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魔物の巣窟

 


 ▪️奈落の果てにて



「……相変わラずの様ダナ」


 骸骨の仮面を付けた魔物の神官は遥か頭上に続く闇を見上げた。

 灯のない空間。そこで見えるものなど殆ど存在しないが、その魔物はただ一点に視線を結び、細く痩せ細った指で額の辺りをカリカリとなぞった。

 炎の魔法で左手に灯りを灯すと、周りでこうべを下げていたらしき複数の魔物達が明るみに晒される。

声を発さずに静寂を保っている辺り、この骸骨神官の魔物としての階級は高いと見えるだろう。


「……魔王サマ」


 神官はそう呟き、遥か奈落の底に存在する君主に憂いの視線を向けた。

 魔王。

 それは魔族を統べる王にして世界の災厄。

 魔王は古来より何もない空間に突如として現れ、存在を世界中の魔物に認識させるという。魔族の血に刻まれた潜在意識ーーーー自分達の上に立つ者を無意識に理解する本能。

 そして、この魔王の誕生は魔物達に変化を与えた。

 元から力を持った一部の魔物は高い知識を得ると共に“魔神”として覚醒を果たした。人語すら理解し、下級の魔物を統率したりと、魔物の域を超えた存在へと。


 そしてこの仮面の神官ーーーー魔王の腹心として覚醒した悪魔神官ゴルドは途方に暮れていた。

 ひたすらに魔王の目覚めを待っている。

 本来、魔王は誕生と共に人間を屠るために覚醒するのだが、この魔王は誕生こそしたものの未だにその眠りから醒める気配がない。

 奈落の底で眠ったまま、静かに飢餓の魔王として目覚めの時を待っていた。


「失礼します」

「ン……なんダ、貴様か」


 ゴルドは闇の中で炎を揺らし、現れた新たな魔物の顔を照らした。

 その魔物は黒曜石の様な肌と真紅の瞳をしており、外観は極めて人間に近いものだった。

 しかし、この者は魔神でも無ければさほど強い訳でもなく、人間の様な姿、趣味趣向。彼は黒のスーツを好んでおり、それがゴルドの不快さを助長させた。


強さで序列が決まる魔物の世界。不要と判断されれば即断罪が基本である。魔物の棲家で人間を装う、愚行としか思えない。

魔王の御前にて不敬極まりないものに思えたが、ゴルドは彼を殺すことは出来なかった。


 その理由は彼の持つ無限の生命エネルギー、つまり、眠ったままの飢餓の魔王が生命を維持する為の()()()()()


 魔王はゆうに10mを超える巨躯を持つ。対して彼は180㎝ほどしかなく、その差は歴然だった。そんな彼が魔王の餌になり得るのだろうか?

 否、彼の存在の全てはそこにあった。


「…………」


 魔王の足先に触れる。

 するとその刹那、彼の身体から凄まじい勢いで生命エネルギーが抜き取られていく。魔王の意思は未だ虚無の中だが、飢餓の魔王としての捕食活動は衰えていないらしい。

 普通の魔物なら肉体が崩壊するレベルのライフドレインだが、彼は苦痛どころか、どこか恍惚とした表情で受け入れている。


「終わりました」


 時間にして丸五時間。

 並の魔物換算でおおよそ五万に匹敵する生命エネルギーを吸い取ると、魔王はドレインを止め、再び静寂の中に溶け込んだ。


「ご苦労ダッタ、退ガレ」

「……かしこまりました」


 眠り、貪り、そしてまた眠る。

 彼は去り際に君主を見上げ、無限すら食い尽くそうとする飢餓の意思に打ち震えた。


「全ては、来るべき飢餓の為に」

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