プロローグ
▪️違えた道
ギルド裏手の空き地にて対峙する二人の青年。
片方は軽装を纏った冒険者の剣士だ。後頭部で纏められた青い髪は風に靡き、張り詰めた空気だけがその場を支配している。そして剣を構えたまま、静かな闘志を宿していた。
しかし、相対する青年の姿は目を見張るものだった。
冒険者は魔物の攻撃から身を守る為に鎧を纏うのが一般的だ。だが青年は見慣れぬ布製の衣服に身を包み、風貌に似付かぬ大層な剣を鞘に収めたまま肩に乗せていた。
表情からは面倒臭いといった感情が読み取れ、青髪の青年と明確な温度差が浮き彫りとなっている。
「暑いし帰らねぇか? なんか怒らせたなら謝るぞ?」
「謝らなくていい。ただ……俺の剣に応えてくれればな」
「そういう熱いノリ苦手なんだけど」
「ふん、ならば勇者になった運命を呪えばいいさ」
勇者と呼ばれた青年の言葉は届かず、青髪の青年は剣を抜き去り地を蹴った。
剣戟に続く剣戟の乱舞。凄まじい剣速で繰り出される技は洗練されており、無駄のない軌道を描いて勇者に降り注いだ。
だがしかし、その攻撃が勇者を捉える事はなかった。
「分かんねえかな。聖剣うんぬんは置いといても俺の能力はチートなんだって」
「黙れッ!」
止まぬ攻撃を軽くいなしつつ、勇者の青年は距離をとって聖剣に手を掛けた。
「何かあっても恨むなよ?」
「ああ、それはお互い様だがな」
「……お前やっぱ気にいらねぇわ」
ーーーーキィン。
刹那、聖剣が瞬き青髪の青年の剣を捉える。
あまりに早く俊敏な動き。そして剣の柄からは触れたかどうかも分からない程の感触のみが静かに伝った。
「そんじゃ帰るわ」
「ーーーーッ!?」
勇者は落ちている鞘を拾って聖剣を収めた。そしてそのまま肩に置くと、青年を振り返り静かに呟く。
「……な? ロクな事にならねぇだろ?」
勇者が歩みを始めた瞬間、青髪の青年の剣は刀身の中程で分断され、鋒は無惨にも地面に突き刺さる。
「……なん、だと?」
圧倒的な力の差。
最高ランクの冒険者として生きてきた青年は、初めて大敗という名の屈辱を味わったのだ。
読んでいただき有難うございます。
稚拙な文章ですが、目に留めていただき感謝です。