12話 モンスターを倒せ
俺の防御力は十分高いみたいだが、攻撃力の方はウサギのモンスターにすら全くダメージを与えられないほどに弱いようだ。
旅人という職業のステータスが低いことは分かっていた。
でも、もうちょっとくらい強くてもいいだろ!
「ウギイイ!」
「俺の攻撃も効かないけど、お前の攻撃も効かないんだからな! こうなりゃどっちが根性あるか勝負だ!」
俺はウサギとの根比べに挑むことにした。
「おりゃあああああああ!」
「ウギウギイイイイイイ!」
全力でウサギに殴りかかるが、ダメージを与えられない。
腹、脚、尻尾に耳など、さまざまな部位に攻撃をしたが、無駄だった。
ウサギの方も何度も何度も体当たりしてくるが、俺にとっては痛くも痒くもない。
――疲れだけがたまる泥仕合が数分ほど続いたころ。
「もう見てられないわ、二歳児でももっとまともな喧嘩をするわよ」
「ハティ? いつからいたんだよ!?」
草むらの陰から突如ハティが姿を現した。
ウサギとの戦いに夢中になっていた俺は、ハティが近くに潜んでいたことに全く気が付かなかった。
てか、見てる暇があったら出てきて加勢してくれればよかったのに。
ハティは胸の前で腕を組んで、ため息をつくと。
「私はあえて出ていかないことによってツカサを試していたの、けど、期待外れよ。まさかビッグラビットにダメージを与えることすらできないなんて」
「やめて! それさっき俺がウサギに言った言葉じゃん!」
こいつ、俺とウサギのやり取りを最初から見てたってことじゃねぇか。
まさかウサギを試していた俺がハティに試されていたとは。
……ハティが調子に乗っている俺を見ていたかと思うと、恥ずかしい。
「ぷぷぷ、ツカサってば、あれだけかっこつけて攻撃したのに、虫すら倒せないんじゃないのってくらい弱いパンチだったわね。噴き出すのを我慢するこっちの身にもなってよ!」
ほら、やっぱり。
「誰だって自分が思った以上強かったら調子に乗っちゃうだろ!? 俺だってびっくりしたんだぞ。予定では跡形もなく飛び散るはずだった」
相手だって攻撃を受ける直前は、そうなる未来を想像していただろう。
俺の攻撃では倒せなかったが、ハティが来てくれたからには、もう解決だ。
ビッグラビットはハティが現れてから怯えている。
日常生活では役に立つところがないようなハティでも、戦闘面においては活躍できるみたいだな。
「ハティ、このウサギを倒してくれ。お前の魔法なら楽勝だろ? 燃やせ! 燃やし尽くすんだ!」
「ツカサがさっきまで戦ってた相手でしょ。自分で倒そうって思うようなプライドはないの?」
「俺たちはパーティーだ。協力してモンスターと戦うのは当然じゃないか」
「よくもまぁ清々しい顔して都合いいことが言えるわね。」
何とでもいうがいい、俺は楽をする方が好きなんだ。
ハティは俺に向けて呆れた表情を浮かべているが、そんなこと俺は気にしない……わけじゃない。
自分でも情けないと思ってるからあんまりこっちを見ないで。
ウサギの方に向き直したハティが腕を前に突き出した。
「ファイアーボール!」
「ウギギイイイ!」
ハティの放つ火の玉がビッグラビットの体を包み、燃やしていく。
恐ろしい威力だが、俺が前に食らったやつより火力が弱い気がするな。
今考えてみても、いきなり人に向かって魔法を撃つのは理不尽だろ。
「ツカサはこんなに弱いモンスターにてこずってたのね」
「そんなこと言うなよ。俺が前衛として体を張り、ハティが後衛から魔法を放つ。俺たちの連携による記念すべき初勝利だぞ!」
「ツカサはビッグラビットとじゃれてただけだし、なんなら私一人で余裕で勝てたわよ」
俺の死闘をじゃれてただけって言わないで……。
と、俺は自分の体に力がみなぎるのを感じた。
全身に活力があふれ、明らかに先ほどまでの俺よりパワーアップしている。
今なら一人でモンスターを倒せるんじゃないか?
「なぁハティ、俺、今の戦闘が終わったらいきなり強くなった気がするんだけど」
「それはレベルアップしたってことね。ツカサはとどめこそ刺してないけど、戦ってはいたから経験値が手に入ったのよ」
モンスターを倒せば倒すほど、強くなれるってことだな。
レベルアップを繰り返せば、いずれは俺一人でもモンスターを倒すことができるだろう。
それまでは――。
「俺が強くなるまで、お前らに頼りまくるつもりだからよろしくな」
「よく堂々と他力本願なことが言えるわね。でも、旅人のステータスは低いから仕方ないかぁ……」
「憐みの目で俺を見るなよ。俺だってパラディンとかが良かったんだから!」
俺たちはエコルルとフラシュに合流することにした。
もしかしたら二人もモンスターに襲われているかもしれない。
緑が広がる森の中で捜索を続けていると。
「ねぇ、見てよツカサ! ビッグラビットがこっちに突っ込んでくるわ!」
木々の隙間を縫いながら、大きなウサギがこちらに走ってくる。
あのウサギは他でもない俺たちを狙っているようだ。
「ツカサ! 私を守る盾になりなさいよ! 早くビッグラビットに突撃して! ほら、早く!」
「人使いの荒い奴だな。けど、あいつを止めるなら俺の出番だな」
俺はビッグラビットに向かって勢いよく駆け出した。
白い巨体が目前に迫り、ぶつかると思った瞬間。
ビッグラビットは急ブレーキをかけて、俺にぶつかる前に止まった。
こんなに気合い入れてたのに止まられちゃうと、それはそれで困るんだけど。
「やっと見つけたよ!」
ビッグラビットの背中から、フラシュがひょこりと顔を出した。
その後ろにはエコルルも座っている。
「なんでモンスターの上に乗ってんだよお前ら」
「薬草集めてたら、出会ったんだ。せっかくだから背後とっとこうと思って背中に乗ったら、言うことを聞いてくれたよ」
背後って、せっかくだからとっとくものなのだろうか。
フラシュの後をエコルルが続ける。
「その後、私がビッグラビットに乗ったフラシュと会いました。私も最初はフラシュが乗っているとは気づかず、ポーションを投げちゃいそうになりましたよ」
「あの時のビッグラビットの怯え方は尋常じゃなかったよ。なんでだろうね?」
「どう考えてもエコルルのポーション一択だろ」
野生の勘がポーションの危険を感じ取ったんだな。
俺が災難な目に会ったビッグラビットに同情していると、ハティがビッグラビットに近づいた。
「それで、このビッグラビットは燃やすの? 燃やさないの? とっとと決めちゃってよ」
「俺がお前らからこいつを守る!」




