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起源

 

「起源の……勇者……だと?」


 右肩を両断されたラースは困惑の表情を浮かべている。今まで圧倒的に有利な立場にいた筈の自分が、一転して窮地に追いやられているではないか。

 眩いコート状の聖衣を纏った楓矢だが、口調がガラリと変化し、瞳には怪しげな光がぼんやりと揺らめいている。ラースが本能的に感じた恐怖は間違いなくその瞳から発せられていた。


「この身体も存外、悪くないね」

「答えろ……起源の勇者とはなんだ!」

「ん? 言葉通りさ」


 そう言いながら楓矢は聖剣を翻すとラースの左肩が音もなく斬り落とされた。


「!!!?!?」

「魔神は魔王に呼応して生まれるというが、長い歴史の記憶は引き継いではいない様だね」

「な……んの事、だ」

「おや、見せかけの体でも痛みはあるのかい? それは悪い事をした」


 ゆっくりと歩み寄りながら、楓矢は聖剣に手を翳す。


「や、やめろ!」


 聖剣に亀裂が走り、そのまま砕けたかと思うと五つの細身の剣へと生まれ変わった。新たな姿となった聖剣は浮遊しながら、楓矢の背後に円を描いて展開される。


「悪しきを穿てーーーー【ライズ・ペンタグラム】」


 翳した手が開かれると同時に背後の聖剣は天に昇り、一瞬のラグを置いてラースに降り注ぐ。胴体を貫き、足を斬り裂き、首を抉る。楓矢はその無惨な光景が繰り広げられるのを感心のない表情で眺めながら、ラースが立っていた背後に視線を移した。


「呆気ないね……でも、向こうは面白そうな事になってるじゃないか」


 鈍く光る空間の揺らぎ。

 そこには、炎の剣を掲げて魔神と戦う男の姿が映し出されていた。対峙する魔神は先のラースと同じく、莉緒の身体を模した義体に定着しているらしい。

 全身を漆黒の外殻で覆っており、両手を変化させたナイフとフォークでオルクスを窮地に追いやっていた。


「……なるほど、お前はまだその程度なんだね」


 五本に分かれた聖剣を束ね、鞘に収めるとそう吐き捨てた。


「僕は待つよ、いつまでも。君がーーーー」


 ガクリと膝をつき、楓矢を支配していた意識が途切れる。やがて虚空に響く声は、遥か遠くに霞んで消えた。


『君が真の意味で目覚めるまでは、ね』

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