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ハーメルン

 

 ▪️見据えたものは


「俺の名はグラウ・バーディア。『ハーメルン』という小さなギルドでマスターをしている者だ。よろしく頼む」

(ハーメルン……それにグラウ)


 グラウと名乗った男は豪胆に笑いつつオルクスに手を差し伸べた。警戒しながらこちらも手を伸ばすと、ガッと掴まれ固い握手を交わす。

 ギルド名もグラウという名前も聞いた事がある。殆どのギルドが街の自衛団に近い体制を取っている手前、主な依頼は魔物の討伐である。

 しかしハーメルンは採取や運搬など多岐に渡っており特殊な部類と言えるだろう。


 そして一際曲者とされているのがギルドマスター、つまりこのグラウという男だった。

 オルクスも実際に会うのは初めてだが彼の噂は耳にした事がある。広い人脈、鋭い洞察力と判断力に優れ、敵に回すと非常に厄介な人物であると。


「折角だから少し話でもしないか? 俺達もこの屋敷には依頼で来たんだ」

「俺は……」

「さあ座れ、後こいつも紹介しておこう」


 半ば無理やり引き摺られる形でソファーに引き寄せられる。すると、ソファーの影からひょっこり赤いバンダナが姿を見せた。


「ダンナ、そいつ誰です?」


 赤いバンダナの正体はひとりの少女だった。

 年齢は十七かそこらだろうか。チューブトップにブカブカの大きな長ズボン姿。やや跳ねた肩までの燻んだ金髪を揺らし、ジッと三白眼な大きな瞳をオルクスに結ぶ。

 少女はそのままソファーから立ち上がると、品定めでもする様にオルクスの周りをグルグル回った。


「悪いな、こいつはペトラっていって俺の弟子なんだ。見ての通り育ちは良くないが、目利きだけは確かだ」

「む、誰の育ちが良くないっていうんですか」

「まあお前はしばらく黙っててくれ」


 グラウはペトラの頭をガシガシしながらソファーに押し込む。喚くペトラを他所にグラウもその隣に座ると、対面の席へとオルクスを座らせた。

 コーヒーを一口だけ飲み、一息吐いて視線を上げる。


「ここからは仕事の話をしようじゃないか」

「仕事だと?」

「ああ、単刀直入に言えば“協力しよう”って話だな」

「意味が分からない。こちらは別に協力する理由が無いんだが」

「これは破格の条件だぞ? メリットは俺達よりお前の方が大きい」

「ふん」


 いきなり何を言うんだ。

 オルクスは目の前の大男の身勝手な提案を鼻で笑った。


「ふむ、やはり説明しなければ話は進まんか。と言うより……今の認識ならお前は何も知らないらしい」

「なんだと?」

「じゃあ話してやる。このラングウェイ家のタブー、令嬢ソラスの話をーーーー」


 そう前置き、グラウは声を顰めた。


 ◆


 ソラス・ラングウェイ。

 ラングウェイ家の令嬢でありボリスのたった一人の娘である。幼い頃に母親を亡くし、それ以来ずっと心を閉ざした。

 ボリスはそんな娘の為にありとあらゆる策を講じたが、どれもソラスの心を開くには至らなかった。

 そして多くの人間の頭を悩ませたのがソラスの魔法の才能であった。父親譲りの魔法のセンスは本物で、幼いながらも上級魔法を扱える程の天才である。

 部屋に篭ったソラスはボリスが書いた著書だけに留まらず、更にはその師であるライネルが構築した魔法理論すら理解していると聞く。


 人を遠ざけ、魔法に没頭する日々。


 さもありなん、部屋には人を拒絶する為の強力な魔法結界が張られ、今では屋敷の人間すら顔を合わせる事すら叶わない。

 食事も部屋の前に置く始末で、最低限しか口にしていないと執事テノスは語っていた。

 更に状況が悪かった。


 屋敷の主であるボリスが体調を崩して寝込んでいるという。

 娘の事、領地の事、そして魔法のスペシャリストとしての責務。それらが重圧となり倒れたらしい。


 ◆


「と、まあこんな感じだな」

「……つまり、ソラス嬢に辿り着くだけでは依頼は完遂できないと言いたいのか」

「お前の依頼はソラス嬢の食事について、俺達はボリス伯と屋敷の面倒。どうだ、お互いに協力した方が良いだろう?」

「…………」

「決まりだな」 


 グラウは再び立ち上がり、オルクスの前に顔を近づけた。


「しばらく頼むぞ、オルクス・フェルゼン」


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