長い耳をぴこぴこさせる。


「アンナは、エルフ?」

「うん、そうだよ。あー……しまった、耳隠すの忘れてたよ」

「……なぜ?」

「莉緒ちゃんの街では……エルフを見た事あるかな?」


 私は転移してきてからの記憶を辿ったが、それに該当する光景は見た事がなかった。


「……ううん」

「そっか、そもそも純血のエルフは珍しいからね。珍しくて貴重だから一部の人間は、私みたいなエルフを……欲しがる」

「……アンナ?」

「あ、ごめんね!えっと、何の話だっけ?」

「エルフを、見た事があるか、だよ」

「あぁごめん、そうだったね。エルフは昔は多く存在していたけど、その数は年々減り続けているの。人間と結ばれるエルフも多いから。でも、エルフは迫害の対象であり、それは今も色褪せてはいない」

「いじめ、られるの?」

「昔はエルフは奴隷の象徴だったからね。それの名残がまだ根強く残ってるんだよ。私もここ80年くらい、細々と生きてきたし」

「!?……80?」

「あ、驚いた?エルフは長命なんだ。正確には私は今83歳なんだけど、エルフから見ればまだまだ若者なんだから」

「……すごい」

「あはは。でね、兄さんは私とは腹違いなんだ。私達のお父さんはエルフで、兄さんのお母さんが人間。兄さんのお母さんが亡くなってから再婚したエルフが私のお母さんなんだ。ごめんねややこしくって」

「だから、ハーフエルフ?」

「そうだね。ハーフエルフの特徴はエルフと違って短命……と言っても人間よりは遥かに長生きなの。それに、特異な能力を授かる場合が多い。兄さんの場合は、状況によって感覚が鋭くなるって言えばいいのかな?手先であったり五感であったり、それを応用して料理人をしているの」

「それで、あの王様に……目をつけられた?」

「そうだね。人間の振りをして、少し長く同じ街で露店を開いていたんだけど、噂を聞きつけたアルダの人間に連れてこられたの」


 やっぱり、状況的には私達と同じだ。


「救いと言えば、兄さんは料理の腕を認められ、ここではエルフやハーフエルフだからと迫害されない事かな。もちろん、早く帰りたいのは事実だけど」

「それは残念だなぁ。お前らは陛下に気に入られるか、実験サンプルかの二択だよ」


 いつのまにかドアが開かれ、そこにはノルヴァさんと一緒にいた騎士ーーゲイルと呼ばれていた騎士が立っていた。ニヤニヤとしながら、ゆっくりと部屋に入ってくるなりアンナの前に立った。


「……なんですか?部屋に入る時はノックくらいーー


 パシン。


 乾いた音が響く。


「あ?何なに、エルフのクセに俺に意見すんの?ノルヴァが客人みたいに扱うから図に乗りやがってよぉ」

「…………ッ!」


 赤く腫れた頬を抑え、アンナは眉をひそめてゲイルを見上げた。しかしそれが、彼の気を逆撫でしたらしい。


「あーそうか、いやいや悪かった。俺だってお前がエルフだからって差別なんてしねぇよ?ノルヴァの野郎も今は居ねぇから助けも来ねぇ。それに俺は、気の強い女は嫌いじゃない。おら、もっと反抗してみろよ!?」

「!?ーーや、やめて下さい!」


 アンナをソファーに押し倒し、馬乗りになって頭を抑え込む。抵抗を見せるアンナを面白そうに見下ろし、ゲイルは下卑た笑みを浮かべた。


「そういやぁエルフなんてレアだよなぁ。くくっ、なら俺も少し味見させてもらおうか?」

「さ、触らないで!!」

「や、やめーー」

「あ?ガキはすっこんでろよ!」

「きゃッ!?」

「莉緒ちゃん!?」

「大人しく見てろって。ガキじゃなけりゃ、お前も味見してやれたんだがよぉ。生憎俺はガキに興味はねぇんだわ」

「くッ……」


 吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。その所為で意識も少し朦朧としていた。ダメだ、このままじゃあアンナが……。


 なんでこんなひどい事をするの?


 なんで、こんな、こんな……。


 ーードクン。


(あれ?おかしいな……お腹、空いてないのに)


 ーードクン!


(黒いものが……溢れて、くる)


 ーードクン!!


「おさ……まらな、い」

「あぁ?何ワケの分からない事いってんの?ガキだから大目にみてたけどなぁ……」

「ーー触ら、ないで」

「あ?……ーーーーッ!?」


挿絵(By みてみん)


 近づくゲイルを思い切り振り払う。彼はまるで紙切れの様に吹き飛ばされ、壁に亀裂を生みながら叩きつけられた。


 ーー渦巻く黒い感情。


 そう、これはお腹が空いていた時、魔王さんの力に近づいた時のものだ。

 いけない、私、魔王化してるんだ。ならオルクスの料理を食べなきゃ。リュックから小さな箱を取り出し、私はその中のサンドイッチを頬張った。


「…………」

「ーーッ痛ぇな!!意味わからねぇ、急にキレだして、いきなり飯くってんじゃねぇよ!!」

「……あ、れ?おかしいな」

「そうだよオカシイんだよガキが!もう関係ねぇ、斬り捨ててやるよ!!」

「莉緒ちゃん!逃げて!!」


 魔王化が収まらない。

 スキルボードを開くと、魔王のランクは30を示していた。料理を食べても、それは下がる事はない。

 ゲイルは剣を抜き去り、躊躇なく私目掛けて剣を振り下ろした。しかし、それは私に届く事は無く、刀身の中程で砕けて折れた。


「……は?」

「莉緒……ちゃん?」

「……これは、この力は」


 黒い影で形成されたフォークを思わせる三又の爪、そして全てを断ち切るナイフの様な刃。

 それは魔王の力が淡く具現化していた時のものではなく、明確な形を成してゲイルの剣を打ち砕いていた。


挿絵(By みてみん)


「ああ……そうか、心が……飢えてるんだ」

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